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3話 森へ


あれ?


ここはどこだ?


辺りは薄暗く、どうやら夜の帳が落ちているらしい。


明かりをつけよう。寝ぼけた頭は半ば反射的に電気の電源を探した。


「おや、少年。起きたのかい?」


声がした方向に顔を向ける。美人がいた。


「誰?」


母さんじゃない。友達でもない。だけれど見覚えがある。


「酷いねぇ、少年。クリーシアだよ、クリーシア」


クリーシア、クリーシアさん。

その瞬間、全ての記憶が頭を駆け抜けた。


「あ、クリーシアさん。俺、寝ちゃいました?」


ここはベッドだ。おそらく眠ってしまった俺をクリーシアさんが運んでくれたのだろう。


「仕方ないさ、今日は少年も疲れただろうからね。

 夕飯は私が適当に作っておいたから、食べな」


「すいません。本当は俺が作らなければならないのに」


それが泊めて貰う条件なのだ。

クリーシアさんは無償で泊めてくれると言っていたが、それは俺が嫌だった。


自分で決めた条件を初日から破るなんて、情けない。


「気にするな。少年と会う前に今日の分の食事の用意はしていたのだから、どちらにしろ、今日は私が作ったさ」


クリーシアさんの言葉に今回は甘えることにして、ベッドから出て料理が並んだテーブルに着く。


クリーシアさんが作ってくれたのはシチューだった。


「お代わりもある。たくさん食べてくれ」


一人暮らしのクリーシアさんが、俺と会う前からそんなにたくさんのシチューを作っていた訳がない。

だから、さっきの言葉は嘘だ。クリーシアさんの優しい嘘。


この人、良い人過ぎるよ!!


