第42話 二つの雷
―ガギィ!!!
音速を超える速さでドラコスの蹴りが飛ぶ。その蹴りは魔力障壁によって防がれたが、衝撃で大気に振動が伝わるほどだ。
金属がひしゃげるような鈍い音を立てて辺りの空気が振動している。
『皆のもの下がれ。今のこいつは心の闇に囚われた』
手首のバックルに魔力を込め、両腕から全身にかけてバックルから青いオーラを纏う。
対する鋼兵は相変わらず不敵な笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
『聞け鋼兵。貴様は何のためにその秘術を体に入れたのだ?暴れるためか?
何のための不死なのだ。いい加減目を覚ませ』
「.......ククク」
鋼兵はドラコスの言葉を意に返さず、刀を振り上げ迫ってくる
『...駄目か。"縛式 白雲"!!!』
「アァ!?」
『縛せよ!!』
「コノッ」
『甲種縛術結界展開!!!第二格、第三格縛術式同時展開!!!
魔力吸収型魔力縛鎖発動!!!』
「.....異国の結界術だな。見た事も無い文字が浮かんでいる」
腕の出血を押さえつつ、額に脂汗を流しながらナールドは鋼兵たちの戦いを見守る。
押しているのはドラコスだが、足元が段々透明になってきていた
「叔父様、手当てを」
「不要だ。どうせもたん」
「なにを仰いますか!!!このままでは本当に野垂れ死にですよ!!!」
「あの剣で斬られた時点で勝敗は決した。もはや戦いに意味もない
姫、お逃げください。あの者が鋼兵殿を抑えているうちに。」
ナールドの腕の出血が止まり、傷口を見てみるとそこは炭化したかのようにボロボロと崩れ始めていた
「嫌です!!!これでは皆なんの為に死んでいったのですか!!!」
「姫、よくお聞きなさい。
皆、愛する姫の為に死んでいったのです。ここでアナタが逃げなければ死んだ仲間が浮かばれませぬ。
どうか、お逃げください。私のドラグーンをこの森の裏に隠しています。
オーロでは駄目です。もっと遠く」
――ヒュッ
突如飛んできた槍が、深く腹部に刺さった。
「がぁあああぁぁぁあああッ!!!!」
「叔父様!?」
その槍を引き抜こうとしたアルジェンドの後ろから、よく知っている声が聞こえた
「ナールド参謀、大事な近衛部隊を駆り出し全滅させた咎、その死を持って清算致しなさい」
振り返ると、オーロの森から白銀の甲冑に身を包んだ部隊が横一列に展開してこの場を取り囲んでいた
「......プラテーノ御姉様」
アルジェンドの前には、アルジェンドと全く同じ顔をした、少し切れ長の眼をした女性が立っていた。
「アルジェンドを捕まえなさい」
「はっ!!!」
一瞬でアルジェンドはオーロ帝国王城近衛部隊に捕らえられた。
「御姉様!!!捕らえるべき罪人、断罪すべき悪人は目の前ではなくあの悪魔の方です!!!
剣を向ける先を間違えていま」
「黙りなさい。アナタは分かっているの?
これはお父様が決めた事柄。それにアナタは背いた」
「しかし!!」
「...姫!!」
ナールドが叫び、その方向をみると鋼兵を縛る術が薄くなり、ドラコスの表情が苦悶に染まっていた
『っく、駄目か!!!』
「早く、早く!!!お逃げくださ.....ガフッ..」
プラテーノはナールドの腹部から槍を引き抜き、それをアルジェンドに向ける。
「よく見ておきなさい。あの悪魔とは戦ってはいけないの」
鋼兵を取り巻く結界は遂に崩壊し、鋼兵の禍々しいオーラが周囲に満ちる。
『"古の盟約に従い我に力を授けたまえ 盟友との誓いをこの手に
黄昏より来たれ 歴戦の武士よ 古の兵よ
我が呼びかけに応じ はせ参じよ!!!"』
結界が弾かれたドラコスは、これが最後とばかりにありったけの魔力で召喚魔術を行使した。
強烈な閃光の刹那
―――――そして周囲に光が満ちた
「暴れておられるな、豪の者よ」
大きな風切音と共に1人の坊主が土煙の中から姿をあらわす。その姿は墨染めの袈裟に笠をかぶり修行僧のそれである。
『おお、和尚!!!助かった!!!』
「―天戒、何用ダ」
「ふむ、拙僧でもお主の心の乱れは分かりますぞよ。
どれ」
笠をとり、その面貌が露になる。
顔には無数の切り傷ばかりで、その両目は傷により塞がれていた
「盲目!?」
「うむ、左様。拙僧は眼が見えぬ。ゆえに心眼にて相手を捕らえまするぞ、高貴なる方よ。
ほほ、それ」
天戒は袖の下から三尺にもなる大槍を取り出した
「宝蔵院流は初代胤栄に手ほどきを受けていル。いまさら効かんゾ。
ソレニ、此度の戦、我より始まるもので無シ。御坊、邪魔するなら容赦せんぞ」
鋼兵は真っ黒な眼を天戒に向ける。
「ほうほう、拙僧の槍捌き、いかなるものかとくとご覧に入れましょう」
その大槍を片手でブンと振り回す
「御坊、本気でイクゾ」
鋼兵は両手に刀を持ち、ドス黒くなった魔力を注ぎ込む
「ほほほ、勝たねばこちらのそっ首飛びまする故、全力で参りますぞ」
「―ッシ」
「ほ?」
「ハッ!!!」
「ほほう」
手に持っていた大槍が見事に三分割され、バラバラになった。それぞれがカランと音を立てて地面に落ちていく
一旦鋼兵から距離をとり、手に残った槍を鋼兵に投げつける。
「全く持ってどれだけ人外なのか。どらこす殿、少しばかり力添えいただけますかな?」
『応!!!!』
ドラコスが天戒に向かって走り、空中に飛び出した
「ふむ」
その手には光り輝く細く非常に長い銀の剣が収まっていた。剣は風を纏い、刀身は両刃で僅かに青色を帯びた光を放っていた。
「ほほほう、どらこす殿はなかなかに名剣であられるな。それに中々魔力を食われるようで。
南蛮の剣は使い慣れてはおらぬが、どれ」
「__________ッ」
―ザシュッ!!!!
「音も置き去りとは」
一瞬で鋼兵のわき腹を切り裂き、血しぶきが吹き上げた。
「縮地に近いナ」
一瞬でわき腹の傷を塞ぎ、天戒へ向き直る。
「ふむ、やはり人外じみた強さですな」
「ハァアアァァァァ!!!!!」
「どらこす殿」
二回刀身が光る。そして、天戒の体が8等分に分かれ鋼兵を取り囲む。
「分身か」
「いかにも。そもそもお主ほどの相手に個で挑もうなどとは考えてはおりませぬ。
残念ながら我が身は術により肉体をとどめている不完全な状態。この一撃で終わりにさせていただきますぞ」
「八方からの同時攻撃、ドラコスの特性である”光速”による高速移動を兼ね備えた正に雷の如き攻撃。
だが、貴様が使うそれは我が流派に利くとでも?」
「無論、お主の”不死”は打ち破れませぬが、我が”滅”もなかなかですぞ」
「カァァァァァァア!!!!!」
「でりゃあぁぁぁあぁあぁああぁぁあああ!!!」
―二つの雷電が、ぶつかった




