乙女ゲームで百合ルートを攻略します!
昔から私は変だった。
例えば一番最初の一人称が俺だったり、男に交じって遊ぶのが好きで女の子たちの体を見て恥ずかしがったり。
体は女なのに、心は男みたいな反応をしていた。
お父さんたちは私が性同一性障害なのかと心配して色々と調べてくれていたみたい。
でも問題は解決しなくて、私は中学生まで随分と悩むことになった。
中学生になって、私は女性に慣れたと言うか、開き直ったと言うか。
私も女の子になんだから、女の子を愛でればいいじゃない! と、言う風に思うようになったのだ。
異性だと迂闊に触れないけど、同性なら触っても怒られないもんね。
それからはもう、この世の春だった。
なにせ、自分で言うのもなんだけど私の容姿は超一流。頭もよく運動も出来たので、女の子たちからの人気は元々高かった。
だからちょちょいと淑女の演技をしてやれば――簡単にお姉さまと慕ってくれた。
うははははは、中身はほとんど男だけど見た目は可愛い女の子だからね。ちょっと悪戯しておっぱい触っても、チュッて頬にキスしても、更衣室でじーっと裸を眺めても犯罪じゃないんだもんねっ。
そう、中学時代は本当に最高だった。中学時代は。
そんな私の生活が一変したのは高校生になった時だ。
親の希望を受け、私は私立の花園学園というところに入ることになった。まぁこの辺ではかなりランクも高く、教育に力を入れているところなので私に相応しいところではある。
何より女の子たちのランクが高く、美少女が集まることで有名な学校でもあるのだ。これは、高校生でも美少女を侍らせるチャンス! とばかりに受験した。
あっさり合格した。
そして入学式当日、私はすべてを思い出していた。
ここ、乙女ゲームの世界、です。
花園学園~貴方にただ一つの愛を~というタイトルのゲームで、相川 ナズナという少女が主人公で、その主人公が十人の男の子たちと恋愛する普通の乙女ゲームだ。
そして私の名は、相川 ナズナ。そう、私は主人公だったのです!
それに気づいたとき、私は絶望した。心底、絶望した。
だって私の周りに男の子が集まって、その男の子と恋愛をしなきゃいけないんですよ!? 冗談じゃないです。
何せ私の前世は男の子。生粋の男の子なんです。
当然、好きなのは女の子。エロイことだって当然想像しました。
そんな私が、男を愛せるわけがない!
だから昔から男に対して恋愛感情が浮かばず、女の子を愛でていたのね。なるほど納得。
さて、思い出したところで行動に移すとしようか。
あ、言っておくが男を攻略する気は、ない。そんなのいらない。
でも攻略キャラクターの一人を攻略するよ。
ただし、女の子だけどね!
名を綾先 ナデシコちゃんといい、このゲーム唯一の同性の攻略キャラなのだ。
茶道の家の出で、烏の濡れ羽色と言っても過言ではない艶やかな黒髪を腰くらいまで伸ばし、優雅な物腰でお茶をたてているのがとても似合う女の子だ。少し病弱でプールとかはいつも見学しているのがちょっと欠点だけど、病弱キャラがまたそそるものが有ってね。
前世の私をメロメロにしたキャラクターでもあるんだよ。なんで水着のスチルがないんだよ! って文句を言ったくらいには彼女にほれ込んでいたと思う。
私が嫌々乙女ゲーをやらされているときの清涼剤だった。いや、ホントこの子がいなかったら投げてたと思う。罰ゲームで、全キャラ攻略しなきゃいけなかったんだけどね~。
最後の最後、EDの時にゲットできる『ずっと一緒にいようね……愛してるよ、ナズナ』というスチルは特に最高だった。病弱で小柄なナデシコちゃんが主人公を押し倒し、唇を奪うんだよ。
このED後から彼女の容体は回復に向かい、成人後は主人公と共に茶道を続けながら株とかで大成功するらしい。主人公は専業主婦。そんな未来が待っているんだとか。
最高じゃないか。私にとっての、理想の未来だ。そういう可愛い女の子とラブラブでイチャイチャな日々を過ごすことこそ、私が望んでいるもの。
さぁ、そうと決まったらさっそく行動を起こそうじゃないか!
