第30話 白銀の騎士
鋼兵とコンヅキは城門の入り口から更に遠い場所にある城壁の小さな割れ目を囲んでいた
「ここからなら進入できる。
見た目は小さな割れ目だが、石の配置を変えると通れる仕組みだ。
いつかこの国を抜けるときのために用意しておいた」
そういうとコンヅキは割れ目の石の配置を変えていく
「....いつか、ね。
お前はこの国をどう考える?」
せっせと石を組み替えるコンヅキに鋼兵は問いかけた
「....アンタには言っておいた方がいいな。そもそもこの国は五人の将軍により治められている。
しかしその実一人の将軍が戦争をひっきりなしに仕掛けるので死者も多いし外交も良くない。
政治的な面では戦争がイメージとして付きまとう。
アンタもプルーヴォで同じような話を聞いたろ?」
「...ああ」
「おれはこの国の軍隊で歩兵部隊として軍に居たが、それももう終わりだ。
これは市民には知らされていないが、魔人の大将は近々アンタを狩るためにさらに戦力を投入するとの事だ。
更に民間人が戦争に投入されることになる」
「俺は向かってきた敵を斬り伏せるのみ。
それを俺に問うてどうしたいのだ」
「アンタにとめてほしいのさ。
実は戦争をするほどこの国の内政は統制が取れていない。
以前は獣人やドワーフ、魔人がそれぞれ共生していたが、近年魔人が増え続け治安が悪化している。
帝国内部には帝国近衛兵が治安を取り締まっているが、それも魔人の加入を期におかしくなり始めている。
この国は、いずれ他国の侵攻で滅ぼされる」
そうしているうちに石の組み替え作業が完了し、成人一人が通れるスペースが確保されていた
「俺にどうしろというのだ」
「アンタの技量、凄まじいものがある。おそらくこの国で一番を争うだろう。
俺は軍の中でも下っ端のほうだがそれなりに蓄えもある。
俺の貯蓄を全部はたいてアンタを雇わせてくれ。」
「俺に何をさせたいのかが見えないが」
「簡単だ。
俺達のような軍部に不満を持つものはいくらでもいる。そいつらの先導になってほしい。
具体的にはこの国の軍部を壊滅させてほしいんだ。
今のような強大な力が無くても俺達はやれる。」
「それは無理だな。
コンヅキ、貴様は指導者には値しない」
「!?」
「ア、アルジェント様!!!」
この場で最も遭いたくない相手、白銀のアルジェントとその部下がいつの間にかコンヅキと鋼兵の周りを取り囲んでいた
白銀の甲冑に身を包み、その容貌は仮面で伺い知れないが全身を包み込むオーラがアルジェントを覆っていた
外でここまで接近させた事はあまり無いが、どうやらただで帰す気は無いらしい
「コンヅキ、かの剣士をここまでおびき出したのは褒めてやろう
だが、貴様が謀叛を企てているというのがよく分かった。
軍人としてここで潔く死ね」
「断る!!!
俺達、いや国民が貴様のように戦に生きているわけではない!!!
俺達のように捨て駒になる者ならともかく、兵士でないものを駒にしようなど!!!」
「それがどうした
我らは勝たなければならない。あのお方のためにも、我らに敗北の文字はない
いつもでも見苦しいぞ、負け犬が」
眼にも留まらぬ速さでアルジェントは一気にコンヅキへと迫った
「ひっ!!!」
「ッシ!!!」
アルジェントの腰にある細剣が蛇のようにコンヅキの首へ迫った
―ギィィィィン
そして後一歩というところで、その剣を鋼兵の刀が止めていた
ゆっくりと、鋼兵を睨みつけるかのようにアルジェントは向き直る
「....邪魔立てするか異国の剣士よ」
「無論。
その男は俺の雇い主だ。勝手に殺すな」
ギリギリと刀と剣の競り合いの後、アルジェントは剣を引き一歩間合いの外に出た
「いいだろう
お前達、手を出すな!!!この男は私が狩る!!
