ムンズ攻略編第6話~各勢力~
いつも応援ありがとうございます。お陰様で、お気に入り3件、PV730オーバー、ユニーク200オーバーさせていただきました。特に前話投稿後グイッと数字があがったのを見て、アクセス解析見ながらずっとニヤニヤしてました。
マルクの弟ですが、名前をエリオとしていたのですが、ムンズのエリオットと混ざるため、ヒュームと変えさせていたたきました。早い時期に登場人物紹介を作りたいです。
「ねえ、沙織?マルクは今頃何をしているかしら?」
大教院の休校日、芙雪は頬杖をつきながら沙織に尋ねた。
「姫様、もう今日だけで120回目でございます。起床してからまだ2刻(4時間、1刻は2時間)、実に2分に1回のペースでお尋ねになっております。私はもう、姫様のお惚気だけでお腹一杯でございます。」沙織は苦笑いしながら本日120回目の返答をした。
「うぅ、心配なんだもん。だってあのマルクなのよ?ちょっと戦闘能力はあるけど優柔不断で要領は悪いし、私がいないと何もできないのよ?」
「ですから、今回は御輿の様なものだと聴いております。それにいいですか、姫様?本当は姫様には内緒だと言われていたのですがはっきり申し上げますよ。私の実家の情報に拠りますと、今回のマルク様司令官の件、陛下はなにも罰だけの意味ではないのですよ?姫様の夫として、次期国王になるために周りに認めさせるために司令官として、ハンムリル軍を率いる必然性があったのですから。いいですか?今、ハンムリル国内にはマルク様が次期国王となることを良しとしない勢力が暗躍しているんです。」
沙織の説明に拠るとこういうことである。マルクを追放し、ゲンデル候と結婚させると言うものである。特に、貴族の中ではほとんどがゲンデル派であるらしい。
「いっ、嫌よ!ゲンデル候なんて40歳も超えるおじさんじゃない。しかも、ずる賢そうで脂ぎった体。いつも、私の身体を舐め回すように見て。」
芙雪は自分を抱きしめ震える。
「もちろんでございます。この沙織・マクレーン、サンガ伯爵家の娘として最後まで姫様にお仕えいたします。あんなオヤジは姫様の夫に相応しくありません。」
「ありがとう、沙織。頼りにしているわ。」
2人は、はしっと抱き合い主従を確認しあった。抱き合ったまま芙雪が言った。
「ところで、マルクは今頃何をしているかしら?」
沙織は脱力しながらも今ので121回目だと言おうとしたところでノックの音がした。振り向くと、侍女が1人気まずそうに入口に立っていた。2人は真っ赤になり慌てて包容をとき体裁を整える。
「失礼いたします。」
「どうかしたの?」
沙織が返事をすると、
「前線からの手紙が届いたので、お持ちいたしました。」
実は、沙織の実家であるサンガ伯爵家の関係者が今回、魔法部隊として従軍していた。そんな理由で沙織は逐一、マルクの情報を送るように命令していた。その連絡が着たようだ。
「貸して!!」
芙雪はその手紙を侍女からひったくると、すぐさま封を開けた。
「あ、あのぅ。」
侍女が沙織の方を伺った。
「ご苦労様でした。もう下がっていいわよ。」
沙織のその言葉に侍女はサッと下がっていった。
「姫様?なんと書いてありました?」
沙織がにこやかに尋ねると、芙雪はプルプルと震えて言った。
「あのバカマルク!!どこに行ったのよぉ〜。」
芙雪の顔はまるで般若の形相であった。沙織が手紙をのぞき込むと、そこにはこう書かれていた。
『カールデリアにてマルク殿下が行方不明になりました。デイヘラー少佐は行方を知っている様で指揮官たちの多くは落ち着いてデイヘラー少佐に従っております。しかし、我が魔法部隊指揮官のセイフバーク大尉は反発を強めております。今後、この事でゲンデル派の勢いが増すものと思われます。お気をつけ下さい。』
「あっ、あのバカは私と結婚したくないのかしら!沙織!!お父様に会いに行きますわよ。夫の失態は妻が償うもの。今すぐ出陣許可を貰いに行くわよ!」
「は、はい!!」
沙織はあまりの勢いに返事しかできなかったが、ハッとして慌てて芙雪を追いかけるのだった。