私とナデシコちゃんの出会いは入学式のあとに起こる迷子イベントで起こる。
学校を探検してみよう! という主人公の強い好奇心が起こしたもので、うろうろしているうちに中庭へたどり着き、そのうちに立ちくらみで倒れているナデシコちゃんを見つけるところから始まるのだ。
この前に図書館へ行くと図書委員の攻略キャラに会い、その後に生徒会室へ行って生徒会長に会うというイベントもこなせるのだが、私は無視した。野郎のことなんてどうでもいいので。
教室に残っていると教師とのイベントが発生しちゃうので私は中庭にほど近い食堂の自販機の前で暇をつぶすことにした。
持っててよかった携帯ゲーム。この世界はモ〇ハンも出ているので暇つぶしには困らない。今やってるのは某世界一有名なキャラクターがゴルフをやるゲームだけど。
しばらくそれで暇をつぶし、樽大砲にボールが入らず3連続OBかましたので電源プッチして切り上げることにし、一度中庭へ様子を見に行くことにした。
日の傾き具合もスチルの時と同じような感じになっているし、きっと大丈夫だろう。
ひょっこりと裏庭を覗く。すでに下校時刻を過ぎているので、人はいない。ナデシコちゃんはこの誰もいない裏庭の中央付近に倒れているはずだ。そう思ってグングンと進む。
ズンズンと進んでくと、いたいた。予想通り、ナデシコちゃんがぱったりと倒れている。
その姿を見て私は――ズッキューンと効果音が鳴る勢いで撃ち抜かれた。
ああ、ああ、可愛い。可愛すぎるよぅ。
青い顔をして倒れているところすら美しいんですけど! これは、やばい。鼻血でそう。
でも、しっかりしなきゃ。ナデシコちゃんを私のものにするためには、しっかりやらないとダメ。ナデシコちゃんが私以外の物になるなんて嫌だもの。失敗なんて、出来ない。
「ちょっと君、大丈夫!?」
勇気を出して、ナデシコちゃんの元へと駆け寄る。
抱き上げると、ふわりといい匂いがした。うわぁ、なんか、ドキドキしちゃう。
「う……ん……」
私が触れた衝撃でナデシコちゃんが目を覚ました。黒真珠みたいな瞳が、私を捉える。それだけで、私の心臓はドキドキドキドキなって、破裂しちゃいそうだ。
最高の眺めだし、スチルそのままって言うシチュエーションも超興奮する。
「あら……私、また倒れてしまったのですね……。すみません、ご迷惑をおかけしましたわ」
はうぅ。声もそのままだぁ。可愛いよぉ。
「ううん。それより、大丈夫? 保健室行く?」
ちなみに私は大丈夫じゃありません。鼻血でそう。動悸で頭がくらくらする。眩暈しそう。
えへへへへへ、外面は取り繕ってるけど内面は完全にアウトな状態なのですよ。
中学時代、可愛い子で耐性をつけてなかったら即死だった。ありがとう、澪ちゃん。ありがとう、桃子ちゃん。貴方たちのお陰で、私は生きてます。
「だ、大丈夫ですわ。少し休めば、よくなります」
さて、ここでゲームだと選択肢が出る。
そう、分かった。と言って立ち去るとフラグが立たず、そんなこと出来るわけないよ! と言って保健室に連れて行くと好感度がプラスされる。
勿論選ぶのは、後者だよ。
「そんなこと、出来るわけない。こんな可愛くてきれいな子が倒れそうになってるのに放置したらどんな目に合うか! きっと見ず知らずのおっさんに誘拐されちゃうよ! 私だったらその場でお持ち帰り……はっ!」
おおっと、いけないいけない。本音が駄々漏れになってしまうところだった。
ここは乙女ゲーの世界観だけど、乙女ゲームではない。失言したらそれでマイナスになるんだぞ。注意しなきゃいけないんだぞ。
特に私は女で、しかも美少女なんだから。そんなお持ち帰りとか怪しい言葉を言っちゃいけない。
「ととと、とにかく! 保健室です、保健室! 大丈夫ですよ、保健室のベッドであんなことやこんなことをやろうとか全然考えてませんから、全然!」
「え、ええと……すごく不安なのですが、お任せして大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫です。だって、保健室には保険医がいますから」
先生がいたら手が出せるわけないじゃない。
まぁ、お姫様抱っこで運ばせていただきますけどね! 生足すりすりとかちょっと訳得なことさせてもらいますけどね!
