第21話 双剣 対 一刀流
ギィィイイン!!!
激しい斬戟を交わすこと数回、一瞬たりとも気を抜けない相手にコンヅキは肉体、
精神共に普段の何倍も費やしていた
鋼兵の腕が蛇のように伸び、片手両手の持ち替えによって神速で剣先が飛ぶ
さらに、鋼兵が何か魔術で武装強化し応戦すると思っていたコンヅキは
何の魔術行使も無い鋼兵のただの剣術に一方的に押されていた
歩兵師団は中隊クラスでは剣に自信が有る者が務める事になっており、これは暗黙の了解となっていた
コンヅキはこのショーテルのような湾曲した刀を二刀操り、トーナメントにて準優勝を勝ち取っている
内心かなり剣に自信が有ったため、魔法を打たせなければ勝てると算段していたが案外そうも行かなくなっていた
「っ!?」
特に、鋼兵の操る剣術に顕著に見られる現象としていくつも剣戟が飛んでくる事が挙げられる
剣先が揺らめき、その瞬間目の前に剣の切っ先が現れる。
これがかなり厄介で、ほぼ見えない剣と思ってもいい
(幻なんかじゃなく、本物の斬撃なのが厄介だ)
鋼兵のもつ刀は二振りあり、そのうち一つは腰に差したままで抜いていない
手加減されている感が否めなかったが実質この一振りの刀でも相当苦労しているため
実力差が有ることを認めざるを得ない
(細い身なりであるが、かなりできるっ!!)
自身の操る双剣の二刀流は自国の黄金宮騎士剣術大会で第二位の腕前を誇るが、
それでも相手の力量が計り知れなかった
押しては引き、引いては返しの連続でどこから攻撃が飛んできているのかも分からない
(どうすればここまでの力がっ!)
内心一撃の下斬捨てられると思っていたが案外粘れることに不安も少しは取り除かれた
だが息一つ乱さない鋼兵の雰囲気に飲まれつつもあった
(まだだ、まだ倒れるわけには行かねぇ!)
不意に入れられた鋭い横なぎにとっさに引くも、身に着けていた鎧に切れ込みが入る
そのまま振り向きざまに左右の剣による横なぎを返す。
相手の攻撃の間にある一瞬の隙に反撃を入れる絶妙なタイミング感覚により、
鋼兵の一撃はすんでのところでかわされる
(通りで、あのブルートイ将軍がやられるわけだ...
この剣士の腕はまちがいなくオーロ帝国でトップを争う腕前だろう...!)
続けざま、一瞬で間合いを詰め"ほぼ同時"にしか見えない斬戟に体を仰け反らせて回避する
返し技にまわし蹴りを入れるも同じローキックで返された
間合いを外して外から攻撃を入れようとしても間合いに入った途端剣先が目の前にある
正に、絶対防壁(イージス)
これほどまで強固な守備剣術は見たことが無かった
―ヒュッ
―キンッ!!
懐に忍ばせたダガーを放るが、途中で叩き落される。
三本同時に手、足、胸を狙い投げつけたがどれも一瞬で落とされる
「チッ」
剣の間合いに入った瞬間に薙ぎ落とされた
(こんな....こんな馬鹿な!!)
そして、右斬り上げ、左斬り上げ、面打ちの三箇所同時攻撃に手一杯で、
鋼兵の足元から伸びる影に一瞬気づくのが遅れた
鋼兵の影が自分の影と重なった瞬間、体が固められたように動かなくなった
「...っ!」
「陰陽五行 闇の気 影術
"闇絡め"(やみがらめ)」
指先一つ動かすことができないこの状況で頭だけはしっかりしていた
このままでは殺される
あのデンザヂャルデーノの悪魔に喧嘩をふっかけて只で済むはずが無い。
全身の血液が沸騰したようだった
「....!!」
動かしたくても金縛りにあったかのように手足が動かない
まるで誰かに体を乗っ取られたかのような感覚だった
「無駄な抵抗は止せ。
下手に動けば、斬る」
「....」
この場の勝敗は決した
コンヅキは手に持ったショーテルを落とし、静かにうなだれた
「鋼兵様」
すぐ近くに寄ってきたエレネとスクツ、フローロに大丈夫だと手を振って知らせる
「.....コンヅキ副隊長」
「フローロか」
鋼兵の元へ駆け寄るフローロを眼にし、コンヅキは諦めたように頭を振った
「お主が敵の軍門に下るとはな...通りで俺の剣術が通用しないわけだ。
なるほど..."帝王"以上の男か....」
コンヅキは観念したようにどっかりと腰を下ろした
「俺は敗れた。
斬れ」
忌々しく首を出すコンヅキだったが、その表情はすっきりしたものだった
「コンヅキ副隊長。
オーロで何かあったのですか?」
フローロはコンヅキに駆け寄り、ひざを付いてコンヅキと同じ目線で語り掛けた
「オーロでは現在"デンサヂャルデーノの悪魔"を討伐するよう指示が出ている。
お主ら斥候隊が戦に出立した後の話だ。
ここにいるのは俺だけだが、もう一組の部隊がプルーヴォに向け立った。
今頃プルーヴォには着いているだろうよ」
カカカと乾いた笑い声と共に、懐から酒の入った瓶を取り出し、一気にあおった
「っぷはぁ!!
やはりリクボーロはうまい!!
俺がここで死んでも、他の者がやり遂げる。
俺の役割はお前ぇをここに縛り付けることだ。
足止めをせずとも最悪お前達の意識から別働隊のことを忘れさせることは出来る...
何より時間稼ぎが出来ればこちらのものだ....
プルーヴォに差し向けた他の精鋭共を見くびってもらっては困る!
最初から俺なんざ捨て駒よ」
ガハハハとまた酒をあおる
「鋼兵様」
「鋼兵さまぁ」
「お前達は勘違いしている。
プルーヴォ王国はそのようなことでへこむほど軟なつくりをしていない。
その力、その身をもって体感するといい」
鋼兵が刀を鞘に収めると、手刀でコンヅキの意識を刈り取る
「くぅっ!?」
コンヅキは崩れ落ちた
「プルーヴォには紅葉が居る。
こんなレベルの奴らが行ったところで城は落とせないぜ。
先を急ぐぞ」
鋼兵は立ち去る前、コンヅキの背中に自分の血で印を刻み込み、術を施した
「目覚めても仕掛けてくるなよ
なぁに、お前の奥さんも助けてやるさ」
鋼兵達が立ち去った後、その場は静けさを取り戻した




