転校生-四生視点-
先生「入ってきて下さい」
そう言われ、俺は教室へを足を踏み入れる。
途端、強く感じる沢山の視線。
だが、殺気や敵意は感じない。
恐らく興味だろう。それならば問題無い。
中央まで歩き、全員に目線を向ける。
男女が入り混じったクラスで、好奇心で溢れた眼が数多く感じられる。
全員の顔を見渡す。
クラスメイトの顔をざっと見渡し、顔を記憶する。
そうして、自分から見て一番右の一番上。
そこに今回の護衛対象である『朝凪』の姿があった。
資料通りの長い金髪に鋭い目。
興味に塗れたばかりの視線の中、あまり興味がなさげな顔をしている。
先生「では、自己紹介をお願いします」
そう言われ、一度だけ自分の『設定』を頭の中で再確認し、口を開く。
四生「皆さんこんにちは。僕の名前は『国条 四生-こくじょう しせい-』と言います。
急な転校なため、まだ勝手がわからず皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが
精一杯頑張っていこうと思いますので、どうか宜しくお願いします」
普段とは全く違う声色で、全く違う口調で喋る。
無論、演技だ。
普段通りの俺では『朝凪』に近づきづらいだろうと思った結果
この様な『設定』にした。
メガネをかけていることもあり、これぐらいの方が『親しみやすい』と判断したのだ。
先生「彼は右手に火傷を負っている為、特例でグローブを付けています。
まだ生活に慣れないと思いますので、皆様どうか困っていれば助けてあげて下さいね」
これも『設定』通りだ。
勿論俺の右手には火傷なんてないが、念には念を入れてグローブの下にはある細工がしてある。
それは“火傷痕のメイク”だ。
メイクといっても大層なものではなく、特殊なシールの様な物を貼ることで
見た目と質感を火傷に似たようにしてあるだけの物だが
それにより、俺の右手の刺青『首無し狼』も隠れて見えなくなり
万が一グローブを外されたりしても問題ない様にしてある。
まぁ用心に越したことはない、と言う事だ。
っと、一応緊張している風を装うか。
ついでに目線を動かしながら、教室の広さや高さ、窓の厚さから狙撃などを行う場合は
どの位置から撃つか、または撃たれるか等もチェックする。
しかし照明にシャンデリアか。
繋いであるのは鎖一本。それなら打ち落とせば即席トラップ替わりにもならなくもない、か?
先生「では、貴方の場所は……そうですね。朝凪さんの隣が空いていますのでそこに。
一番上の右から2番目がそうです」
四生「わかりました」
そう言って、階段を上る。
その間もずっと視線を感じる。
……しかし何故こんなに注目されるのだろうか。
転校生と言うのは一般的にはそれほど珍しい事ではない筈なのだが。
本来であれば、学校の情報と立地、内部構造から所属人数とそれらのプロフィールを
全て網羅し、それを完全に記憶してから潜入するのがベストだが今回は
それだけの時間がなく、基本的な学校の知識しか頭に入れてきていない。
まずは、この学校がどういう特性なのか、ここに所属する人間はどういう人間なのかを
理解する必要がありそうだ。
だが、まずは
四生「どうも。これからよろしくお願いしますね」
そう言って、朝凪へと声を掛ける。
朝凪「……ええ、よろしく」
此方を見ずにそっけなく声を掛けると、興味無さげにそのまま視線を外へを向け続ける。
……なるほど、これは厄介そうだ。
だがこのタイプは一度仲良くなれば閉じたコミュニティでしか活動しないことが多い。
一度友人関係になれば、むしろ余計な邪魔が無くなるという点では好都合だ。
もっとも、それまで中々遠そうだと、未だに此方を見ることもしない朝凪を見て
まずは交友関係の情報収集からだなと俺は次のプランを練り始めたのだった。