表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくら駆ける夏  作者: 桜坂ゆかり
第三章 東京編
PR
13/44

酒井さんと本間さん

 酒井さんは、また先頭に立って、私たちを誘導してくれる。

 八重桜さんの話によると、酒井さんが私のブログを発見してくれて、八重桜さんに知らせたらしいし、八重桜さんの事情も私の事情も知っているはず。

 それなのに、この場でその話題を振らない気遣いに、プロフェッショナルさを感じた。

 さっきの話し合いでは結論が出ず、今その話を振られても歯切れのよい答えはできないので、私としてはすごくありがたい。

 酒井さんにエスコートされ、涼君と私は、来たときと同じエレベーターに乗り込む。

 酒井さんはエレベーターの「一階」のボタンを押した。




「さて、また駅までお送りしますね」

 駐車場まで歩いてきて、酒井さんが言った。

「よろしくお願いします」

 私がそれを言い終わった瞬間のことだった。

「おーい!」

 背後から誰かが叫んだみたいだ。

 酒井さんと涼君と私は、全員、一斉に振り向いた。


 緑がかったスーツを着た男の人が、私たちのほうに向かって走ってきていた。

 声の主は、どうやらこの人だったみたい。


 長いもみあげが印象的な人だった。

 年齢はパッと見、よく分からない。

 酒井さんや八重桜さんと同じくらいかな。

 しかし、走るフォームはダイナミックで、二十代と言われてもうなずけそうなほどの、身体のキレだ。

「酒井さん! よかった、間に合った! 会長より、急いで社長室まで来てくれとの伝言です!」

 息を切らしながら、その男の人が言う。

「え? 私はこれから、こちらのお二方を東京駅まで送っていかないといけない予定になっているのだが……。君のその服、運転手のものだね。ああ、そうか。君が今日から入ったという本間君かな?」

「はい! 申し送れましたが、本日より運転手として勤務いたします本間です! よろしくお願いいたします」

 元気良く言う本間さん。

「ふむ、よろしく。それで、会長がお呼びだって?」

「はい! 重要なご連絡がおありだということで! それで、お二人を東京駅までお送りする業務は、私が代わって行うように、と頼まれました!」

 本間さんと呼ばれた人は、肩で息をしながらも、声はすごく大きかった。

 元気いっぱいな人だな……。

「そういうことなら、よろしく頼んだぞ。くれぐれも気をつけてな。万が一にも、事故などは決して起こさぬように」

「はい! もちろんです!」

「そういうことで……」

 ここで酒井さんは、涼君と私の方へ向き直って言う。

「申し訳ありませんが、会長がお呼びということで、私はこれで失礼いたします。そこにおります本間が、責任をもって、駅までお送りしますので、ご安心くださいね。それでは、また近いうちにお会いできることを楽しみにしています」

「あ、はい、色々とすみません。酒井さんもお気をつけて」

 私は頭を下げた。

「それでは、また」

 涼君もそう言って、軽く頭を下げる。

 酒井さんも軽く一礼してから、ビル入り口の方へ足早に引き返していった。




「はじめまして、運転手の本間と申します!」

 元気よく挨拶されたので、涼君も私も挨拶を返した。

 本間さんは素早く車のドアの前まで移動すると、ドアを開けながら私たちの方を向く。

「それでは、どうぞお乗りください」

 私たちは「失礼します」と言いながら乗り込んだ。

 本間さんは、元気の良い動きや声に似合わず、そっとドアを閉めてくれた。

 そして軽やかに運転席に飛び乗ると、シートベルトを締める。

「それじゃ、出発しますね!」

 また大きな声でそう言うと、本間さんは車を発進させた。




 車中では、本間さんが運転席にいるということで、私は当たり障りのない話題を選んで涼君と話していた。


「来週は、他校との練習試合だ。頑張ってくるよ」

 涼君がそう言ったときだ。

 突然、本間さんは「ああ~」と言いながら、路肩に車を止めた。

 どうしたんだろう?

 辺りを見回すと、時間帯のせいもあるのか、人通りはほとんどなかった。

 知らない土地に来ているので、そこがどこなのかとういうことはもちろん一切わからない。

「すみません、道を間違えたみたいで」

「え~」

 本間さんの言葉に、涼君と私は同時に声を上げてしまった。

 そういえばこの車にカーナビがついているのに、起動されていない。

 てっきり、道順を本間さんが頭に入れているからだと思っていたんだけど。

「カーナビを使わないんですか?」

 私は聞いてみる。

 そのとき―――。


 車外から人声がしたかと思うと、涼君の座っている横、歩道側のドアが突然開いたので、私は飛び上がるほど驚いた。


 次の瞬間、屈強でムキムキな男の人が、ヌッと歩道側のドアから身体を入れてくると、あっという間に涼君を抱きかかえるように運び出してしまった!

 涼君もがっしりした体格なのに、それをものともしない一瞬の早業だ。


 私は暴れて声を上げようとしたが、運転席から本間さんが身を乗り出すようにして、私の口と左腕をおさえてきたので、じたばたすることしかできなかった。

 横目で歩道を見ると、必死に抵抗する涼君を、さっきの男の人と、同じような体格の男の人が、二人がかりで押さえつけようとしている。

 私は口をふさがれて声を上げることができなかったので、車外へ逃れようと必死にもがく。

 しかし、どこからか三人目の男の人が現れ、ドアを閉めてきた!

 歩道で必死に抵抗する涼君は、「さくらちゃんをどうする気だ」「さくらちゃんを放せ」と叫んでいる。

 私も懸命に本間さんを押しのけようとしたが、本間さんは電光石火の早業で、私を押さえつけるのをやめて運転席に座りなおすと、急いで車を発進させてしまう。

 口も身体も自由になったので、私は叫んで暴れた。

 本間さんは、あんな行為をしていたとは思えないほど落ち着いた声で「静かにして」と言う。

 そんなこと、聞き入れられるわけがなかった。

 だけど、私にはどうすることもできず……。

 あっという間に、車はスピードを上げ、涼君や三人の男の人たちがいた場所から離れていってしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