第10話 赤い鬼の軍勢
「鋼兵様の合図!」
ミーネ率いる本隊は後方へ下がりながらも戦場の様子は逐一観察していた
そして、鋼兵の話どおりいくつかの中隊級の兵団がこちらに向かってきていた
その牛魔軍の背後から大きな炎の球が打ち上げられ、空中で盛大に爆発した
これこそ鋼兵の言う合図であり、一斉攻撃の合図である。
「皆の者、鋼兵様が奮戦して居られる間、この街道に敵を通してはならぬ!
我らは我らの行えることをするのだ!
王城を守らんが為、奮戦せよ!」
『はっ!』
ミーネの合図と共に杖の穂先を並べた一段が魔法を詠唱する
「第一陣、放て!」
杖の先から大きな水弾がいくつも放たれ中隊へ向かっていく
―ドゴォ!!ズガァァ!!
水弾の威力も数も相当なものだが、相手は牛魔の兵
身体能力と硬さは他の種族をはるか上回る
「止めるな!弾幕を張るんだ!」
ミーネも他の者に続き水と氷の弾丸を放ち続けるが、やがて牛魔の軍団がプルーヴォ軍へ迫ってきた
「さすが、牛魔、"硬い"!!」
一方牛魔軍はこの程度の水球ならばもろともしなかった
かのアクロ王国側近魔術師共ならまだしも、この程度の水魔法であれば全く問題ない
「グモォォォォオオオオオオオ!!!!!」
「女だぁ!!!女が居るぞ!!!」
「おおおお犯せぇええええぇぇええ!!!」
「イイイイヤアアアァァアホオオオオウウ!!!」
牛魔が雪崩のようにミーネ隊へ迫ってきた
「鋼兵様...」
これから自身に行われる行為に頭が真っ白になり、恐怖しながらも必死に弾幕を張り続ける
奮戦むなしく牛魔の軍があと10mと差し迫ったとき、オーロ軍の前に突如真紅の鎧を纏った軍勢が現れた
その数、3千騎
異国の紋をあしらった旗をなびかせていた
「「!?」」
牛魔軍、プルーヴォ軍が共に動揺する。
尚も進軍を続ける牛魔軍に対し、真紅の鎧に身を包んだ兵団の一人が声高に叫んだ
『我ら赤鬼兵軍、鋼兵殿の助太刀に参った!!!
全軍、守勢後攻勢となり後方軍を守りたてよ!!
左翼、右翼共に討ち漏らすな!!
いざ応戦せよ!』
『応!!!』
並べた穂先を牛魔の方へ向ける。
突撃する牛魔の進撃の凄まじさは戦経験の少ないミーネでも十分知っていた
あの進撃は中級魔術師クラスの魔法、城壁ももろともせず突き崩す最悪の手だ。
しかも純牛魔のみで構成された軍隊の破壊力は並ではない
しかし、目の前の真紅の軍隊はそれを意に返さず津波のような軍勢を槍で押し返していた
それまで魔法を撃ち続けていたミーネの軍勢もその戦いぶりに唖然となってしまっていた
―この人たち、戦慣れしてるだけじゃなく一人一人の技量が凄まじい...!
「くそおおぉぉぉぉぉ!!
たかがエルフごときに負けたとあっては牛魔の名折れだぞ!!!
あの赤い一団を押しのけろ!!」
牛魔の司令官が半狂乱になりながら指示を飛ばす
しかし、前線の兵は次々に神速で繰り出される槍さばきによって倒されていた
敵の前線を数で抜いても後ろで控える兵に剣で斬られ、槍と剣の兵が次々に入れ替わり戦うので疲労も溜まっていかない
正に鉄壁だった
その守りに牛魔軍がほんの少し引いたところを、団長は見逃さなかった
『敵の勢いを削いだ!
攻勢で仕掛けよ!!!』
それまで陣を敷き守りで固めていた軍勢が一斉に攻撃に出た。
槍での神速の突き、刀の鋭い太刀筋に牛魔はなす術無く散っていった
単純に攻めていた牛魔兵は疲れきっており、その上技量もはるか上の軍勢に押し返されてはさすがの牛魔軍もたまらない。
牛魔兵は次々に撤退を開始していった
『ミーネ殿!居られるか!!』
「ひゃい!!!」
突然あの赤の軍勢の司令官に話しかけられ驚きのあまり声が上ずってしまった
よく見ると司令官は鋼兵と同じ黒髪に黒い瞳だった。
『我ら鋼兵殿の助太刀で参った。
しかしこれ以上戦うことはできぬ。
後は任せても良いか?』
その問いにしばしミーネは思案するも
「はい、お任せください!」
元気よく頷いた
『うむ、良い返事じゃ。
ではこれより我らの陣を引く。後は任せたぞ。
では、さらばじゃ。
全軍、引けい!!!』
その言葉を最後に赤い軍団は消えていった
その場に残ったのは牛魔の死体と、がら空きの敵の背中まで伸びる平野のみだった。
「ミーネ様」
他の兵士が訳がわからぬといった様子でミーネを見る
「さあみんな、これから掃討戦を行う。
まだ魔法が撃てるものはありったけの力で撃ち込め!!
少しでも鋼兵様の元へ向かう兵力をそぐのだ!!!」
ミーネは撤退を開始する牛魔の群れに向かい氷弾を打ち込む
「鋼兵様...貴方は何者なのですかね...
フフフ」
魔法を打ち続けるミーネは艶やかに笑っていた




