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悪夢と過去と学園生活

ふらふらと、幽鬼の様に歩く。

足取りはおぼつかず、真っ直ぐ歩く事も困難だった。


周りを見ても砂と土しかない。

せめて木々の一つでもあれば根を齧ってでもこの空腹……いやもはや空腹、飢餓を

通り越して痛みと感じる腹も少しは収まってくれるのだろうと思うのだが

どんなに夢を見ようとも依然として景色は現実のままだ。

一度口に入れたものの、まったく腹も膨れず数日間激痛と下痢で苦しんだ思いをした

砂と土のみの残酷な現実のまま。


身に着ていた布も今や数十日前に胃の中だ。砂に比べれば、まぁ食べれた方だろう。


───あぁ、これは夢だ


ようやく、今の自分が12歳頃の自分だと気づく。

どうりで12歳にしては、いやその時の精神状態から考える事も出来なかった思考をしているわけだ。


自らの姿をみる。

全身は骨と皮しか無く、服もない全裸。

目は虚ろで、一ヶ月以上まともな物を口にしていない。

最後に食べたのは……確か、たまたま見つけた虫だったか。

まったく美味しくはなかったが、口に入れれる物だっただけマシだ。

幸い雨で喉を潤した御蔭でまだ生存できているが、もはや命の火も消えかけた。


───確かこの記憶は、俺の中で“2番目”に“まし”な思い出か。


そう、まだ良い方だ。

この後の待遇に比べれば、まだ、な。


ザザっと、見ている景色にノイズが走る。

全体が砂嵐に変わっていく。


ほとんど見えなくなったときに、ひとりの男が現れる。

兵士服を着た男だ。

もしも、俺にこの時の俺に声をかけることができたらなんというだろうか。


……いや、何も言わないだろう。

この後が最悪の経験が待ち受けていようとも。

それを超えて今の俺があるのだから。


だからこそ、何も言わない。

そこで差し伸べられた手を払って野垂れ死になっても

手を取って、世界を恨むような経験をしても


どちらにしても、どうでもいい───


そうして、過去の俺はその手を取った。



そこで、目が覚める。


「……随分と、懐かしい夢を見るもんだな」


もう20年以上前になるというのに。

今更悪夢を見たからと言って、うなされたり飛び起きたりする醜態は起こさない。


ゆっくりと、身体を起こす。

と、見覚えのない部屋だと一瞬だけ思う。

小奇麗なタンスに買った覚えのないクローゼット。いつもと違う机。

だが、瞬時に状況を理解する。


ここは天凰院学園。その自室だ。

先日、任務通り転校し、自室に帰って眠ったんだった。


「弛んでるな」


思わず舌打ちをする。

寝起きだろうと悪夢を見た後だろうと、現状把握を一瞬でも出来なかったのは

弛んでいるとしか言い様がない。

この姿を見れば、クロウ辺りは大笑いする程だろう。


一度だけ深呼吸をして、スイッチを入れ直す。

今俺は任務中なのだ。そして、気を抜くな。

平和等有り得ない。いつでもどこでも死は潜んでいる。

驕るな。語るな。慢心するな。


「‥‥‥よし」


昨日は顔見せだけだ。

今日は、ターゲットに近づかなければ。


俺は唯一持ってきたバックから手帳を取り出すと

今日の予定を計画し始めるのだった。

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