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こんな夢を観た

こんな夢を観た「カボチャの歌」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/10/18

 お椀を伏せたような山で、どこもかしこも真っ黒だ。突き出した岩も、落ちている石も、ぼしょぼしょと生える草までもが、消し炭のように黒い。ところどころに立つ木には1枚の葉もなく、まるで影絵の描き割りそっくり。

 そんな山を、わたしはてくてくと登っていた。すべてが黒いものだから、雲1つない空から降り注ぐ太陽の光はすっかり吸収されてしまう。

 思い出したように道標が立っている。

 〔コンサート会場まで、あと500米〕

「もうちょっとだ。やっと、目的地に到着する」わたしはホッとしてつぶやいた。

 山のてっぺんにある会場で、この日、わたしは歌を披露することになっていたのだ。


 頂上に辿り着いてみると、真っ黒い原っぱの真ん中に、雪花石膏でできた大きなコンサート・ホールが建っていた。白亜の殿堂は、昼と夜が同時に生じたかのような、謎めいた彩りを作りだしている。

 中央に噴水がある中庭へと入ると、建物の奥からタキシードに身を包んだ、背の高い人物が現れた。首の上には、目鼻、口をくり抜いた、緑色のカボチャが載っている。

「お待ちしておりました、むぅにぃ様。さぁ、中へお入り下さい」カボチャ頭の紳士はうやうやしく一礼し、わたしを招き入れた。くり抜かれた奥を、ちらっとのぞくと、どうやらがらんどうらしい。


 小さいけれど、こざっぱりとした控え室で、わたしは身支度を調える。

 衣装棚を開けてみると、ビロードのマントが数着、並べられていた。青や緑、赤とそろっていたけれど、どれもほとんど黒と言っていいほど濃い色をしている。

「やっぱりブルー・ベルベットかなぁ」わたしは濃い青のマントを取って、はおる。滑らかな肌ざわりが心地よかった。

 

 壁を通して、出演者の歌がかすかに聞こえてくる。順が来れば、スタッフがやって来て、ドアをノックするはずだ。

 ふいに、自分が緊張していることに気付く。

 うまく歌えなかったらどうしよう。途中で歌詞を忘れたり、つっかえたりしたら?

「ううん、この日のためにさんざん練習したじゃん。きっとちゃんと、最後まで歌える」

 声に出して、そう自分に言い聞かせるのだが、意識をするほど、ますます不安になっていく。


 コンコン、と戸を叩く音がした。ああ、ついにわたしの番が回ってきたのだ。

「はい……」少し震える声で返事をする。

「むぅにぃ様、そろそろ順番でございます。舞台の袖にお入り下さい」そう、カボチャ頭のスタッフが言う。さっき出迎えてくれた者とは、目鼻のくり抜いた形が異なるので、別人だとわかる。ニヤッと開いた大きな口の向こうは、やっぱりすっからかんだった。顎にくっついた種が、このカボチャ人間の性格そのものを表している気がした。

「あ、はい。すぐに行きます」わたしはマントを見直し、糸くず1本、ほこり1つないことを確かめた。


「それでは、エントリー・ナンバー21番、むぅにぃさん、ご登場願います!」

 名前を呼ばれ、わたしは暗い舞台袖から、まぶしいステージへと歩いていく。

「むぅにぃです。『秋といえばやっぱりカボチャ』を歌います」わたしはマイクに向かって言った。「あきもふかまるぅ、とつきとおか~、よいよい、はぁ、よいよい。あれに見~えるは、かぁ~ぼちゃじゃないかぁ~」

 目が慣れるにしたい、薄暗い観客席がだんだんと見えてくる。

 隅から隅まで、すっかり席が埋まっていた。どの客も、オレンジ色をしたパンプキン頭である。

「かぼちゃ~、それはぁ~あきのしゅうかくぅ~ううぅ……」

 歌いながら、(なんだ、カボチャ相手なら、緊張する必要なんか、これっぽっちもなかったな)

 そう考えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも思うのですが、夢野さんの自然体の文章が好いです。そういえば、「ブルーベルベット」と、いう古い映画がありました。。
[一言] 夢野さんのカボチャの夢はいったいどんなだろう…とわくわくしていたら、まさかの和風仕立てでびっくり! お椀を伏せたような山、という表現が可愛らしくて好きです。 カボチャ相手にカボチャの歌を披…
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