第9話 対軍殲滅戦
最近更新が遅れております。
休日に更新しようと思っていますので生暖かく見守ってください。
―牛魔軍 野営陣
「きゃつらは何ゆえあそこに陣取る」
牛魔将軍ブルートイは血の気の多い牛魔の中でも智将として知られる。といっても牛魔の中では、といったレベルだが。
その迷いは今回の戦場に関する疑問だった。
まず、今回の戦場は国境近くの半分森、半分平野となったようなところで、
堂々と、”平野のど真ん中”に陣を敷くバカは初である。
しかも"本丸"の旗印まで持ち出している
「かの紋はプルーヴォ王国軍軍旗。
将軍、何かきな臭いものがございます」
ブルートイの横には子牛ほどの大きさの牛魔が控えていた。
筋骨隆々で、見た目は他の牛魔と同じであるが手には杖を持っていた。
この牛魔はブルートイの腹心でいついかなる戦にも馳せ参じ巧妙な策にて牛魔の力をコントロールしてきた武人である。
「うむ。
なにやら良くない噂も流れておる。かの軍勢には"召還されし者"がついたらしい。
お前も聞いただろう、国境で包囲網が抜けられたあのときにその話が本格化したようだ」
「はい聞き及んでおります。我らが軍の包囲網のちょうど隙間を縫うように抜けていったと。
まさか、あの者がそれを成したとでも?」
「可能性の話だ。
今まで戦は避けてきたアクロの国が突然兵を挙兵したことにも驚いておる。
魔術以外は非力なエルフどもがこのように白兵戦で挑んでくることもおかしい。
何か、我らの預かり知らぬうちに流れが変化しておる」
ブルートイは静かに自軍を見やる
「此度の戦、我らとて負けるわけにはいかぬ。久々の戦の上"召還されし者"であれば捕らえねばなるまい。
たかがエルフのガキ娘共に戦がいかようなものか思い知らせてくれよう。
たとえ陽動だとしても我らが鋼の肉体が負けるわけが無いのだ!
その後たっぷりとその体に思い知らせてやる。
グフフフフフ」
ブルートイは優秀な将ではあるが特に女がらみだと時折正気を失う。そして正気を失った牛魔は凶暴で強い。
これは牛魔全てにいえることなので、周辺諸国はオーロの牛魔軍を恐れていた。
「さて、こんなもんか」
鋼兵は陣を敷き終え、本丸には鋼兵とミーネのみ残っていた
「鋼兵様!
こんなことは納得できません!何ゆえ大将たる鋼兵様がお一人でこのような敵の的になるような場所に陣取るのです!?
しかも我らには後方で待機せよなどと...
そんなにも我らは非力でありますか!」
ミーネの眼には涙が溜まっており、その表情はいつもの凛としたものとは異なり、儚く今にも消えてしまいそうだった。
「ミーネ。
俺は囮でもバカでも、ましてや神でもない。これは作戦と言ったはずだ。忘れたか?」
俺はミーネに作戦を全て話してある。
もちろん援軍のことは伏せているため、本当に俺一人がやられると思っているのだろう。
「しかし...
ならば鋼兵様のそばに置いてください。私もご一緒いたします。」
先ほどからこの話ばかりだ。危険なので下がれといっても聞き入れない。
「ミーネ。
約束する。俺は死なない。だから後方から支援を頼む。お前も魔法が使えるんだろう?
いいか、俺が合図をしたら一斉に魔法をかけろ。お前達に白兵戦はあまりにも不利だ。
それにこれは大将命令だ。いいな?」
ぐずっていたミーネもしばし考えた挙句、涙をふき取りいつも通りの凛としたミーネに戻っていた。
「よし。
では手はず通りに頼むぞ」
俺は腰の帯を締めなおし、刀を差す。
「鋼兵様」
呼びかけられ顔を上げたとき、ミーネの顔が目の前にあった
今まで気づかなかったが綺麗なエメラルドグリーンの瞳が俺をしっかりと捕らえていた
「っん」
そのまま引き寄せられ、ミーネとキスしてしまった。鼻腔に女性特有の甘い香りがいっぱいに広がる
俺はミーネを引き寄せ、抱きしめながら少しキスを交し合う
「っぷは」
ようやくミーネから離れた。ミーネの顔は真っ赤になっており、長く白い耳まで真っ赤で正にゆでだこだった。
「...約束、しましたから」
ミーネはうつむいたまま小さく頭を下げそのまま陣を離れていった
エレネに多少思うところがあるものの、俺は落ち着きを取り戻しつつ俺は闇に紛れ相手の陣地へ向かった
その間おれは王国に戻ったときに起こる厄介事に頭を悩ませた
本来合戦とは昼間行われるものだが、異界のこの地ではその法則は通用しない。
夜はむしろ奇襲や急襲に最適だ。特に、力量差がある戦いで弱いほうが仕掛ける奇襲ほど効き目のあるものは無い
今回のような単独戦が行える場所での戦いは、鋼兵の真価が発揮される。
お庭番だった時代に同じ部隊のくのいちに教えてもらった足運びは音も無く移動をすることを可能にする。
鋼兵にはこの技は通用しないが、鋼兵の宿舎に忍び込むくのいちの足技までは看破できなく幾度と無く餌食となった経験があるので
この足技の使い方と特徴は嫌というほど理解している
「ぎゃあぁぁあっぁぁあぁぁぁぁぁぁ」
「何事だ!ぎゃああああああああ」
神速で動き回りテントに火をつけ逃げ惑う兵の首を落として行く
「火だ!火を消せ!