「ありがとうございます」


それはいろいろな意味を持った感謝の言葉。


助けてくれて、優しくしてくれて、御飯を作ってくれて、ありがとう。


クリーシアさんがいなければ、俺は今頃、右も左も分からない異世界で野垂れ死んでいたことだろう。


「どういたしまして、少年」


クリーシアさんのシチューは美味しかった。

 大きめの野菜に柔らかく煮込まれた肉。

 何度もおかわりをして、その度にクリーシアさんは笑顔で空になった皿にシチューをよそってくれた。


「ご馳走様でした」


 結局、クリーシアさんが作ってくれたシチューを全て平らげてしまった。


「あの量を食べきるなんて凄いな、少年。流石は育ち盛りだ」



 食事も終わり、緩やかな時間が流れる。

 こんな時間も良いが、せっかくなので、明日のことを頼んでみることにした。


「クリーシアさん、明日、俺と一緒に森に行ってはくれませんか?」


「良いけど、どうしてだ?」


俺は自分が新米の《魔物使い(モンスターテイマー)》であることを話した。


「つまり、魔物を調伏するのを手伝って欲しいということか?」


「いえ、調伏自体は自分でやりますが、クリーシアさんには俺の護衛をして欲しいんです。

 俺は、角兎に負けるくらい弱いので」


情けない話だが、クリーシアさんがいないと、森で少しでも強い魔物と出会ったら俺は高確率で死んでしまうのだ。


「明日は用もないから構わないぞ」


 クリーシアさんは快く引き受けてくれた。

良かった。これで安心して魔物の調伏ができる。



明日は朝早くから活動するらしいので、もう眠ることにした。

目覚ましもない世界で早起きできるかは甚だ疑問だけれど。


 寝間着などないので、クリーシアさんの服を借りることになった。


 仕方が無かったのだ。


 俺が着ていた服はお世辞にも綺麗とは言えない。だから、それを着てベッドに入る訳にはいかなかった。

 しかし、下着の状態で布団に入るのも躊躇われた。流石にこんな近くに女性がいるのに、男の俺が下着姿というのはマズいだろう。

 妥協案ということで、クリーシアさんの寝間着を借りたのだ。

 男性の俺が着てもおかしくないようなデザインだったので、まだ良かった。


 しかし、クリーシアさんの匂いが染み着いているようで、何とも落ち着かない。

 幸いにも、子供であるアノンの身体は常時賢者モードのようなもので、肉欲に支配されることはなかった。もし、元の身体だったら俺は即、野獣化していたに違いない。


 いよいよ、就寝。だがここに来て更に大きな問題が発生した。


「少年、ほら、私の横に来い」


クリーシアさんの家にはベッドが一つしか無かったのだ。故に、クリーシアさんは俺と共に寝るという。


これはヤバい。いくら常時賢者モードのアノンの肉体と言えども、中身は健全な男子校生なのだ。


正直、俺は自分を信用し切れなかった。


「ほら少年、早く来い!」


結局、クリーシアさんに引っ張られ、その腕の中にすっぽりと入ってしまった。


クリーシアさんの胸、柔らけー!!


ギリギリ理性を保つ俺。


「私が守るから安心して良いんだぞ、少年」


そう言って頭を撫でてくれるクリーシアさん。温かい。

気がつくと邪な気持ちはどこかに消えていた。







――――――――



「おはよう、少年」


超至近距離にクリーシアさんの綺麗なお顔。


ちょっと間違ったらキスしてしまいそう。


してしまう?


まさか。


「おはようございます」


クリーシアさんは起きると、寝間着から普段着に着替え始めた。

俺は後ろを向いて見ないようにする。


見たいけど。見たいんだけれども!!


流石にそれはダメでしょ。

クリーシアさんは許してくれそうだけど。


クリーシアさんが着替え終わったのを確認してから俺も着替える。

 その後はクリーシアさんに調理器具の説明をして貰ってから、俺は朝飯の用意を始める。


クリーシアさんはその間に外に出て行った。何かすることがあるようだ。






今日の朝飯はスクランブルエッグとパンにした。

朝飯だしそれくらいで良いだろう。


「良い匂いだな、少年」


皿に盛り付けてテーブルに運んでいるところでクリーシアさんが帰ってきた。

手に何か草みたいなものを持っている。

野菜ではなさそうだ。


「薬草、ですか?」


「よく分かったな」


適当に言っただけなのだが、当たったらしい。


確か、クリーシアさんの家の周りに畑みたいなのがあったから、そこから取って来たのだろう。


「今日は森に行くからな。もしもの時の為に薬草はあった方が良い」


この薬草は俺の為か。クリーシアさん、親切過ぎるよ。






「料理、上手なんだな、少年」


スクランブルエッグくらいで上手と言われても。

いや、嬉しいけどね。思わず頬が赤くなるくらいに嬉しいけれどね。



食後に昨日の分の食器も洗い、その後、いよいよ森に繰り出す準備をした。


準備と言っても、実はこれと言ってやることもない。

着替えて終わりだ。


「少年、これを持ってろ」


そう言って渡されたのはナイフと薬草だった。

流石に丸腰で森に行くのは無謀だよな。


「では、行くか」


クリーシアさんの準備が終わったので、出発することに。

クリーシアさんは武器は特に持っていない。魔法が使えるみたいだし、武器はいらないのだろう。


森へと踏み出す俺とクリーシアさん。


俺はふと、クリーシアさんの実力が気になってクリーシアさんに【分析】を使うことにした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前:クリーシア・リリクス

性別:♀

種族:ダークエルフ

職業:《精霊術師》

レベル:52

スキル:【闇精霊術】【炎精霊術】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


クリーシアさんはとても強いことが分かった。

何か覗きみたいで後味は悪いが、これで安心して森の散策ができる。


クリーシアさんの横に並んで森の中を歩いた。


クリーシアさんが横にいるだけで、森の印象は随分と変わる。

やはり、命の危険があるかないかは大きい。


勿論、最低限の警戒はしながらも、異世界の森を俺は楽しみながら進むのだった。


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