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第8話 対軍戦前夜


白兵戦最強はやはり騎馬である。


その機動力たるや人の脚力では追いつけないスピードと胆力がある。


後で聞いたことだが、この世界には"人間種"の男はいないが"魔獣種"の雄ならばいるとの事だった。


魔獣種というのは、人間と動物の混合種である。


この魔獣というのは人間の知恵と動物の身体能力を併せ持つ厄介な存在で、


一体居ればエルフ兵の10人分の働きをするとの事だった。


そんな連中が隊を成して迫りつつある。本来であればこんな状況に心躍るやつはバカか無謀なやつのみだ。


しかし、心流月派の真髄は個対多にある。


特に鋼兵の得意とする"対多人数戦"は彼の剣術が冴え渡る上、人間では出せない領域の速度を出す。


味方が辺りに居ないことで認識を斬る事にのみ向けているので通常の反射神経の倍の反応を示すことができるからだ。



始まりの森でエレネに対し行ったのは"縮地―陰影"という型で、相手との間を文字通り"縮める"事が主であるが、


対軍戦では逆の使い方で味方をおいていく。これにより完全な独立となってしまうがしばし暴れると味方が波状攻撃を仕掛けてくれる。


なので、陣を敷き相手の攻めを抑えつつ消耗を防ぎながら戦うことができる。


これは味方が一列に並び、穂先を揃え相手を押し返す事で消耗を抑えつつ攻めることができるからだ。


また一陣を抜けるものには後列が剣で応戦するのもこの戦法特有だ。


太古の西洋ではこのやり方を使い、敵を谷に誘い込み小数で多数を押し返すことに成功している。


この戦法を続け味方が空けた進路を縫うように駆け抜け、神速で敵将まで近づき斬り伏せる。


少数で多勢に勝つにはこれが一番だと踏んでいた。


しかし、我が軍勢は鍛えているとは言え女性ばかりなので力で押されれば我が方に勝機は無い。


ならば、一点突破で相手の陣を突き崩し、一気に勝利へ走るのみ。


もとより持久戦はこちらにとって不得意だ。



鋼兵達が国境につくころには夜になっており、月も無い夜は真っ暗で2m先も見れない


俺は野営地から少し離れ相手の野営地を覗き込む


「なるほどね...」


ちらほらと見える明かりに照らされた相手側を見やる。


相手はなかなかにごつい猛者ばかりのようだった。


ほぼ全てが牛の獣人のようで大きなガタイがうごめいている


「鋼兵様」


今回俺に補佐としてつけてくれたのは意外にも副長のミーネだった。


「おいおい、今更"様"付けなんてよせ。


 らしくないぜ?」


「いえ。


 この難局に際し、一歩も引かぬ気概をお持ちの鋼兵様には感服いたしました。


 私は鋼兵様に対する評価を大変誤っていたと痛感しております。


 今までの非礼をお許しください」


そういうとペコリと頭を下げるミーネ


「はぁ...


 まぁいいけどな。始まったら俺の指示通り動けよ


 一人も未帰還者を出さぬため、この作戦は絶対だ。


 誰も死なせない、捕まらせない。


 もちろん俺も、お前もだ。


 さ、他のやつに指示を出してきてくれ」


わかりました、と敬礼しミーネは指示を伝えるため一旦後方へ下がった


短く切りそろえられた髪が揺れ動きハツラツとしている様は、


少女が大人へ変わろうとしているようにも見えた


俺の元に集まった兵はみな若く、どの子も17,8に見える。中には武器を持つもの初めてというのも居た。


中には年上も居るようだが、そこまで年上はいない。


この国の情勢が改めてわかったような気がした。


「まったく。


 牛の魔物如きにかわいい部下の純潔をやれるかってんだ。


 ...あれ、使うか」


自身の右腕に刻まれた梵字の8つの経文のうち一つに気を込める


かつて鋼兵が師に弟子入りしていたときに習得していた"召還術"のひとつである。


他にも幻獣種も呼べたりするが今は出すことができない。


あの可憐な少女達の健気な勇気が無駄になってしまう。


ならば、土壇場で巻き返す程度の備えでよい。


この先、戦は数多く経験するだろう。


ならば、最初は苦戦したほうがいい。


俺はそう決め込み、召還する者達を強く念じ呼びかける


『古の契約に従い 我が朋友よ その姿を現せ。


 現世に降り立ち 今一度 その力見せつけよ』


右腕の経文が光り輝き、鋼兵を中心とした術式結界が広がっていった


周囲にはこの陣が見えない。


俺の召還術は特殊な場合を除き結界は見えないようになっている。


光が漏れないので、味方も敵も気づかない。


『我はこの世の悪を討つもの

 

 汝ら無窮の武人と共に悪を打ち払い業とする者なり』


ひときわ術式が輝く


『汝ら我の問いに呼応し、救国の剣たる者たちよ!いにしえの武人達よ!


 遥か遠き我が呼びかけに応じ、今その姿を顕現せよ!』


少しして光が収まると、そこには重厚な真紅の鎧兜をまとった兵士が並んでいた。


その数二千


彼らの国では英霊として祭り上げられており、元は国のため戦い抜いた武人の集まりである。


赤鬼兵軍(せききぐん)


幾度と無く外界からの攻めを防ぎきり、その守備力は騎馬隊をも押し返す。


かつて大国の軍勢に対し一歩も引かず、それどころか前線を押し上げた伝説の武人達である。


『鋼兵殿』


団長が一歩前に出る


「久しいな。


 訳あってそなたらのお力をお借りしたい。


 可憐な少女を辱めんとする輩を成敗する。


 これは戦ではない。


 "天誅"である」


『無論でござる。


 拙者らはすでに名を失い、いまや戦いを眺めるだけの存在となったと思っており申した。


 それが尊き娘達のため、剣を振るえるという機会を頂けるのであらば本望でござる。


 存分に我らが神武、ご覧に入れよう』


一斉にオー!と声を上げる熟練兵たち。


「では作戦はこうする」


まずは陣の敷き方を変えないとな...


鋼兵が策を伝えると、一斉に兵士は文字通り"姿を消していった"。


あれほど目立っていた真紅の軍はいつの間にか雲散霧消しており


後には静けさのみが残るのだった。


「さぁ、お仕置きの時間だ」


微笑む鋼兵の目は紅く輝いていた

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