コンヅキ、貴様は後で狩ってやる」
「ひっ」
周りの兵士がコンヅキを取り囲み、鋼兵とアルジェントの周りから引いていく
コンヅキはその覇気に腰を抜かしたが、鋼兵は相手の力量を静かに推し量っていた
―こいつ、女でありながらなんと言う気迫だ
鋼兵は刀を構えなおし、正眼に構える
「デンサヂャルデーノの悪魔よ、凄まじき剣を振るう悪魔と聞く
だが、ここで貴様は私に敗北する。
貴様が召喚者であろうとこれは変わらぬ。それを証明しよう」
アルジェントがゆっくりと剣を構える。そしてそれは鋼兵と同じ正眼の構えだった
「!?」
「どうした、私がこの構えを見せるのは可笑しいか?
来ないならば私から行くぞ」
次の瞬間、鋼兵の間合いにアルジェントが飛び込んできていた
その瞬間細い剣が横薙ぎに鋼兵に襲い掛かった
「......その歩法、どこで覚えた」
アルジェントの剣を刀で受け、それを弾く
「貴様が知る必要はない」
「ある!!」
鋼兵との間合いをつめ、鋼兵は構えを八相に構える
「お前のその剣の構え方、歩法、すべて小野流のものだ。
俺の父は心流月派の開祖で小野流を改正したものを剣訓としている。
俺はそれを引き継いだ。だから剣の動きは全て分かっている。」
「だからなんだと言うのだ」
「小野一刀斎、俺の仇の名前だ」
名前を出した瞬間アルジェント、コンヅキも含めその場に居た全員が固まった。
「俺が殺したと思っていたが、生き延びていたようだな
奴が生きているのは俺と同じ理由だな?奴はどこにいる」
話しているうちに段々と鋼兵の髪の毛が逆立ち始め、その瞳は赤く変化していく
そして、どこからとも無く黒い霧が発生し始める。もやの様な霧は段々と広がっていった
「貴様に答える必要は無い!!!」
アルジェントは鋼兵から出される異様なオーラを肌で感じつつも、訓練通りの動きで迫っていく
―突然威圧感が増した...?
全身をバネに、細剣を振るい風貌が変化しつつある鋼兵に斬撃を打ちこむ
「ハッ!!!!」
大きく曲がった一撃は、鋼兵を捕らえず空を斬った
「剣で勝負するか
いいだろう」
いつの間にか後ろを取られたアルジェントは慌てて体勢を立て直し剣を振るう
「小細工を!!!」
「かような振る舞いは無駄だと言っている」
その剣を、軽くいなし刀の背でアルジェントのわき腹を打ち据える
「ぐぅ...!!」
強烈な一撃がアルジェントに打ち込まれるが、それでもアルジェントは立ち上がった
わき腹の刺すような痛みから内臓が破れているのが分かった
「なんの.....これしきで.....!!
ぐふうぅっ!!!?」
甲冑の隙間から血が漏れ出す
「一刀斎の居場所を吐け。さすればたすかろう、小娘」
鋼兵が見せる威圧感は凄まじく、とても同じ生き物とは思えなかった
「っ!!!
ほざけぇええぇえぇぇぇぇぇええ!!!!!」
―この男、噂以上の剣鬼......!!!
すぐに体勢を立て直すもいつの間にか鋼兵は間合いの中に入ってきていた
「”覇気離心流派生 雲竜の太刀”」
ワルツのように回転しながら死角より4つの斬撃が飛んできた
鋼兵が回転しながらアルジェントに迫る
「"守式弐番 奏円"!!!!」
―ギィィィィイイン!!!!
