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サンダリル興国史  作者: 大九
1章ムンズ攻略編
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ムンズ攻略編第4話~ムンズ地方~

終盤に少し残酷描写が出てきます。ご注意下さい。

 初日の野営地はハンムリル第3の都市カールデリアである。カールデリアからさらに東に向かうとマルクの祖国サンダール王国に続く。そして北に向かうと、大陸一の大国コルン帝国がある。20年前の半虎戦争ではコルン帝国の主力部隊はここカールデリアまで迫った。この時のカールデリア攻防戦では、当時世界最強とうたわれたコルン陸軍魔法突撃部隊を相手に1カ月の防衛の末、サンダール王国からの援軍と挟撃し打ち破った。カールデリア防衛隊の司令官であったダレル公は、彼の奮闘ぶりとが相まって“ハンムリルの守護神”と呼ばれるようになるのである。


 カールデリア郊外に野営準備を終えたマルク達は早速、軍議を開く事とした。

「さて、今回ムンズ地方平定部隊の司令官になったハンムリル軍特務中佐のマルク・アレ・サンダールである。承知の通り、ハンムリル王国第一王女、芙雪・シグナール・ハンムリルの婚約者ということで王族に連なる事から特務階級を受けている。しかし、今まで軍の指揮経験が無いことから、実際の軍の指揮は副司令官のデイヘラー少佐が採るものとして心得ておくように。」

 今回の部隊の指揮官たちは若手を中心に編成されている。司令官のマルクはもとより、副司令官のデイヘラーは28歳。そのほかの部隊長も20〜30代である。それぞれがマルクが御輿であるということをよく理解していた。そして、デイヘラーを含むすべての指揮官が今回の戦いでは、デイヘラーを中心として反乱軍である農民たちを駆逐する事になると思ってる。指揮官の多くは農民出身であった。ハンムリル王国は貴族社会であったため、制度上は同様に出世できるが実際はその出世は大きく異なっていた。今回の作戦もそんな貴族たちの犠牲者とも言うべき農民たちを自分等が攻めなくてはいけないことに少なからず不満があった。

「では、各自部隊に戻り待機するように。ただし、デイヘラーだけは残れ。」

未だにすっきりしない顔をした指揮官たちを送りテントにはマルクとデイヘラーが残った。

「兵たちは随分不満そうだな、デイヘラー。」

2人になるとマルクがいきなり切り出した。兵の不満は士気に直接かかわる。不満が強ければそれだけ士気が下がる。

「申し訳ありません。如何せん今回の敵は彼らにとって自分の家族を討つようなもので…。」

「よい。兵の士気を上げる秘策は既に用意してある。」

デイヘラーは一瞬マルクにつかみかかりそうになった。今回の兵の士気の低さは確かに敵が農民だと言うことが大きいが、司令官であるマルクがまるであたかも物見遊山に行くような態度であることにも起因している。それを張本人であるマルクが軽々しく士気が上がるなどと言うのである。

「まぁ、そう早計に怒るな、デイヘラー。今回の兵の士気の低さに俺が原因であることは十分承知している。今回の戦は俺が指揮を執っても良かったが、思うところがあってお前にやらせるのだからな。それよりも、今一つだけ確認することがある。お前の命、俺に預けると言ったその言葉に二言はないな。」

マルクの真剣な表情を感じたデイヘラーは、気持ちを新たに言い切った。

「私は一度そのように言いました。自分の言ったことを易々と曲げる男ではありません。」

その言葉にマルクは頭を下げた。

「これから、お前には大変な苦労をかける。どうか、俺の腹心として力を貸してくれ。さて、指揮官たちには告げていないが今後の作戦について説明する。」

デイヘラーは生涯をかけてマルクに仕えることになる。最も、マルクの奇策にいつも振り回されるのが彼の役目であったが。


 ケンは悩んでいた。ムンズ地方はもともと肥沃な土地であった。しかし、20年前の半虎戦争によりすべては変わってしまった。突如押し寄せたコルン帝国軍により村々は焼かれ、街は打ち壊された。多くの住民たちは帝国に連れさらわれた。さらわれた者達は誰も帰ってきていない。ケンはそのとき5歳であった。ケンの家族は父は殺され、母は帝国にさらわれた。残ったのは、ケンと3歳だった妹のエリだけであった。2人はブラウン夫妻に引き取られた。彼らは子供を帝国に殺されていた。戦争が終わり数年は幸せであった。ムンズ地方は復興の特区として天領となった。ケン兄妹もブラウン夫妻により大切に育てられた。子を亡くした夫妻は兄妹を実の子供以上に可愛がった。

