鳥と狼と
コツコツとリノリウムの床を歩く。
黒いロングコートを羽織った少年が規則正しく歩を進める。
辺りには人気がなく、照らす蛍光灯もどことなく薄暗く感じる
陰気な雰囲気は古城を思わせ、不安を呼び起こすが少年はなんなく進む。
ふと、足を止める。
瞬間、素早く振り向き飛んできた物体を片手でキャッチする。
?「よう、お疲れ様ってところか?」
「……お前か、クロウ」
背後にはニヤニヤと笑いながら物を投げたポーズで此方を見ている男が居た。
燃える様な赤髪をしており、左顔面には烏の刺青。
耳にはピアスをしており、赤いジャケットを羽織っており、まるで想像のままの出てきた
チンピラの様だった。
クロウ「奢りだ、感謝して飲めよ」
手に取った物体を見る。
何の変哲も無い、コカ・コーラだった。
「……ありがたく頂くよ」
ペキっと音を立てて缶を開け、一口飲む。
冷たい炭酸水が、喉を潤す。
熱い所に居たことを知って、冷たい飲み物を渡すような殊勝な奴ではない、と思う。
クロウ「しかし、お前程の奴を動かす程の事件だったのかねぇアレはよ」
「さぁな。……まぁ、俺は黙って仕事をするだけだ」
クロウ「いやいや、安い仕事をすると価値が下がるんだよ。俺達のな。そう思わないか。
狭域殲滅型の名無しよ」
ニヤニヤしながらそんな台詞を吐く男に、もう一口コーラを飲み、小さくため息を吐きながら。
「そのご大層な称号は要らん。それに、毎回言ってるだろ、名無し-ネームレス-じゃない。
首無し-ヘッドレス-だ」
クロウ「そうだったな。何せ名の通り鳥頭-エアーヘッド-なもんでな」
クロウ、と言う名前を楽しそうに揶揄-やゆ-する。自分の名前だと言うのにマゾな奴だと
思いながら缶を傾ける。
肩を竦めながら、未だニヤニヤ笑いを止めないクロウに、何度目かのため息を吐いて
部屋に戻ろうと踵を返す
クロウ「そうそう、ボスがお呼びだぜ。顔出してけよー」
それだけ言うと反対側へ歩き出し、背中を見せながら
片手だけ上げふるふると振る。
……やれやれ、帰ってきて早々何の用なんだかとあまり嬉しい気持ちにはならないが
呼ばれた以上無視するわけにもいかない、が……
「そういう大事な事は早く言え」
そう言って、後ろを向いたクロウへと勢い良く投げる。
投げた物体は、回転しながら直線状に勢いよくクロウの後頭部へ当たる……直前に
後ろを向きながら上げた手を下げて、クロウがキャッチする。
後ろを見ていないにも関わらず、完璧なキャッチだった。
一応、キャッチした事を見届けると今度こそボスの部屋へと向かう為
そのまま足を進める。幸いにも行く方向は同じだ。
これが逆方向だったならば若干の溜息も付くだろうが。
「やれやれ……」
軽く頭を掻きながら、これから何を言われるかを考えながら向かった。
クロウ「……こまけぇやつだな」
そう笑いながら言う、クロウの声が聞こえる。
何とでも言うが良い、俺はこういう人間だ。
投げたのは1ドル硬貨。
……今手元にあるコカコーラ代である。