直接手を出そうとは思ってないので、安心してください。うん。
それから、私は毎日ナデシコちゃんと超充実した毎日を送った。
ナデシコちゃんと一緒に茶道部へ突撃したり、100m走で実力を見せつけたり、相合傘で一緒に帰ったり、更衣室でナデシコちゃんをぎゅーって抱きしめたり、ナデシコちゃんに触ろうとする不良を撃退したり、一緒にお菓子作ったり、体育祭で大活躍してナデシコちゃんに褒められたり、文化祭で一緒に野点したり。
もーナデシコちゃんが可愛すぎて困る。ホント。
あ、他の攻略者ども? なんか別の子が逆ハー狙ってはべらせているみたいだよ。私と同じ転生者なのかな、イベントを相当数やっているみたい。
まぁ本編の逆ハールートにナデシコちゃんは含まれない存在なので、どうでもいいけどねー。私とナデシコちゃんに関わらないのなら、全く関係がないのですよ。
そんなこんなであわただしく季節は巡り、もう十二月になりました。
十二月と言えばクリスマス。クリスマスと言えば、告白イベント。そう、私はついにここまでやってきたのです。
ナデシコちゃんのイベントはほとんどやったし、それ以外の部分でも超親しくしていたので好感度はかなり高いと思うんだ。
だからきっと大丈夫。私はそう思いながら、クリスマスプレゼントを用意し、ナデシコちゃんの家に来ていた。
そう、ナデシコちゃんへの告白イベントは、ナデシコちゃんの家で行われるのですよ。それも、ナデシコちゃんの部屋で!
でもここで浮かれちゃいけないんだ。
ナデシコちゃんへの告白イベントを成功させるには、その前にあるご両親も含めたクリスマスパーティで、ご両親に好印象を与えなきゃいけない。
最近、失言が多いとなんとなく理解したので、注意しなきゃいけなかった。ナデシコちゃんは、笑って許してくれてたけどさ。ご両親には、そうはいかないでしょ。
何せ非生産的な世界に巻き込んじゃうんだもんね。きちんといい印象を与えておかないと。
ということで私は頑張った。省略するけど、頑張った。
若干、失言してしまった部分はあるけど、点数でいえば八十点くらいは取れたと思う。ご両親にはいい印象を与えた、はずだ。
そんなわけで緊張のご両親ご対面を終え、私はナデシコちゃんと共にナデシコちゃんの部屋にいる。
女の子の部屋とは思えないほど質素な部屋なんだよね。
ゲームでもそうだったけど、ベッドと机、ノートパソコン、茶道の本とかが入った本棚、タンスしかない。
人形とかぬいぐるみとか、女の子に必須なアイテムがほとんどないんだよ。私と一緒にゲーセンで取ったアンキモ人形のキモ子さんはあるけど、それだけだ。というかよくそんなの飾っていられるね、ナデシコちゃん。
ま、いいけどね。趣味は人それぞれですよ?
「んーと、とりあえず、プレゼント交換しよっか」
「そうですわね。ナズナさんのプレゼント、楽しみですわ」
「私もだよ、ナデシコちゃん」
そう言って、カバンから長方形の箱を取り出す。クリスマス用の飾りをつけられたそれは、ゲームで私がクリスマスにプレゼントするものと全く同じだ。
ナデシコちゃんが取り出したのは、正方形の箱。同じくクリスマス用にリボンがまかれている。
――ドキドキする。
二人で用意した箱は、きっちりゲームと同じものだ。だが、中身が同じだとは限らない。だから、かなり緊張している。
私は、私の気持ちをすべてこめて、ゲームと同じものを用意したけどね。ナデシコちゃんは、どうなんだろう。
「……へへへ、気に入ってもらえるか、ドキドキするな」
「私も、ですわ。気に行ってもらえるといいのですが」
そう言って、二人でプレゼントを渡しあう。
「い、一緒に、開けよっか」
「は、い。すごく緊張しますわ……」
ペリペリとセロハンテープをはがし、丁寧に包装用紙を取っていく。この辺は二人とも女の子だからか、かなり丁寧だ。ビリビリ破るようなことはしない。
先に中身へたどり着いたのはナデシコちゃん。
中身は、
「これは、ナズナのペンダント、ですか?」
そう。ナズナの花のペンダント。ナズナだって分かりにくいけど、よく分かったね。
チェーンの下にナズナの花があって、そこから軍配型、というか多分ハートをイメージした種の部分が垂れ下がっているんだよ。
「うんうん。それが、私の気持ち……だよ、ナデシコちゃん」
ナズナの花言葉。それは、『すべてを捧げます』だ。
私の名前、ナズナ。そのナズナの花のアクセサリーを送ることで、自分の気持ちを伝える。それがこのゲームの告白方法なんだよね。
そして、それは相手も同じなんだ。
私は包装用紙の中にあった四角い箱を開ける。その中にあったのは――ナデシコの花をかたどったイヤリングだった。
「ナデシコ……ナデシコの花言葉は、純愛、思慕、いつも愛して…」
「はい。それが、それが私の、気持ちですわ」
「ナデシコちゃん……」
