事前準備
午前8時30分
俺は着慣れない制服に袖を通す。
チェック柄をしたブレザー。
紺色をしたズボン。
中には白色のワイシャツ。
資産家達が集まる学園にしては地味な服装だが
素材は一級品で、この一着にも数百万の価値が付くほどだ。
もっとも、俺が着ている制服は組織特注であり
組織が開発したという特殊な素材と組み合わせてある。
防弾、防刃、耐熱に優れた一種の装甲とも言える。
一般的に使われる、例えばベレッタの9mmパラベラム弾ぐらいなら防ぎ切ることが出来る程には。
一応護衛任務にもなるのだ。
この程度の装備は必須とも言えるだろう。
勿論、拳銃も持ってきている。
流石に携帯する訳には行かないので、クローゼットの奥に鍵付きバッグの中に入れてあるが。
「しかし、薄いな」
制服を防弾チョッキ替わりにするには、やはり厚さが足りない。
弾を防ぐと言っても、貫通を防ぐだけだ。
実際はある程度厚みがなければ銃弾の衝撃が身体に響き
あまり防弾の意味をなさないのだ。
むしろ、その銃弾の衝撃を全て受ける点においてはダメージが大きい。
「コートを着ていきたい所だが、流石に夏の学園で着ていくのは不自然、か」
自分の愛用の黒いロングコート。
防弾、防刃は勿論の事、耐熱、耐電等あらゆる防御を兼ね備えた一品だ。
普段の俺の装備ではあるが、この学園では目立ちすぎる。
ちなみに、このコートは俺専用だ。
専用、と言うのは“俺しか着れない”からである。
認証が掛かっているとか、鍵付きだとかそういう意味ではなく
物理的に装備できるのが俺ぐらいしかいない、と言う意味だ。
その理由は重さだ。
重量は『100kg』
そんな重い物を来ていれば、基本的に動けなくなる。
それならシールドを持っていた方がまだマシである。
だが、俺は強化されており、また特化として下半身。
つまり脚部に特化している為、100kgのコートを来ていても問題なく動けると言う事が理由だ。
厚みもそこそこ有り、衝撃も吸収しやすい様にも出来ている相棒の様な存在だ。
「着れない物は仕方ない。とりあえず、隠しナイフ位は持っていくか」
懐に小さめのナイフを忍ばせる。
装備としては心もとないが、学園に溶け込む為には過剰な装備は禁物だろう。
万が一、銃等携帯しているのがバレれば退学になるのは目に見えている。
だがナイフぐらいであれば、最悪護身用と言い逃れも出来るかもしれない。
四生「よし、時間だ」
装備と服装をチェックし、伊達メガネを掛ける。
伊達メガネは上司……“少佐”のアイディアだ。
俺は必要無いと思ったのだが、付けるとイメージが変わるとかなんとか。
時間は8時40分。
全寮制ということで、案内された昨日入ったばかりの自室を出る。
エレベーターを使って1階に行き、通路を渡ればすぐ学校だ。
時間にして5分かからない。全力で走れば恐らく1分以内で行ける。
昨日非常階段と内部の構造を知るために歩き回って算出した結果だ。
出口にいつものカプセルを設置し、ドアを開けて外に出る。
鍵を閉め、閉まっている事を確認すると俺は学園へと向かった。
俺のクラスは一年一組。
対象の『朝凪』も同クラスだ。
勿論、事前に根回しをして同クラスになる様に『設定』されている。
昨日は案内だけで終わってしまった為、今回顔合わせが初になる。
潜入で何より大事なのは溶け込むことだ。
ただでさえ、『学校』と言う物を知らないのだ。
俺は一度も『学校』に行っていない。経験が無いのが若干不安要素だが資料は読んできた。
過信は禁物だが、油断せずに。
まずは溶け込むこと。そして可能であれば今日中に『朝凪』と接触する事。
名前を覚えてもらえる位まで良ければ上出来だろう。
いよいよ始まる。
初の学校生活。
『国条 四生』の人生が。