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第41話 力の代償

「ですから、ご主人様が戻られたのですから、わたくしがご主人様をサポートいたします。


 エレネ様は下がってください」


「いいえ、下がるのはあなたよ。フローロ


 私は陛下より鋼兵様護衛の任を仰せつかっています。これは公務です」


「エレネ様、そんなムキになる事ないデスよ~」


「「あなたもそこから降りなさい」」


鋼兵に肩車をしてもらう形で頭にしがみついているスクツは、二人を尻目に悠々と尻尾を振っていた


『まったく、色男は違うねぇ。


 俺にも分けてほしいもんだわ』


「ドラコス殿、全く羨ましそうではないな」


『まぁな......ん?


 ああ、エディンといったか』


「いかにも。あれほどの武を誇る武人がこれほどフレンドリーだとは思わず、ちょっと動揺しております」


『気にしなくて良い。どうせ化け物の類だ。人間ではない』


そういうドラコスの背中はどこか物悲しい感じが漂っていた


「確かに、あれは正に神代の御力。精霊や神の領域、感服いたします。」


『そんな良いモンじゃないんだけどな....ん?』


「分かっている」


ドラコスは鋼兵に瞬時に目配せし、鋼兵は一瞬で亜空間を展開した。


鋼兵を中心とした亜空間はドーム状に広がり、周りの者を巻き込んだ後急速に収縮。


その中にドラコスと鋼兵以外を入れ込み、亜空間を消した。


丁度鋼兵が空間を閉じると同時に、上から人ほどの大きさを持った炎の弾が幾重にも降り注いで来た。






「先鋒、着弾確認!!!なにやら魔術展開があった事を確認しましたが、全弾命中を確認しました!!」


はるか上空、太陽を背にする形でドラグーン隊は展開している。その中で、一番先頭の亜竜に乗ったカリーナが声高に叫ぶ。


「まだだ。あの程度ではかすり傷すら付けられぬ。


 もう一度放て!!!」


「はっ!」


手を挙げ、横一列に並んだ兵士に指示を飛ばす


「竜砲!!!」


横一列に並んだ亜竜の口に炎の球体ができ、それが人サイズに大きくなったところで中央が渦を巻き始めた


「放てェ!!!!」


それを次々に落としていく。周りの木々をなぎ倒し、地面にクレーターをつけながらなだれ落としていく。


「やっ....」


そして、その中心は何事も無かったかのように一切、変化が無かった。そこだけ切り取られたかのように、鋼兵を中心として円形に森がそのまま残っていた。


「.....化物め」


誰かがつぶやいた。確かに、とナールドは心の中で頷いていた。あのファイロの”レッドローブ”が”最高火力”で撃ち出した魔術をそのまま”留める”ほどの男だ。


通常、術を"破る"には術を持って対抗する。しかし、術を"止める"方法など聞いた事が無い。


"展開"された術を"展開"された状態で止める。これほど難儀な状態は無い。


よってこの程度の火力でケリが付くほど安易な相手ではない。わかってはいたが、目の当たりにすると恐怖が自身を包むのが分かった。


「ん!?なにやら来ます!!」


前衛が叫んだのほぼ同時に先ほどの竜砲がそのまま飛んできた。


「左右に展開!!」


すぐさま檄を飛ばし、ドラグーン部隊を左右に展開して竜砲を回避する


「参謀!!!」


上空へ舞い上がり急旋回してナールドの横につけたシェズが腰の剣を引き抜き地面を指している


地表では鋼兵を中心として魔術陣が光り浮かび上がっているのが見えた。


そして、その中心から背中から翼の生やし、緑色のうろこを持った竜のような生き物が姿を現した


「...召喚魔術か。よもやグルンドじみた魔術まで使えるとはな。


 よりによって竜族を呼ぶとは....もはや神官クラスだな」


ナールドは腰の双剣を引き抜き、それを天高く掲げた


「皆の者!!!


 相手は竜ぞ、一撃貰えば即死だ!!!このまま召喚されては大打撃を食らう!!!