私は胸が熱くなった。
ああ、展開は分かっていたけど、実際にそうなると、とっても嬉しいものだね。
「好き。私、ナデシコちゃんが好き。愛、してる」
「私も、ナズナさんが好きです。心よりお慕いしておりますわ」
やばい。嬉しすぎて涙が出てきた。
そんな私をナデシコちゃんがそっと抱きしめてくれる。可愛い可愛いナデシコちゃんだけど、身長はナデシコちゃんのが高いんだよね。
私が平均身長より少し低くてナデシコちゃんが少し高いんだよね。
うーん、しかし相変わらずナデシコちゃんの匂いはいい匂いだなぁ。なんて、思っていたら、クイッと力を入れて押し倒された。
私は女としてはすごい力持ちなんだけど、不思議なくらい抵抗できずにベッドへ倒れ込んでしまう。ああ、これってイベントの強制力なのかなぁ。
「ねぇ、ナズナさん」
「な、に? ナデシコちゃん」
「ナズナさんは、私を心から愛してくれますか? たとえ変わっていても、嫌わずに、愛してくれますか?」
えぅ? こんな会話、ゲームにはなかったような。
押し倒されて即スチルだったんだけど、その間にこんな会話があったのかなぁ。
なんかこれ、とっても重要な会話と言うか、イベントだと思うんだけど。まぁ、言うことは一つだけどね。
「当たり、前だよ。私はナデシコちゃんが好き。大好きなの。例えナデシコちゃんがどんなでも、受け入れるよ」
うんうん、ナデシコちゃんがアブノーマルな、百合な人だって問題ない。むしろ大歓迎なんだもの。受け入れるに決まっているじゃない。
そんなことで嫌いになるはずないじゃん。私だって、肉体から見たら普通に百合で、アブノーマルな存在なんだからさ。木にすることじゃないよ、ナデシコちゃん。
「じゃあ……じゃあ、ナズナさんに一つ、恋人になる前に、告白したいことがあるんですの、よろしいですか? 受け入れて、くれますか?」
「うん? うん。大丈夫だよ、私、受け入れるよ」
「それなら……。実は私、男なんですの」
……。
……………。
…………………………。
えっ?
「おと、おと……!?」
男!?
え、ええと、私の聞き間違いでしょうか。絶世の美少女で、究極の美少女であるナデシコちゃんが、男だと、そう告白したように聞こえたのですが。
えと、えと……気のせい、ですよね?
「はい。私、男なんですの」
ナデシコちゃんは日本語以外の、私が受け入れられない言語を言って、私の手を持つ。それをすっと誘導して、スカートの中へ。
……。
うん。もっこりしてた。それから、ギンギンになった、硬くて、太くて、大きな棒が。
う、うっそだぁぁぁぁ!
「私、昔から体が弱くて、いつ死ぬか分からないと言われておりましたの。そんな時に、とある神主さまから十八歳までは女装をしなさい、と言われまして。それで、ずっと女装をしておりました。学校もお父様のご友人がやっている学校に入ったので、女装のまま来ることが出来まして。ですから、とっても不安だったのです。ナズナさんは男の方が、その、随分とお嫌いだったようなので……私が受け入れてもらえるか、心配だったのです」
呆然自失として固まる私を無視し、ナデシコちゃんは語る。ええー、そこで病弱設定が出てくるのですか。
というか私、どうしたらいいんですか。愛しの美少女が、実は男だったって。男だったって……。
「ですが、よかったですわ。ナズナさんが、受け入れてくれると言われて。これで、安心して……俺も、ナズナを愛することができる」
「あ、ああ……」
男口調。私の愛しいナデシコちゃんが、男口調……。
――案外、いいかも。
「だから、ずっと一緒にいようね……愛してるよ、ナズナ」
唇を奪われ、完全になすがまま、ベッドに押し付けられる私。
どうしてこうなった。と、思うけど――これはこれで、ハッピーエンド、なのかな?
私がナデシコちゃんを愛していることに、違いはないんだから。
どうも。また殴り書きしてみました。
また前回の短編と同じようなどんでん返し系のお話です。こういうのが好き。でも今回は両者ともに納得のエンドになったかな。
主人公は精神的なBLになるんだけど、見た目はGLで、やっていることはノーマルっていう面白い構図になってますね。男の娘、好きです。
ちなみに他の攻略キャラに関しては全く考えてない。花言葉、面倒臭いんだもの。
二人はこの後、高校卒業後に入籍して、六人くらい子供を産んで幸せに暮らすでしょう。その頃には、きっと主人公は立派な女として、男の意識なんて消え去っていると思います。
で、その頃きっと、攻略キャラをはべらせた逆ハー女は誰かに刺されているという裏設定もあり。若干、ヤンデレが入っているゲームですから。
ナデシコちゃんも勿論ヤンデレっぽい要素が入ってます。ナデシコの花言葉には貞節という言葉も含まれてますからね。他の男なんて見ないでね、って感じで。