隊は編成する必要は無い!手の空いたものから消」
司令官と思わしき牛魔の一体の首を音も無く落とす
「うあぁぁああああぁぁあぁぁ」
「ひひいいいいいいいぃぃぃいぁああああ」
次々に宿舎となったテントに風のごとく白刃を振るい鋼兵は駆け抜ける。
暗闇に乗じて掛ける奇襲に兵は混乱し、奇襲を掛けていないテントまで動揺が広がる
空に使い魔を出し、あらかじめ陣の構造は理解していたので次の目的地が手にとるようにわかる。
ここの陣は中心を本丸、四方を囲うように護衛がついている。
無論、俺は本丸狙いだが護衛の数と力が侮れないのでこうして護衛宿舎を回り数を減らしている
さらに混乱を広めるためテントのいくつかには火を放ってある
しばらく駆け回って混乱が広まってきた。俺は本丸に向かおうと思ったとき強烈な殺気が俺を捕らえた
「っ!」
俺は動きを止め、殺気を向けてきた方向を見やる。
「…」
燃えるテントの向こうから真っ赤な眼をした一際大きな牛魔がこちらを向いていた
「そうか、おぬしが大将であったか
わしはブルートイ、この軍を率いておる」
牛魔将軍、ブルートイは身の丈ほどの大剣を背負い静かに立っていた
「召還者よな?
お主のその姿、伝え聞くものと違いは有るが...
その覇気!その気合!その技量!
全てが合致する!
お主ほどの使い手が、何ゆえあのような小国に肩入れする?」
牛魔はそれだけ言うと大剣を抜き構えた
「答えぬか。しかしずれにしろこれだけの被害が出ておりながらおとなしく返すわけには行かぬ
お主ほどの使い手を失うのは残念だ。」
ブルートイは大剣を構えたまま俺と向かいあい、俺も刀を構えなおす
「なぁ」
「ほう初めて声を聞くな。
なんじゃ、名をなのるのか?」
牛魔はせせら笑う。
「いや、お前の期待する人質は無駄だと思っているだけだ。
エルフの女が抱けなくて残念だったな」
「!?」
ブルートイは眼を見開き驚きを隠すことができなかった
「フン、俺が本隊を本丸に残して奇襲を掛けたとでも?本丸は今はもぬけの殻だ。
ついでに言うと周りの野営地も同じだな
お前の別働隊がすでに向かっているのは知っている」
「・・・・」
ブルートイの眼が鋭く細くなった
「お主、何者だ」
「お前が知ってるんじゃ無いのか?」
俺は小馬鹿にしたようにせせら笑う
「・・・」
牛魔将軍が初めて怒りを露わにした
さて頃合だな
俺は小さな火球を空に向けて放つ。しばらく上った火球は花火よろしく空で盛大に散った
「やはり召還者は侮れぬ」
俺の魔法を見ながらブルートイはそうつぶやきながら大剣を構えなおし、切っ先を俺に向ける
「魔法を使役しながら剣のみで戦うか...
その心意気、見事なり。わしも全力を持って剣でお答えしよう!!!
オーロ帝国二十四将が一柱牛魔族ブルートイ!
全力を持ってお相手仕る」
「プルーヴォ王国剣客オノ・コウヘイ、推して参る」
まるで引き寄せられるかのように二つの影が一瞬で間を詰め、二つの剣が激しく火花を散らし、将対将の戦いが始まった