ムンズ攻略編第13話~修羅場~
ご指摘があり、少し改行を多用してみたのですが、逆にしつこいでしょうか?
パンツェッタ城に入城したマルクたち一行は、ひとまず防衛線を築いた。再び放った斥候によると帝国軍はサグマにて一度軍の再編をしているらしい。ちなみにムンズ伯の殺害は確証がとれ、現在首がサグマ城の城門の上にさらされているらしい。また、サグマでは略奪が横行し壊滅的打撃を受けているとの情報も入っている。
「ちっ、なぜ今になって帝国は攻めてきたんだ。」
ザンツェルが苦々しくつぶやくとダンと机を叩いた。
「おそらく、ムンズ伯が健在の時はそちらを裏から操るだけで十分な利益があったのであろう。しかし、反乱軍が優勢になり、ムンズからの利益を失う前に実効支配しようと考えたのであろう。」
ゲッセンハルトが冷静に現状を分析するとデイヘラーもそれに賛同した。
「しかし、現実として敵は10倍近い兵力。マルク様はどうされるおつもりなのだろう。」
マルクは明日、作戦を発表すると言って早々と自室に篭ってしまった。今はバンバロから駆けつけたエリがマルクの世話をしている。そして、彼女以外絶対に入ってはいけないと厳命されていた。
「マルク様、相当溜まっておられたのか。まあ、マルク様とて男ですからな。」
ゲッセンハルトが、視線を逸らしながら言うと、デイへラーも、
「しかし、マルク様には芙雪様という婚約者がおられる。それなのに、・・・、いや、王族であれば側室の一人や二人いなくてはならないものなのか。しかし、・・・でも・・・」
と、苦悩に満ちた顔をする。更に、エリオットは、
「ま、まあ二人がいいって言うならいいのかも。でも、そうしたらエリさんが不幸になってしまう。しかし、それは彼女も承知の上。でも、ケンがそれを許すのか?そもそも、マルク様はそんなことで彼女を呼び出すはずがない。しかし、男でもあることに変わりはないわけであって、エリも絶対マルク様が求めたら拒まないだろうし・・・。」
三者三様の苦悩を見ながら、ザンツェルはこれが本当に10倍の敵に迫られている軍の軍議の空気かとため息をついた。そこへ、隣に控えていた兵が慌てたように入ってきた。
「申し上げます。た、只今王都から・・・。」
「いいわ、後は私から話すから。」
兵の後ろから出てきた2人の顔を見たデイへラー等、王都から来ている指揮官たちは盛大に頭を抱えたのであった。
マルクの自室では、マルクが今後の作戦を立てていて、その側でエリがいろいろ世話をしている。のではなかった。また、多くの指揮官が想像したように甘い桃色な世界が繰り広げられている、のでもなかった。最初こそは、今後の作戦のため、このムンズ地方の様子をエリから改めて聴いていたマルクであったが、事態が急変したのはマルクのこの一言のせいであった。
「ありがとう、助かったよ、エリ。今日はもう遅いから下がって休んでいいぞ。」
エリがマルクの自室に呼ばれたのが夕飯過ぎ、そして他の者達はと、人払いして二人っきりになっていた。エリは、身も心もマルクのものと公言している。ユンズの悪夢の折、マルクの正体を知っているエリであったが、それが理由でマルクと距離をとったということはしなかった。バンバロではマルクの身を案じて馬鹿騒ぎをやったことも記憶に新しい。
そして、今夜このようなシチュエーションになっているからには、エリも色々と考えてしまい、まあ、色々と覚悟を決めてやってきている。未亡人ということもあり、そういうことに抵抗感はないが、準備はいろいろ必要なのである。しかし、ふたを開けてみると、ムンズ地方についての、しかもマルクがもともと知っているわざわざ聞かなくてもいいような質問ばかりされ、もう用済みとばかりに戻れと言われたのである。
結果、あまりの扱いに機嫌を損ねたエリを何とかなだめようとオロオロするマルクという構図が出来上がったのである。マルクは、未だにエリがなぜ機嫌が悪くなったのかわからなかったが、男の本能的なものから自分が原因であること、そして今のうちに機嫌をとっておかなくてはならないことを悟っていた。
「じゃあ、キスしてください。それで、今日は許してあげます。」
エリが30分前に出したこの妥協案に対し、マルクはなんとかさらなる妥協を引きずり出そうとしていたが、すべて無駄に終わっていた。そして、とうとう諦めたマルクがエリの正面に顔を据え、まさに唇と唇が触れ合おうとした瞬間、開けることを固く禁じられていた部屋の戸がものすごい勢いで吹き飛ばされた。
三者三様とは言うが、こういう時はこの四字熟語は役に立たない。今まさにキスしようとしていたマルクとエリ、そして戸を吹き飛ばし、部屋にずかずかと入ってきた張本人はそれぞれ同じように固まっていた。いや、後ろに控えていた侍女風の少女も固まっていたから三者三様と言うより、四者四様と言った方が正しいかもしれない。一番最初にこの呪縛から脱したのはエリであった。そして、わざと魅せつけるようにマルクの唇にその唇を押し付けた。
「なにしてるのよ~(怒)」
次に正気に戻ったのは、侵入者。ハンムリル王国第一王女であり、今まさにキスされているマルクの婚約者、芙雪・シグナール・ハンムリル、その人であった。すぐさま、二人を引き離した芙雪はマルクの頬に一閃。マルクは、大きな紅葉を体に刻みながら、正気に戻ることなく意識を手放した。
正気に戻ったマルクは芙雪に引きずられながら軍議の間(裁判所)に連れて行かれた。そして、裁判長席にいつ作ったのか、「裁判長兼検察官」というプレート(後で聞いたら沙織作だったらしい)を立てて座った芙雪が裁判を始めた。
「被告人・マルク。死刑!!」
被告人の言い分も聞かず、裁判長は求刑と判決を同時に言った。
「ちょっと待て、芙雪。俺は無実だ。てか、なんで、お前がここにいるんだ?まさか、王都を抜けだしてきたのか!」
「ええ、誰かさんが軍務放り出して女作って遊んでいるって聞いたからね。これは、婚約者である私がしっかりとお灸を据えなくてはいけないかしらと思ってね・・・。って、あ、あの、違うんだからね!私は婚約者が情けないことになってるって聞いて、そうすると、私にも不利益になるっていうか、将来の夫もしっかりと躾けられないのかって言われるのが嫌で仕方なく、そう、しかたな~く!ここに来てあげたんだからね。感謝しなさいよ!!」
マルクがちらっと視線を動かすと、なぜか新しいプレートを作っている沙織が背景を花だらけにして、目を輝かせて芙雪のほうを見ていた。
「あの、沙織さん?つかぬ事をお聞きしますが、今度のプレートはなんと書いているんですか?」
「え、マルク様?ああ、これですか?ちょうど今できたところなんですよ。」
そう言って、笑顔で芙雪の席のプレートの隣に置いた。「死刑執行人」!!