アルジェントはその斬撃を真正面から斬り返し見事守りぬいた
体を中心に円を描き、周りからの刃に合わせて斬り返すこの技は小野流の基礎の技でもある
この技を見て、鋼兵はやはりこの娘が剣術を誰かに師事して習得したことを確信した
鋼兵の剣戟はアルジェントのそれより勝っており、若干アルジェントが引かされた形となった
「はぁ......はぁ.......はぁ......!!」
剣を地面に突き立てて体を支える。すでにアルジェントの体力、気力は底をつきかけている
「限界も近いようだな
おとなしく言うことを聞け、小娘」
「誰が!!!」
「いい加減にしてください、アル。
その男は客人としてもてなした方がこちらには得ですよ。
分かったら剣を仕舞ってください」
「叔父上!!」
叔父上と呼ばれたその男は、オーロ陸軍参謀長のナールド
アルジェントの叔父であり、その手腕は各国に知られ賢帝ですら一目置く存在である。
その風貌は痩せ型の長身、コバルトブルーの瞳に白髪交じりの赤いショートの髪
服装は黄土色の上下に黒いブーツ、腰には剣でなく瓶が携えられていた
「全く、陸軍の総帥が真っ先に戦場に出るとは何事ですか
少しは立場をお考え下され、姫」
「姫はやめてください!!
それにこの男はかのデンサヂャルデーノの悪魔です!!!ここで狩らねば、更に被害が拡大いたします!!!」
「確かにそれは一理ありますが、ここで彼が私達に対して危害を加えるつもりなら、とうに全滅しております。
それに、彼は”オノ イットウサイ”なる人物を探している。
我らにはそのような人物の心当たりはありませんが、闇雲に刺激する必要もないかと。
それに、彼はコンヅキ副隊長の命を助けました。これは立派な救命措置ですぞ」
「兵士ならば戦場で散るのが定め!!!
いまさら命を惜しむなど言語道断!!!」
「姫様、いま本気の彼を止められるのは剣帝のみでしょう
それに彼はわざわざここまで乗り込んできた、それなりの理由があるのでしょう。
それを聞かずして、戦もありますまい」
そこまで言い聞かせられ、アルジェントはすっかり毒気を抜かれてしまった。
「......もうよい。
あとは叔父上の好きにされるが良い」
アルジェントは手にした剣を腰に戻し、マントを翻して立ち去る
「総帥!まずはメディックの所に!!!」
そのアルジェントを周りの兵士が取り囲むようにして医療班のところへと連れて行った
その間、アルジェントの部下全員が鋼兵を睨みつけていた
「そのお役目、お受けいたします。
ささ、デンサヂャルデーノの悪魔では疎通も取れますまい。
私はナールド、この国の軍事面において参謀役をおおせつかっております。
あなたは?」
ナールドは仰々しく手を差し出し、握手を求めてきた
その眼が笑っては居なかったが、鋼兵はその手に乗ることにした
手を差し出しつつ、腰に剣をおさめた
同時に逆立っていた髪は元に戻り、瞳は黒く変化した
「小野 鋼兵、プルーヴォの食客だ。
それと、あとからプルーヴォの使者がやってくる。先日のデンサヂャルデーノ平原の説明を受けたいそうだ。
誰かつけてくれ」
「分かりました。用意いたしましょう
鋼兵様は私と一緒にこちらへどうぞ」
「あの男の処遇はどうなる?」
ナールドについていきつつ、鋼兵はコンヅキを見ながらその後の処罰をナールドに聞いた
「ええ、先ほどの話だと謀叛のにおいがしましたが今は眼を瞑りましょう
すぐには行動に起こさないようですし。
なにより、彼を罰した場合我々に攻撃を仕掛けますでしょう?」
ナールドはにこやかに答えたが、鋼兵はその真意をうかがい知れなかった
「お前は、何者だ?」
「ただの年寄りですよ、鋼兵様」
ホホホと笑うその姿は、言い知れぬ深さを物語っていた
鋼兵はナールドの先導で正式に正門から入国し、そのまま軍部の建物へと案内された
「ようこそ、オーロ帝国軍事本部へ」
ナールドは一切笑みを崩さず、鋼兵を見続けていた




