第36話 世界樹
皆様お久しぶりでございます。
久々の投稿でございます。
ゆっくりと更新しますので、気が向いたら読んでみてください。
エレネ達が着いたのはオーロ国内の中でもかなり新しい領地であり、そもそもオーロになったのも先の大戦より後である。
街道であった騎士は名をエディン・ゲイルといい、元はオーロに隣接した国の騎士だった。
先の大戦以降、オーロは内政に力を入れていたが、内情は奴隷商売と戦争経済に頼ったものでとても安定を図れるものでは無かった。
その中でもエディン属するアルミニオ公国では開戦覚悟の外交を進めていたが、突如政務官デュランドが謀叛、
結果としてアルミニオは内部から崩れ去り、今はオーロの属国をしているとの事だった。
エディンは涼やかに語るが、その瞳には炎を宿し、傍目にも悔しい思いをしているに相違なかった。
「....そうでしたか。我らプルーヴォはアクロの属国ですゆえ返す言葉はありません。
それでもこれだけは言わせて戴きたい。
エディン殿、貴殿の心根は正に騎士の鑑です」
それを聞いたエディンは少し困ったように笑い、鼻の頭を掻いた
「おかしな事を言う。
我ら騎士は使える君主によりその武勲を生かすものと心得ておる。
そなたらも騎士ならば分かるだろう。
今はこの様だが、望郷の念を我らは忘れたわけではない。
いつの日か、この手であのアルミニオの空を取り戻す。
そのためには、今は耐え忍ばなくては、な」
そういうと力強く己の腕を見せ付けた
傷だらけのその腕には、戦場でついたと思われる深い傷がいくつも見受けられた
愛用している甲冑も、よく見ると傷やへこみが多く使い込まれているのが分かる
「エディン殿....」
幾度目かの戦を経て、エレネはこういった古いタイプの騎士に久方振りに出会った。
そして胸に暖かいものが満ちていくのを感じた。本来騎士はこうあるべきなのである。
自身の信念に共感してくれる人物に出会ったような気がして、エレネは他の兵士達に対する感じ方も変わっていった。
エレネ達ははエディンの後に続きオーロ入国手続きを済ませ、そこから備え付けられていた馬車に乗り込み、
一気にオーロの中心都市を目指した。
エレネ達が出発するのを、国境の城壁の上から見ている人物が居た。
一人は老執事と言った感じの老人、頭は真っ白でモノクルをかけている。
もう一人は若い執事風の男、短い黒髪をオールバックに固め、その眼光は鋭い。
そして、メイド服を着込んだ長い黒髪の女性。黒いハイヒールに黒いメイド服で異色の雰囲気をかもし出している。
老執事は、腰の懐中時計を手に取り時間を確認し、他の二人に声をかける
「サリコ、ソフォラ、出番だ。
あの一行を消せ」
そう言うと、一瞬で若い男とメイドの女は姿を消した
「全ては、計画通りだ。時間通り、すばらしい。」
老執事は腰に懐中時計を戻し白い手袋をはめ、一瞬で姿を消した。
黒い二つの影を追いかけるように、一つの黒い影が高速で移動する。
眼では追いきれない速さで、老執事の一行はエレネ達に迫っていった。
「エレネ様、エレネ様」
すると先ほどまで黙っていたフローロが突如口を開き始めた
馬車はエディンとは別のものに乗せられており、スクツが馬車の騎手を買って出ているため、幌内にはエレネとフローロしか居ない
「どうしたの?」
「妙です」
周りを見渡し、フローロは不審げに眉根をひそめた
「この幌馬車の陣形、まるで敵の中を行くみたい....
なぜ車掛かりの陣形を組んでいるのでしょうか?」
「........」
エレネも幌から顔を出しまわりを見渡した。
すると、先ほど自分達が出立したときよりも多くの幌馬車が街道上に居ることに気づいた
「確かに、この馬車の数は多いな」
その幌馬車の多くが騎士を乗せたもので、通常は騎士は徒歩にて進軍する。そしてその騎士の多くがオーロではなく、様々な甲冑を着た兵士達だった
「私達の横を走る幌馬車も、前後の幌馬車も甲冑を着た傭兵達が乗っています
…何より、先ほどあれほど居たオーロ軍が一人もいません」
ドガァッ!!!
