第3話 異世界での出会い―王国騎士団
その後数年の後に師匠に鍛え上げられた鋼兵は両親の仇である一族の長を討ち取り、
仕掛ける時に放った火がそのまま館を覆って、崩れた館で息絶えようとしていたはずだ
そうでなければ父や母の死、そして尋常ではない修行の意味がなくなってしまう。
それもこれも師匠のおかげだ。
師匠の元では古今東西あらゆる情報が集まっており、
今まで一切見たことも聞いたことも無い武器、戦術、種族といったものまで知った。
ここに何故このような情報があるのか師匠に聞いたときには
「天下の将軍様にはもったいないから」
といい感じではぐらかすのだった。
あの決戦の後、俺はあの場所で死んでいるはずなのだが、なぜこのような場所にいるのか理解できなかった。
深く考えても仕方なさそうだったので、とりあえず刀を鞘に収め、近くに落ちていたもう一振りの小太刀を腰に仕舞い、顔を洗いに小川へ近づく
「ん」
すると、対岸に水浴びをする人間と思わしき女を発見した。
距離にすると20mで、人間の視力ではやっと確認できるレベルであるが鋼兵は視力強化で視力をぐーんと上げているためちょっとした望遠鏡レベルで遠くを見れる。
目の覚めるような美貌、金髪に白い肌、しかし日本人とは明らかに違う雰囲気にやはりここは日本ではないのだと改めて実感した
なぜか耳が異様に長く、伝承で伝え聞いた”えるふ”とか言う種族だったか
あ、こっち向いた。
しばらく見ていると、女もこちらに気づいたのかこちらをずっと見ている。
「っ!?」
突然驚いたように女(エルフ)は慌てて川から上がる
そのまま近くの衣服を取り、森に逃げていった
「?」
しばらく様子を見ることにする。いざとなれば俺の剣を振るえばよい
安易なことを考えながら顔を洗っていると、女が着替え終わったのか森から出てきた
服装は、上下ひとつのワンピースのような姿だった。
重厚な鎧と、無骨な剣は無ければ。
きれいな金髪は後ろにまとめられ、強い敵意を持ってこちらをにらんでいた
明らかな敵意である。
いきなりの異国でいきなり敵同士ではどうしようもないので、少しでも弁明するため、娘のほうへ近づいていく
すると
―ブゥオンッ!!!
顔の目の前に奇妙な歪みが現れた
「ちっ」
あわてて体を反らせ、空間の捩れをよける
なんともいえない奇妙な術だったが、よけたのは正解だった。
飛んでいった(?)方向を見ると、木があらぬ方向へ曲がっていた。
「…」
娘のほうを見ると、なにやら唱えている
「やべぇな」
この手の方術は嫌というほど見てきた。
その中でも”空間ごと”圧縮しに来るタイプの危険な物は初めて見た
こうして考えている内に続けて3つほど、空間の捩れが向かってきている
よくよく見ると球体をしているようにも見える。
俺は即座に飛び上がり、同時に空中で”縮地”を使い、相手の懐までもぐりこむ
「!?」
―コンマ数秒の世界のやり取りについてくるのか
女が理解できないといった様子で俺のに向かい手のひらを向けてきた
「!
させん!」
「きゃっ!?」
俺は即座に娘を組み伏せ、後ろ手にひねり上げる
「…っく」
細い首筋に刀を突きつけ、黙るように促す
「しゃべれば斬る。
どうやら言葉は理解できるようだ。
ひとつ聞く、お前は何者だ?」
圧倒的な速さ、男の前では逃げ切れないと観念したのか娘は素直に口を開いた
「私はこの川の上流に住む者だ。
今日は川が澄んでいたので水浴びをしていて、今は獣に組み伏せられている」
恨めしげに俺をにらみ返す
「ほう、そりゃぁ悪かったな。
俺ももっと魅力的なチチしてる女だったら獣にもなったろうよ」
俺が発言した直後、娘は顔を真っ赤にしながら必死に睨み上げてきた
「っ!
貴様のような外道に言われたくはない!さっさと離せ!!」
ふむ
俺はぱっと手を離し少女に対峙する。
慌てて俺から離れ、胸元を隠すと同時に乱れた服を直す。
綺麗な瞳は相変わらず俺を睨んだままだ
「自己紹介と行こうか。
しかしその前に、その右手の杖から手を離したらどうだ?」
俺の言葉に娘は驚いたようにはっとする。
今、他の者には両手を”素手で”構えているように見えるだろう。
他にはね
「き、貴様何故わかった!?」
へぇ、驚いた顔もできるのか
っと、怖い怖いいつでも魔法とやらが撃てるのか
驚いたのと同時に小さな歪みが俺に飛散してくるのでそれをさっと避ける。
「貴様も魔法が使えるのか?」
相変わらず胡散臭いやつを見るかのような顔で俺を怪訝そうに見つめる
やれやれだ。
とっさに抜いた腰の小太刀を仕舞い込み、両手を挙げる
降伏といった感じでだ
「貴様ではない。
小野 鋼兵。元お庭番にて今は流浪人だ。お前は?」
ここに来て少女は俺を睨みつけ、値踏みするような目で俺を見る。
「...まぁ事故のようなものだし....もし私に手を出そうとしたら次は消し飛ばすぞ?」
ずっと俺に向けていた両手を下ろす。ようやく警戒を解く。
ま、事の発端と悪化の原因の半分以上俺の責任だけどな
「私はエレネ。エレネ・オーシア。
この先のエポック村の監視役兼王国騎士団団員よ。あんたみたいな怪しい人間を監視するのが仕事。
あんたこんな辺境まで何の用?オニワバンなんて聞いた事ないし...
第一、あんたのその格好、見るからに怪しいんだけど」
ここでずずずいと俺によってくる
威嚇しているように腕を組んでいるが、貧乳は貧乳である
「...おかしな事考えると消し飛ばすわよ?」
手元に光が収束する。
どうやらあの杖がブースターとなり、魔法が撃てるようだ。
「2,3質問したい」
「何?」
切れ長の眼はサファイアのように青く輝き、凛とした雰囲気を持っている。
変な質問したらぶっ殺すといった感じだ
「まずここはどこだ?俺が元いたのは日本の飛騨というところだ。
2つめ。お前は先ほど魔法と言ったな?俺の国には魔法は無い、あるのは方術だ。魔法とは何だ?
最後、今この世界はどのような状況にある?」
一息にここまで言うと、少女は驚いたように黙ったまま俺を凝視している。
もしやまずい質問だったのか?
俺がそう思っていると、少女は突然考え込むようにうつむいた
「ニッポン?ヒダ?
...!
あなた、もしかして”異界人”だったの?
しかし、"あれ"は今王宮で行われているはず....
でもこれは逆に...」
急にぶつぶつはじめてしまったエレネと名乗る少女
「おい、何でもいいから俺の質問に答えろ」
痺れを切らし俺が声をかけると、エレネは思い出したようにこちらに向き直った
「えっ?
ええ、いいわよ。まず順番に話すわね。
たぶんあなたは異界人だから一から説明するわね。」
「...たのむ」
俺は長くなりそうなエレネの説明を覚悟しながらこの世界を少しでも楽しめるように考えを巡らせていた。