さて、芙雪がそんな騒ぎを起こしている頃、マルクはケンとエリオットに連れられ反乱軍の拠点に着いていた。最初は警戒されていたマルクだが、ケンを助けた事とエリオットの幼なじみと言うことで、すんなりと受け入れられた。ムンズの農民たちはもともと助け合いの強い気質であった。なので、外から流れて来る者に対して寛容なところがある。マルクが兵法を身に付けていると知ると、マルクを含めてすぐに軍議が始まった。軍議に参加しているのはマルク、エリオット、ケンの他に、周辺の村々のリーダーたち6人。そして、帝国の武器商人カイルである。現在の状態、偵察の確認を行い、マルクがハンムリル軍をサラグマ山道で土砂崩れを起こし足止めしたことを報告すると皆、歓声を上げた。当面はムンズ伯の私兵のみを相手にすればよくなる。マルクの見通しでは、ハンムリル軍が着くまで3カ月の猶予ができたと考えている。それまでにある程度戦力を整えなければならない。軍議では結局、軍の編成をし一週間後ムンズ伯のいるムンズの中心としサグマに向けて進行することとなった。
その晩、マルクは割り当てられた部屋で静かに本を読んでいた。その背後にスッと“影”が現れた。
「夜分遅く失礼いたします。マルク様。」
「よい、ところで報告を聴こうか?」
「はっ、まずハンムリル軍ですが、デイヘラー少佐うまく誘導してサラグマ山道に進み土砂崩れで足止めされております。指揮官たちは農民派を集めた事もあり、ほとんどがデイヘラー少佐に従っておりますが、魔法部隊のセイフバーク大尉のみ、反発をしております。ご命令いただければ直ぐにでも殺ってきますが…。」
急に殺気を放つ“影”にマルクは苦笑して応える。
「とりあえず、反乱を起こさなければ捨て置け。」
「は。」
本気で残念そうにする“影”に対しマルクは顔を引き締める。
「ハンムリル軍は今のところ予定通りだな。して貴族派の動きは?」
「貴族派は本気でゲンデル候を推そうとしております。恐らく今回のマルク様の失踪を盾に芙雪殿下との婚約を破棄させるつもりです。それから貴族派は帝国と弟君のヒューム殿下としきりに連絡を取り合っているようです。」
マルクは少し思案する。貴族派の狙いはマルクと芙雪の婚約破棄によるサンダールとの関係悪化の防止。ヒューム側はクーデターによる王位の簒奪。そして、帝国はサンダール、ハンムリル両国の政治的混乱。3者の思惑が手に取るように見えた。
「サンダールは予定通り一時ヒュームにくれてやる。それより、ヒュームを裏で操っている奴はしっかりマークしているのだろうな?」
すべてのシナリオを書き終えているマルクはそう確認をとる。
「万事抜かりなく。」
「クーデター時に父上をお助けする手筈は?」
「手筈は整っておりますが、陛下はやはり自分が生きているとマルク様の足手まといになるとおっしゃっております。」
そうか、と頷きマルクはしばらく黙り込んだ。そして、少しでも多くの者を助けられるようにと指示を出した。
「して、最後にムンズ伯はどうしている?」
「はっ、ムンズ伯は今、…」
「ほほ、農民どもはまだ頑張っているのか?」
でっぷりと太った巨体は嗤いながら言った。吉成・ケインズ、ムンズ伯である。彼がムンズ伯としてこの地に来てから既に15年経っている。15年前、当時子爵であった彼は、たまたま狩りをしているとき怪しげな集団を見つけた。それをそのまま部下たちに命じて殲滅させたところ、ハンムリル一体を暗躍する盗賊であったらしい。果ては王家の別荘まで手を出していて、吉成のこの働きに王は非常に喜んだ。結果として、伯爵に叙されムンズ地方を拝領した。引き締まった体は15年の月日をかけてただの肥満になった。しかし、あくどい計略は衰えていない。
「よいか!ハンムリル軍が来るまでのらりくらりやるのだ。」
そこへ兵が1人駆け込んできた。
「申し上げます。ハンムリル軍は現在、越えようとしたサラグマ山道で立ち往生しているとの由にございます。」
「何?それは本当か?」
ムンズ伯は難しい顔をした。ムンズ伯は貴族派の人間である。今回、反乱の討伐にハンムリル軍が派遣されることを聞いて一度は不要と答えた。しかし、司令官がマルクであることを知り態度を一変させた。ハンムリル軍と共に戦い、流れ矢に当たってマルクを殺害する。自分の私兵の損傷は減らせるし、ゲンデル候には恩が売れる。まさに一石二鳥の作戦であった。