 敵の本丸を突くぞ、付いて来い!!!」


一転、ナールドの乗ったワイバーンは一気に真下へ直滑降していく。それに続くように後続の兵士が次々に後ろから直滑降ですべり落ちていく。








『ふむ、どうやら引っかかったようだな』


下では鋼兵たちが、腕を組んで待っているだけだった。


「空間に姿を映しただけだからな」


『なんだったか、ニンジュツ?という奴か』


「似たようなものだ」


『そろそろ幻影がばれるのではないか?』


「ばれたらばれただな。


 来るぞ」


鋼兵はすばやく印を組む


「"獲り方 千条の糸"」








「ぬう!?罠か!?」


ドラゴン付近まで降りてきたナールドは初めて幻影だと気づいた


急いで剣を横に二回振り、急上昇を指示するが、鋼兵が目視できる距離まで来ており相手の術の展開範囲内だった


「参謀!!!」


「っく、上昇!!!」


ナールドが急ブレーキをかけて上空へ舞い上がるのと同時に、鋼兵を中心とした金色の筋がピンポイントで後続の兵士を囲うように幾重にも折り重なる


「シェズ!!!ジーン!!!カリーナ!!!」


金色の筋が消えた頃には、すでに他の兵の姿は無く、ただ空が広がっていた。音も無く、静かに早く、師団クラスの兵士を全滅させられた。


今まで竜を召喚する術者などグルンドの最高位術者のみと思っていたが、こんな広範囲で強力な技を1人で出す術者など居なかったため、戦場の精確な分析と判断を欠いていた。


まんまと敵の術中に嵌り、隊を全滅させてしまった


「.......化物め...」


それからナールドはゆっくりと降下していき、鋼兵の近くに降り立つ。


その間、鋼兵から魔術による攻撃は一切無かった。








ナールドは地上に降り立ち、そのまま静かに鋼兵の居るところまで歩いてきた


「どういう風の吹き回しだ、おっさん」


空間から村正を引き抜く。同時に周囲に結界を張り、ドーム状に鋼兵達を覆った


「言葉は不要。もはや悪魔を恐れる理由に足りなくなったのだ、鋼兵殿。貴殿のその真意を確かめたくあい参上した。」


ナールドは腰の短剣を二本引き抜いた。片手は逆手、片手は正眼の構えだ。


「.....それがお前達の言う覚悟か。以前コンヅキという男も同じように挑んで来たな」


鋼兵はゆっくりと鞘から村正を引き抜いた。


「.......」


ナールドは眼前の男の膨大な気迫と魔力に気が遠くなっていくのを武人の意思で堪える。


その間、相手の次なる一手を見定めるため構えを解かない。


「ならば」


そして、鞘を上に掲げ、一気に振り下ろす。


すると、村正の鞘は真っ黒な拵えの直刃の刀に変化した。


「全力でお相手つかまつる。が、俺の心流月派は一刀流。


 弐の太刀は無いのが本来の流儀だが、相手が本気の二刀なれば、こちらも二刀で相対すのが礼節と心得る。


 全力で行く」


いうが早いか、鋼兵は真っ直ぐナールドへ走っていった。走ると言うより、空間を一気にジャンプしたように見えるが。


「くぅ....!!!」


鋼兵の真っ直ぐな一撃。ナールドは障壁を展開するが、それを難なくブチ破り突破する。


空間ごと薙ぐような横振りにナールドは手元の二振りを使い全力で受け止める。


そのまま鋼兵は腕を基点に横に一回転して蹴りを入れる。ナールドはそこまで読んでいたため一歩当たる前に身を引く。


蹴りの直後来る二撃目の一振りを全力で回避し、間合いを取る。


「ハッ!!」


今度はナールドが返しの太刀で鋼兵に一撃を入れる


「......」


鋼兵はその斬撃を紙一重で避け、一旦間合いを取る


「....ただの指揮官ではないようだな。剣撃、冴え渡っている」


「かの有名な悪魔殿にお褒め頂き光栄だな。


 こっちはガードで精一杯だ」


(剣もガタが来ている。すでにボロボロでいつ折れてもおかしくは無い。おまけに初手で地鉄にヒビが入ったな)