エレネが周りを見渡そうとした瞬間、背後の馬車が一台轟音と共に吹き飛んで行った
「何事!?」
エレネがびっくりして幌の外をのぞくと、すでに臨戦態勢の傭兵が何人も爆心地に駆け出していた。いくつもの兵士が剣を抜き、弓と斧、槍も見える
「敵襲!?」
「エレネ様どうしたですか!?」
馬の騎手をしていたスクツが慌てて幌馬車を止めようとするが
「!?
いや止まるな!!"あれ"はここでは分が悪い!!!」
エレネがものすごい剣幕で馬車を進めるように叫んだ
「何が居るですか!!」
スクツは前のみ見ているため気づかないが、後ろでは木が歩いているような妖魔が隊列を成し、
目の前の兵士達を次々に倒していった。ある者は胴体をちぎられ、ある者は丸呑みにされていた。
妖魔の一団は足元の草から一気に成長する形で生え出してきている。
つまり、次々に兵士が生まれているのだ。
そして、その様子を妖魔の一団の後ろから見ているメイド服を着た女が狂気に満ちた顔で見つめていた
「.......私のォ、妖魔ちゃんはァ、強ォいのようゥ」
女の手には幾重にも呪文が書き込まれた魔道書が握られ、足元には大きな魔方陣が描かれていた
そして、その様子を老執事が女の後ろから眺めていた
「やはり傭兵ではこの程度。これで我ら"世界樹"とやり合おうなどとは、片腹痛いですな」
老執事は、おもむろに手を前に出し、不意に空を掻くように手を動かした
すると、その瞬間一番手近に居た兵士が甲冑ごと輪切りになり、その横にいた兵士は顔の半分をもって行かれた
―ヒィィィイ!!?
一瞬のうちに二人もやられた事に動揺し、浮き足が立った所で老執事は更に攻撃を加える。老執事が操る手の動きにあわせ、斬撃が全方向から飛んでくる。
そして、周りに居た兵士達も勇気を出し突破しようとするが、見えざる斬撃に一人ずつ散っていった。
―ッヒュン!!!
「この斬撃はっ!!!」
細いワイヤーのようなもので絡めとられた剣は一瞬で切断され、輪切りになり散っていった
その様子を見ていたエディンは、周囲の索敵を行っていた自分の隊を呼び戻し、隊列を成している最中だった。
エディンの隊は少数精鋭をえりすぐり、城壁には伝令用の馬を除く軍用の馬に乗れない者を残してきている。
もし、万が一先遣隊がやられても、その後の大隊にて突破する事ができるからだ。
しかし、この状況は百戦錬磨のエディンをもうならせる。何と言っても、あの妖魔に勝てる作戦がないのだ。
そのためエディンは分隊を派遣し、すぐさまその被害が一番大きい中隊後方へ下がり例の老執事を相対した。
しかし、老執事の操るあの斬撃を見切るすべを未だに見出せていなかった。
「おや、貴方様がこの隊の隊長殿ですかな?」
こういっている間にも、エディンの周りには見えざる斬撃の断層が幾重にも走っている
「ああ、エディンだ。
お前さん、アルボのまわしモンだな?その斬撃は見覚えがある」
「ほう、私のこの技を見て分かる方がいらっしゃるとは」
そうしてい間にも、また一人、バラバラになって死んでいった
「おい」
エディンはゆっくりと背中の剣を手に取った
「はい?」
また一人、エディンの隊員が斬撃に倒される
「俺の隊に手を出すんじゃねェ!!!」
そして、神速に勝るとも劣らない速さで、老執事との距離を詰めた
―ガツッ!!!