「ちょっと、待て、沙織!!そんなもんを芙雪の席に置かないでくれ!」
「そんなことを言ったって、私だって怒っているんですからね!」
ま、でも久しぶりに芙雪様のツンデレが見られたので許してあげます、と言って沙織は「死刑執行人」のプレートを破棄した。
因みにその後一時間ほど裁判長の追求は続いた。最も、そのほとんどが芙雪がマルクのことをどれだけ心配したかということだったので、マルクもおとなしく話を聞いていた。
「さて、気を取り直して、・・・、エリオ?お前、誰に手紙を書いているんだ?」
「え?マルク様?嫌ですねぇ。友人に決まっているではありませんか。ちょっと、友人の妹が、若い男の毒牙にかかっているって相談されてましてね。いやはや、大変ですよ、もう。」
「そこの手紙の宛先はケンになっているのは気のせいか。そして、若い男は俺のことか、ええ、エリオ?」
「ははは、」
エリオットが乾いたような笑いをする。指をボキボキ鳴らしながらマルクが近づこうとすると、隣に座っていた芙雪がマルクを掴んだ。
「マルク?執行猶予っていつでも外されるって知ってる?」
マルクは、ロボットのように首をガクガクと震わせながら芙雪の方を見て、ごめんなさいと言って席に着いた。因みにマルクの刑は、死刑・執行猶予10年であった。
その後の軍議は、一応滞り無く進んだ。とは言っても、約10倍の兵が迫る中で出来ることは少ない。サグマが襲われている段階で既に援軍の要請は出してはいるが、王都まで往復して、仮に近隣から兵を集めても到着まで3日はかかる。また、ここパンツェッタを放棄しても、バンバロ・トンケル・ユンズでは防衛戦をする規模の砦ではない。更にそれ以上後退してはこのムンズ地方は帝国に蹂躙されつくし、占領されてしまうだろう。
「見張りのローテーションはどうなっている?」
「はっ!部隊を4つに分け不寝番にあたっています。また、傭兵どもが食料を食い散らかしたようで、備蓄が後2日しか持ちません。」
「わかった。食料は最悪、農民に供出させなければならないだろうな。偵察!敵の動きはどうなっている?」
「はっ!敵はサグマ近郊に停滞しておりますが、軍の再編が済み次第、こちらに進軍してくると思われます。」
難しい顔をしているため、重苦しい空気が漂う。芙雪や沙織もまさか現状がこのようなことになっているとは知らず(ここパンツェッタに着くまで帝国の侵入を知らなかった。)、青い顔をしている。結局、その日の軍議では、よい作戦がでないままお開きとなった。今大切なのは、一番に情報、二番に作戦、そして三番目には休息が必要なことは誰の目からも自明であった。
何を思ったのか、一緒に寝ると言い出したエリに対抗するように芙雪も一緒に寝ると言い出したのだが、両方共丁重にお断りをしたマルクは自室で一人、冥想をしていた。
背中にふと感じた“影”の気配に、マルクは目をつぶったまま聞いた。
「それで、帝国の侵入の目的はつかめたか?」
「はい、やはり、帝国傭兵に混ざっていた軍の諜報員の処理のようです。サグマにいた諜報員は混乱に乗じてすべて回収しておりました。」
「すると、今後は?」
「おそらく、パンツェッタに一当して、落とせそうなら落とすが・・・、と言ったところかと。」
「カイルを逃したのは痛かったな。」
「申し訳ありません。もう少し泳がせようと思っていたのですが、」
「まあ、いい。そこで捕まるようでは、鳳凰の参謀はできまい。その他のことも万事抜かりはないか?」
「はい、しかしよろしかったのですか?せっかく、芙雪様が添い寝をとおっしゃったのに。お二人の秘密として既成事実を作っておいたほうが、芙雪様もこれからが楽になったでしょうに。」
「おい?“影”?いつから、お前が冗談を言えるようになったのだ。」
「ふふふ。お望みとあらば、いくらでも!!」
そのまま、“影”は気配を消していった。
「平穏な日は、今日で終わりか。」
マルクのつぶやきを聴くものは誰もいなかった。
久々の芙雪との再開。しかし、運命は二人を簡単に一緒にはさせてくれない。ってか、ただマルクがヘタレなだけか。
久しぶりに芙雪のツンデレを書けて満足です。気がついたら、男だけのむっさい小説になっていたので、これから女の子成分を増やしていきたいと思います。