第一話
「またかよっ。」
そう呟いて僕は店の看板を見上げた。
この店、オープンしてから何回か足を運んでるのにも関わらず、一度も営業してたことがない。
営業時間は午後19時から午後23時。
定休日は日曜日。
そんな情報を知って何度か訪ねたが、店の灯りがついていることもシャッターが開いてることも一度もない。
僕はその店の前で、覚えたてのタバコに火をつけた。
店の前に街路樹が植わってる。
この木は少し小さいけど、ハナミズキという木なことは知っていた。
花が咲いてる。ハナミズキの開花シーズンは確か4月の終わりだった気がする。今は4月の頭だからやはり温暖化の原因とかでこの花の生態系もズレが生じているんだろうな。
そんなことを考えながら僕はタバコを地面に捨て、火を足で揉み消そうとした。
「ポイ捨てはダメだよ。」そうにっこりと笑って老人は僕の吸っていたタバコをほうきで吐き、持っていたちり取りに入れた。
「あ、スミマセン。」僕が慌てて謝ると老人はまたにっこりとして「この店ならもう閉店したよ。」と言った。
「え?もうやってないんですか?」
「ああ、先週閉店したよ。私もこの店の常連だったんだけどね。とても楽しい店だったよ。」老人はまたにこりと笑った。
「オープンしてから約一年間、たまにこうして来たんですが本当に営業してたんですか?」
僕はその老人なら何か知っていると思い聞いた。
「やってたよ。」
そして老人はこう言った。
「聞きたいかい?どんなお店だったか。」
僕は「はいっ。」と言って老人の話を聞くことにした。