第6話 入城
程なくし、俺達一行は巨大な城壁に囲まれた大きな街にたどり着いた。
この周囲には樹木がなく、城壁を囲うように堀が掘られている。
城門には兵士が2名門の前に待ち構え、いつでも侵入者を迎撃できるように控えていた
俺達が近づいていくと、兵士がこちらに気づき槍を向けてきた
「そこな者、止まれ!
ゆっくりと腰の武器を捨て、ひざをつけ!」
いかにもなセリフと共にびしっと槍を突き出す。
見た目は大きな女性で、甲冑に隠れ頭は見えないが、マントからふさふさとした尻尾が見えている。
「私は王宮近衛兵所属エレネ・フォン・オーシアだ。
”始まりの森”の哨戒任務を完了し、これから陛下にご報告に参るところだ。
こちらはこの近くで捕らえた純人間種の男性である」
さっと俺を指差すエレネ
すると兵士は信じられないものを見たとばかりに俺を凝視する。
こんなにもジロジロ見られたら、何もやましいことがなくても心が揺れてしまう。
「はっ!失礼いたしました!!
どうぞお通りください!!」
元気よく返事をした兵士は俺のなりにかまわず通してくれた。
どうやら騎士団員様の一言が一番利いたらしい。
しかし本当に男が少なくなっているんだな
俺が横を通り抜ける際、俺をガン見していたし後ろを通るものに俺の正体を聞いていた。
そのせいで場がいきなり微妙な空気になったのは言うまでもない
門をくぐると、そこは夕刻にもなろうというのに活気にあふれていた。
見渡せば多くの人が商いや仕事に精を出していた
「城下町か」
「ん?
ああ、ここはプルーヴォ王国の城下町だ。外とここは城壁に囲まれ、いかに獣とはいえおいおそれと侵入はできまい」
だからここまで活気があるのか。
俺は素直に頷き、周囲を改めて見渡す。
周囲の民衆が静まり返り、俺のほうを一斉に向いている。
「ふむ、門番が騒ぐから貴方が男だとすでにばれてしまったらしいね。
厄介なことになる前に王宮へ行くよ」
「あ、ああ」
異様な空気を肌で感じ、俺達一行は一路王宮を目指し王都を北上した。
「...あいつ」
その後ろ姿を冷たい眼でにらみつける少女の存在に気づいたのは、鋼兵のみであった。
灰色のフード付マントに身を包み燃えるような赤髪、そしてゆらゆらと揺れる尻尾には独特の風合いが合った。
少女は痩せこけてはいたが、その真紅の瞳は強い意思を持ち、尾はスクツと同じキツネの尻尾で数は九本あった。
マントの少女は誰にも気づかれることなく城下町の下水道へ通じるマンホールへ音もなく身を滑り込ませ、
瞬く間に姿を消し去った。
その頃鋼兵とその一行は城壁を抜け、王宮への街道へと至るのだった。
「そういえば、魔法について少し聞きたいことがある」
王宮まで少し時間があるので、暇つぶしまでに鋼兵が思い出したようにエレネに尋ねた。
「何かしら」
エレネは少しだけ驚いたようにこちらをみやる
「先ほどの話では魔法は5種類あるといったが、それはどういった系統だ?」
ああ、とエレネは得心がいったように頷き説明を始めた
「まず、私達プルーヴォの民が使うものが水系統の魔法で、主にアクロ王国では水系統が主流なの。
他の国も名前が由来になったぐらいだから、その系統の魔法色が強いわ。
アルボ共和国は木系統の魔法、グルンド連合王国は土系統、ファイロ王国は火系統、オーロ帝国は金属系統の魔法ね。
ここまではいい?」
理解できる?といった具合でこちらを振り返るエレネ
うーん、ものすごく俺の国の五行の考え方なんだよなぁ....
単に似ているだけとは思えないしなぁ
「ああ、なんとなくな。
ついでなんだが、その系統は同時に使ったり、あわせ技なんてのはあるのか?」
「いいえ、大概の人は扱える系統は1つよ。
私達の王国では魔法について詳しく扱っているわけではないから細かい部分まではわからないけど
私のような空間魔法や治癒魔法、時間魔法なんていうのも扱える人はいるけど、ほとんどが突然変異のようなもので
普通は扱えないわね」
「そうか」
やはり俺のような混合方術はないんだな
俺の方術で言えば治癒は再生の木の気と流れる水の気を合わせれば使用できる。
この世界には専用の魔法と術者の存在に頼りきりなのか
「...もしかして、鋼兵は何か特殊な魔法を使えるのかしら?」
いやな流れになってきたな
「俺の国の方術には五行という考え方がある。
この国の魔法の根幹と同じ考え方だ。
まぁゆくゆくは見せていくさ。同じ戦線で戦う仲間だからな」
「と、当然ね!
...ありがとう」
なんとか話をぶった切れたな
一々エレネがかわいい反応を返してくれているが
「私鋼兵様の魔法興味ありますー」
このキツネ耳の幼女は空気よまねぇな
「あー、今度な
ほら、王城が見えてきたぞ」
「あ、逃げたですー!」
俺はそそくさと話から逃げるようにして王城へと向かった。