振り下ろしたエディンの一撃を、老執事は徒手にて受け止めていた
「!?」
「甘いぞ、若造」
「っく」
顎の死角から放たれる見えざる斬撃をカンと予測でかわし、すぐさま横の森へ逃げ込んだ
「はっ!」
足元の木の根に転び、転びざま振り向くと、老執事の周りの木々が一瞬でなぎ倒されるところだった。
老執事の手元から繰り出される見えざる斬撃は周りの木々を軽々と断ち割り、空気を裂いて迫ってくる
「まだまだ、ですな。これではここで奇襲を掛けた意味が無い」
すると腕を一旦下げ、拳を突き出し構える
「徒手にて、お相手致します」
言うが早いか、老人とは思えぬ見えざる一歩。
達人のみ、その境地へたどり着く業、縮地法
慌てて背中にしょっている盾を手に取り、来る一撃に備える
一瞬で間合いを詰められ、拳が大蛇のように伸び、いとも容易に鋼鉄の盾をカチ割る
「"疾風烈火"」
次々に繰り出される高速の突きに合わせ上体を反らし、一瞬だが間を空けさせる
「オラ!!!」
右前足蹴りから腰を回し相手の顔面を狙う。一撃目は空を切るが、振り向きざまにもう一度蹴りを入れる
「ッシ!!」
しかし、老執事はいとも容易くその蹴りをいなし、返しの突きを打ち込んでくる
「"龍星無双連撃"」
蹴りと突きのコンビネーション技の乱舞にじりじりと後退をさせられる
「"双破槌"」
そして、壁際まで後退させられたところで、振り上げた足を雷のように振り下ろし、抉りこむような蹴り下げが見舞われた
「逃がさん」
そこからの嵐の様な乱打は、目にも止まらぬ速さで次々に打ち込まれ、あっという間に戦意を削ぎ落とした
「っか....はっあっ...!!!」
連続して蹴りを入れられ、なすすべもなく崩れ落ちる。
「エディン殿!!!」
エレネは崩れ落ちるエディンに近づこうとしたが、行く手には若い執事の男が立ちふさがった
「どこを見ている」
もう一人の執事が眼前に迫る。この執事は若いが、全身から只者ではないオーラが漂っていた
「お前の相手は俺だ」
若い執事の男はゆっくりとポケットから手を出し、その手には黒い手袋がはめられていた
「お前なんぞにかまってる暇はない!!どけ!!」
腰の剣を払い、エレネは若い執事に斬りかかる。
しかし
「鈍い」
執事はいとも容易く避け、返しの蹴り上げを超低空から入れてくる
(この動き......)
冷静に相手の動きを判断する。おかしな点は何も無い。ただ蹴りを入れただけだ
「どうした?もう疲れたのか?」
執事が何の構えもなくただ歩いて距離を詰めてくる
(やはりだ!あの方に動きが似ている!!)
瞬間、腰の剣を正眼の位置に構えなおし、真っ直ぐに相手を見る
「..?.....!」
その瞬間、執事はピタリと足を止め、相手の様子を伺いながら構えを解いた
そして、腰の銀時計を取り出す
「俺の動きが分かるのか...分が悪い、引き上げよう。
もう時間だしな。」
そういうと若い執事は銀時計を仕舞い、
「カシュターノ!!!もう終わりだ、行くぞ!!!」
先ほどの老執事に声を掛けた
「....もうそんな時間か。
時が経つのは早い。またやろう、プルーヴォの若き戦士よ」
そして、老人がパチンと指を鳴らすと、辺り一帯の妖魔が消え去り、同時に老人も姿を消した
「エディン殿!!!」
腰に剣をしまったエレネは、急いでエディンに駆け寄る
「エディン殿、大丈夫ですか!?」
エディンの肩を掴み、抱き上げる
「.....っく、ああ大丈夫だ...
それより、ここがこれじゃあ城にもなにやらあるかもしれん....
先を急ぐぞ」
そういうとエディンは周りで残っていた兵士と馬車を再編成し、戦死した兵士達も出来るだけ馬車に乗せ再出発した。
「大丈夫ですか?スクツ、治癒魔術つかえるですよ!」
元気に言うスクツに、エディンは気が抜けたように笑みをこぼした
「では頼もうか。」
「はい!」




