狼と少女?
意匠が凝らされた扉を開ける。
中には観葉植物と機能性を重視した木机、それと高そうな椅子しか置いていなかった。
そして、椅子に座りながら木机にうつ伏せで倒れているのは、少女だった。
今日で何度目か、数えるのも面倒になってきたため息を吐くと
少女を揺らして起こす。
?「ん……あぁぁああああ……うにゅ?」
大きな欠伸をして起き上がり、奇妙な声を出す少女。
その声に額に指を当てて、つい苦渋の顔を浮かべてしまうのは仕方が無いだろう。
これがクロウ辺りなら可愛いじゃねーかとか言うのだろうが、生憎と俺にはまったく
そう思えない。むしろ頭痛すら覚える。
少女はしばし、瞬きをして、俺の姿を認めると
?「あーお兄ちゃん!」
そういって、机を乗り越えて抱きつこうとする少女の頭を抑えて止める。
「悪いが、兄貴になった覚えは無いし、兄貴と言われる言われも無い」
?「ぶー!何で止めるのよー!」
はぁっと、今日最大の溜息を吐いて、言った。
まったく会話が通じない。
いつまで”子供モード”の擬態を続けるんだか……此処には俺しかいないと言うのに。
「まったく“今年で65歳”の人が何を言ってるんだ……」
そういうと、身体をピタリと止める。
そしてプルプルと震え始める。
?「……流石にこのキャラは無理があったかな?」
「大分な」
?「……ハッキリ言うね。たまにはリップサービスがあってもいいと思うんだけどね?
例えば私の事を妹と呼ぶとか、愛人にするとか?」
「いい加減にしてくれ。“ツヴァルハング少佐”」
キリア「その名は好きじゃないなぁ。だからボクの事は“キリア”と呼んでくれと
何度も言っているじゃないか。ボク達の仲なんだから、ね?」
「いつからそんな仲になったのか分からないが、対応方法については
アンタがもう少し自重したら考える」
キリア「冷たいねぇ。これでもボクは美少女なんだよ?
こう……ムラムラこないかい?」
そういって、自分の体を見るキリア。
銀色の腰まで有る長い髪でありながら輝きを失わない銀髪。
来ている服は黒いゴシックロリータ服でありながら見事にマッチしている。
小学生ほどしかない小さな身体であっても、その顔は正に天使と呼ぶに相応しいだろう。
が、言動を聞けばどこかで頭を打ったと言われれば納得しそうな程だ。
(……やっている事は悪魔なんだがな。天使の様な悪魔の笑顔、とは何の歌だったか)
キリア「仕方ない、話を戻そう。っと、まずは今回の任務お疲れ様。
あいも変わらず良い仕事だったよ。
ちゃんと部下を褒めるボクを褒めてもいいんだよ?」
キリアがぱちぱちと拍手をするが、それに溜息で答える。
もう少し真面目にやってくれれば気苦労も減るのだがと思うのだが。
「いつもどおりこなしただけだ。……で、用はそれだけですか?
それなら戻っていいですかね“少佐”」
キリア「……イジワルだね君は。まぁ、君も遠出して疲れているだろうからね。
安心しなよ、今回の用はコレを渡すだけさ」
机の下から取り出し、渡したのは茶封筒。
キリア「中は部屋で見てね。はい、用件終わり。迅速だろ?」
「じゃあ帰ります」
話は終わったと同時に、封筒を掴み扉を開け、帰ろうとする
キリア「アンチエイジング……凄い物だね」
「……急にどうした」
キリア「ふと思っただけさ。ボクは技術によって65年と言う歳月をこの肉体で過ごしている。
漫画やアニメやゲームではたまに有るさ、だが現実ではありえない。しかし現実に起きている。
それはまさしくこの組織の力、アンチエイジング-不老技術-の賜物さ。
キミも、同じくね」
「………それは知ってますよ。受ける時に散々説明は聞きましたからね」
キリア「じゃあ、ちょっと説明してくれないか?」
「何故今更」
キリア「今だからさ」
そう言った目は、珍しく真剣だ。
やれやれ、講師になった覚えも希望した覚えも無いが……
「……俺達が受けた技術。それは肉体の活性化だ。人間の細胞分裂には限界がある。
が、その限界を強化した物。また同時に細胞や肉体的にも強化を行った事で
通常の人間よりも強く、また施工した時期で肉体が固定化される」
キリア「そうだね。ボクは一番早かったからね……65年経ってもこの姿さ」
続けてと、目線で促す。
「肉体的にはそこまで強化はされていない。体力や筋力が強い程度。
……だが、一部の人間には更に強力になった部位が存在する。
それを『能力』と呼ぶ」
キリア「確か君は、『下半身』……エロイ意味じゃない。そんな目で見ないでくれたまえ」
「……正確に言うなら『脚部』だ。ジャンプ力や瞬発力、単純な筋力から全て強化されている」
キリア「まぁ、地上数百メートルから飛び降りて無事なのは君ぐらいだね。クロウ君では
……まぁ、“足の骨折”ぐらいはするだろうね」
だが、その程度だ。
普通の人間とは違う身体能力。
漫画のように音速で走れるわけでなく
空中を飛べるわけでもなく
理不尽な回復力があるわけじゃない
ただの人間が強くなっただけの存在だ。
「俺達は弱い」
キリア「そう、君達は弱い。ボクも含めてね
ナイフで首を斬られれば死ぬ
銃で頭を撃たれれば死ぬ
心臓を剣で突き刺せば死ぬ」
「毒で死ぬ、出血で死ぬ、餓死する、凍死する、窒息死する……いくらでも殺しようは有る」
人は彼らを化け物と呼ぶ。
だが、彼らはそう思っていない。
それは人間と言う存在に固執しているわけではない。
化け物と認めたくないからではない。
キリア・ 「死ぬ。そして殺される。何故ならバケモノではないから」
声が揃う。
ニヤリと、キリアが笑う。
それは童女がする笑いではなく、悪魔の嗤い。
キリア「だからこそ、怖い。そして強い。
君達は決してそれを優位だと思わない。だから油断しない。
他を劣等だと思わない。だから驕らない。
だから、知恵を絞り、道具を使う
───だからこそ、“強い”」
「……買いかぶりすぎだ。ただの臆病者なだけだ」
キリア「ククククク、なら、それでもいいさ」
俺は話は終わりと言わんばかりに、踵を返す。
それを止める声は無い。
扉を開け、外に出ると一瞬だけ呼吸をし扉を閉める……が
……僅かな時間だけ、扉を閉める手を止め、そのまま俺は閉めた。
それは、閉める直前の声は、先程の言葉を撤回したくなるような声だったからなのだろうか。
……自分でも分からない。
キリア「クククククク……!!良い!実に良い!
育った、いやまだだ!もうすぐだ。もうすぐ花開く。収穫が始まるっ!!
すぐ、直ぐ。スグそこだ。クククククククク!!!!」
嘲笑は、誰にも聞こえず、誰にも咎められず、世界に響く。
───バケモノのように
前回トランシーバーの時は変声機を使って男の声にして
かつ口調も演技しています。
理由は幼い女の子が少佐では色々と問題が多くなるからです。