ナールドの剣は国の鍛冶師が鍛え上げた逸品で、通常は刃こぼれ一つしない。


しかし、鋼兵の刀は古来の製法に基づいて造られた刀。その上魔術で硬度を圧倒的に上げているので、斬撃を受け続ければどんな刀もいずれは折れる。


ナールドは剣の柄を強く握り締めた。体に入れた禁魔薬の効力が切れかけている。


今までの肉弾戦の動体視力と反射神経、空中戦の目の良さ、空圧を物ともしない頑丈な体はこの薬の効き目によるものである。


同時に体を破壊しながら戦力へと変化させるため、使用したら最期。


そのため、瀕死の重傷時に使用するのが常套手段だが、それでも指揮官自ら服用はしない。


ナールドは最初から自身の命を捨てる覚悟でこの戦いに挑んでいた。


鋼兵は”武人”としての感覚でそれがなんとなく分かっていた。


「....."雷帝"」


鋼兵の周囲にプラズマ化による青い光が放たれ始める。


彼の高貴なその志を穢さぬように、全力で。


「来たか」


その姿を見てナールドは懐から包みを一つ取り出す


「貴殿の噂は聞き及んでおる。"鳳凰の陣"でも死なぬらしいな。


 であるならば、この世界の理を外れるしかない」


幾重にも封印の紙で包まれた中からナールドが取り出したそれは、"短い杖"だった。


「.....凄まじい魔力を感じる。その杖.......おっさん、ただじゃすまなそうだが?」


ナールドが杖を取り出すと同時にドーム状の結界が消えていく。


通常、結界は一度展開してしまうと術者以外が内側から解除する事はできない。


それほど、強固な魔道具は鋼兵もあまり見た事がない。


「無論、知っておるとも。これは"エリュシオンの杖"


 貴殿のように空間を捻じ曲げ、この世の理すら曲げる魔道具だ。


 しかも、この手の禁魔法具は発動したら最後、展開範囲の人、物、空間、ありとあらゆるものを異世界へと送る装置だといわれている。


 行き先は一箇所、あの世の底らしい。


 数百年前の、遺物だ」


「...それで?」


「此度の戦、大変楽しめましたぞ。


 しかし、大事な姪をむざむざ嬲られに出すわけには行かぬ。今回の判断は私の過ちだ。


 これで、清算する」


「......それで、そんな物で、そんなものの為に、お前は良いのか?


 分かっているのだろう?俺には通用しない」


「叔父様!!!!」


切羽詰った様子のアルジェンドが完全武装で竜から飛び降り、鋼兵たちの元へ走ってきた


「姫!!」


「っく、やはり悪魔!!!融和の心をむざむざ散らすなど言語道断!!」


腰の鞘から細剣を引き抜き鋼兵とナールドの間に割って入り対峙した。


「叔父様、それはかつて初代マギイストが残したとされる負の遺産!!


 ここで叔父上が命を落とす必要はありません!!!私めがここでこの男を斃します!!!」


凛とした雰囲気を纏い、アルジェンドはすくみ上がる自身の足を奮い立たせて鋼兵を睨みつける。


誰もがこれで状況が変化した、アルジェンドとナールドの挟撃で鋼兵も苦戦するだろうと思った。


鋼兵がそのドス黒い変化をするまでは。


「.....面倒」


「「!?」」


鋼兵の一振りで、"エリュシオンの杖"が真っ二つに斬られ、手に持った部分から上は乾いた音と共に地面に落ちた。


鋼兵とナールドの間まで約8m、到底斬撃は届かない。鋼兵の刀が伸びた感じでもない。


彼の体にまとう不気味な雰囲気だけが周囲を包む


「…貴様らのような奴らは本当に気分が悪い。反吐が出る。


 御託を並べる割には露ほども自分達の偽善を信じて疑わない


 そうやって戦火は広がっていく。なんの反省もなく、何一つ省みる事もしない」


鋼兵の漆黒の髪が、全て白く色が抜けていく。それと同時に鋼兵の腕に梵字の文様が浮かび上がり周囲には黒い霧がたちこめてきた。


肌は浅黒く変化し、瞳が紅く光り、瞳以外は黒く染め上がっていく。


先ほどまで携えていた黒い直刀が消え、代わりに鋼兵の周りには黒いオーラが浮かび始める。


『む、出たか』


なにやら気配をいち早く察知したドラコスがゴソゴソと準備を始めた。


懐から小さな瓶を二つと何枚かの札を取り出し、ドラコスは瓶を握りつぶし腕に魔力を込め始める


「ならば、全て殺ソウ」


再び鋼兵に目を向けると、ニマァと凶悪な笑みを浮かべていた


とても理性を持っているようには見えない。鋼兵の顔には見た事も無い文様が浮かび上がり、顔半分はその文様に埋め尽くされた。


「っ、姫!!!」


瞬間、ナールドが鋼兵とアルジェンドの間に割って入り、アルジェンドを押し倒す


「叔父様!!!」


神速で振られる剣を辛うじて避けるものの、ナールドの左腕は宙を舞った。


「ぐぅぅぅ!!!」


「叔父様、叔父様!!!」


「避ケルナよぉ~面倒なんだからサ」


腕をブンブン振り回す鋼兵の目は黒く染まり、瞳は赤く光っている


「さぁて、虫は虫らしく、サクっと死んでもらおうかな」


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