「仕方がないな。手柄は若いのに譲るか。おい!ハンムリル軍に行き、セイフバークの坊やにプランBをやるように指示せよ。」
プランBとはハンムリル軍の行軍中のマルクの暗殺である。ムンズ伯が雇う忍びに向かって指示を出した。
「まったく、面倒くさいことになって。」
ムンズ伯はぶつぶつと言いながら奥の部屋に消えていった。
「すると、セイフバークが俺の暗殺を窺っているというわけだ。」
“影”からの報告を聞いたマルクは呆れたように言った。
「では、俺が此処にいないとなると、プランBも失敗だな。」
ククッと笑ったマルクは読んでいた本を閉じると“影”に向き合う。
「いつも助かる。ご苦労だったな。他に何か報告はあるか?」
「特にございませんが、小耳に挟んだ話ですと芙雪殿下がマルク様失踪の情報をどこからか仕入れ、陛下に直談判しに行ったそうです。詳しい情報が入りましたらまたお伝えします。それでは。」
最後に重大な事をサラリと投下し“影”は気配を消した。それと入れ違いにドアをノックする音がした。マルクはとりあえず芙雪の件を後回しにして返事した。
「エリオか?開いてるから入ってこい。」
しかし、入ってきたのは予想とは違った。
「こんばんは、マルス様。」
入ってきたのは20代前半の女性、マルクより少し年上といった感じであった。長い金髪を後頭部でまとめ上げ、背は高くないが余計な肉が付いていないせいかすらっとした印象を与える。10人に聞けば10人が美人と答えるであろう。いきなりの訪問にマルクは少しうろたえた。
「ええっと、確か…」
「ケン・ブラウンの妹、エリ・ブラウンですわ。」
平静を取り戻したマルクはエリに向き合った。
「夜更けにこんな美しい女性の訪問を受けられるとは光栄ですね。」
「ふふ、こんな夫にも息子にも死なれた女にお世辞はいらないわ。」
軽口に真顔で返されたマルクは少し決まりの悪そうにした。
「すみません。軽率でした。」
マルクが素直に謝ったことに驚いたエリであったが、にっこりと微笑むと、
「お気になさらないでください。もう気持ちの整理はついておりますから。」
と言った。マルクはすまない、ともう一度頭を下げ、再びエリに向き合った。
「して、今晩はどのようなご用件でしょうか?」
マルクの問いかけに今度はエリが頭を下げた。
「本日は、兄を救っていただきありがとうございました。唯一彼と血のつながった存在として、篤く御礼申し上げます。」
いまいち話の先が見えないマルクは、首を傾げながらも言った。
「たまたま、危ないところをだったが助けられて良かったです。もともと、此方に援軍に馳せ参じるつもりでした。これからの事を考えると、有能なリーダーを失うのは非常に不味いですしね。」
マルクのその物言いに一瞬悲しげな表情を浮かべたエリであったがすぐに真剣な顔に戻った。
「単刀直入にお尋ねいたします。今回の反乱、第三者の目線から見て我々が勝つ可能性はありますか?」
その表情から嘘はつけないと悟ったマルクは
「私の予測では限りなく低かったです。しかし、私がいれば絶対負けることはありませんよ。ただ、今は難しいです。少なくとも、ここにいる本隊がもっと士気が上がればいいのですが。」
「本当に大切なモノをなんとしても取り返すような?」
エリのその質問の意図がよく解らなかったが、マルクはそうだと答えた。エリは何か吹っ切れたような顔をして微笑んだ。マルクが口を開こうとした時、ドアでノックの音がした。
「エリオか?すまない。今、来客中だ。」マルクがそう答えると、
「いえ、私はこれで失礼いたします。お話ありがとうございました、マルス様。」
そう言ってエリはスッと部屋を出た。来客がエリだったことに驚いたエリオであったが、入れ違いに部屋に入った。マルクは、エリの訪問の意図がいまいち解らず引っかかっていたが、目の前の問題を片付けるため頭の片隅に置いて、エリオに向き合った。マルクの部屋は結局、遅くまで明かりが消えることはなかった。そして、
翌朝、エリが失踪した。
次回、マルクが大分活躍します。するはず?キット、スルハズデスヨ??
なお、試験勉強のため次話の投稿が遅れそうです。金曜日の正午を目標に頑張りたいです。