 しかし、悲しい転機が訪れる。数年の特区が終わり、ムンズ地方は今のムンズ伯である吉成・ケインズに与えられた。国内のある盗賊を討伐した恩賞らしい。新しいムンズ伯はいきなり圧政をしいた。基本的に貴族の領地では、中央に年貢を納めれば、残りは貴族の物になる。ムンズ伯は搾り取れるだけ搾取した。そして住民の反乱にはあろう事かコルン帝国の傭兵を雇って鎮圧させた。ケン達は耐えるしかなかった。

 そんな時、ムンズ伯がケンの妹エリに目を付けた。既婚であった彼女を手に入れようと、彼女の夫と子を殺した。そして、税の滞納分の利子として彼女を要求した。エリは自分が犠牲になるならと言ったが、ケンを初めとして村全員が反対した。彼女は結婚してなお、村のアイドルであった。しかし、ムンズ伯に逆らっても勝ち目がない。誰もが諦めかけていたところにある人物がきた。武器商人カイルである。彼はコルン帝国の商人であった。コルン帝国の武器ということで皆少し躊躇ったが、結局武器がなくては反乱を起こせない。そして彼らはコルンの武器を持って立ちあがったのだ。

「ケン、今更悩んでいても仕方がない。今後のことを考えるぞ。」

無駄な言葉は意味がないと思い、エリオットはケンに冷たいともとれる言葉を言った。エリオットは3年前に行き倒れも同然にケンの村に流れ着いた者であった。以来、ケンとは無二の友となった。今回、ケンはこの反乱のリーダーとなっていたが、エリオットはそれをきっちりとサポートしていた。エリオットはもともとサンダール出身であったらしい。しかし正義感が強く、村の圧政を知るや村に止まり、共に立ち向かった。また、エリオットは魔法を使えた。この世界、稀に生まれる魔法天然者を除き特別な訓練をしないと魔法は使えなかった。村では唯一ケンが使えたが、エリオットが加わることによって戦力が大幅に上がる。そういう意味でも、ケンとエリオットの絆は強かった。

 この日、2人は偵察に出ていた。ムンズ伯の私兵はもとより、首都から反乱討伐軍が派遣されるらしい。ケン達は初戦でムンズ伯軍を打ち破り、今まで圧政に耐えていた多くの村々が反乱軍に加わった。しかし、現実的にはムンズ伯側が未だ圧倒的に有利であり、反乱軍は一度でも負けたら瓦解するような状態である。そんな中の敵側の大援軍である。ケンが悩むのは無理もない。また、援軍の総大将はエリオットの祖国サンダールの王子である。

「エリオット、お前は大丈夫なのか?援軍の総大将はサンダールの王子だと聴いている。」

エリオットは、ケンの心配を嬉しく思いながら言った。

「大丈夫だ。俺はこの村の住民だからな。それ以上でも、それ以下でもない。それより、カイルには注意しておけよ?あいつ、武器や食料の斡旋により、発言力を増している。なんだかんだ言って帝国の人間だからな。」

「ああ、解っている。それより、今は偵察に集中するぞ。」

2人は敵の最前線近くで敵の様子に注意を戻した。そのとき、背後から複数の気配を感じた。

「ちぃ、囲まれたぞ。エリオット、一点突破で脱出す、ぐほっ」

ケンたちが行動を起こす前にケンは敵方の拳を喰らってその場にうずくまる。

「ケン!」

しかし、ケンを抱えてでは、エリオットも何もできない。

「ははは、薄汚れた農民どもがっ。さっさとくたばりやがれ!」

兵たちがエリオットとケンに剣を振り上げたとき、風の刃が吹き荒れた。

「ストーム・ブレイカー!」

剣だけならず、兵たちの半分もこの刃の餌食になり、当たりに肉片が飛び散る。

「何者だ!」

兵たちが新手に注意を向けた瞬間、エリオットは一閃のもと残りの兵を切り捨てた。

エリオットは、気を失ったケンを背負いながら突如現れた助っ人に言った。

「危ない所、ありがとうございます。マルク様。」


今回は、少し説明調になってしまいました。最後に出てきたマルクとエリオットの関係とはいったい?乞う次話!

注:しばらく芙雪たちは出てこないかもしれません。あ~、でも出したいな。

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