ムンズ攻略編第11話~ラウン平原の戦い(中)~
本当は(下)の予定でしたが、長くなりそうだったので、一度切りました。
おかげ様で、ユニーク1000を超えました。また、お気に入り16件に増えました。感想もいただきました。
これからも頑張って行きたいです。
数日前から、急に一日のユニーク数が増えました。どなたか、広めていただけたのでしょうか?期待に応えられるように頑張ります。
「ようやく、パンツェッタまで残り半刻(一時間)となりましたな。思えばこの行軍、ここまで来るのにずいぶんと苦労しました。」
ハンムリル軍ムンズ地方平定部隊は、序盤カールデリアまでは順調に軍を進められたが、その後、司令官はいなくなるし、大規模な土砂崩れ(犯人はマルク)に三度も見舞われ、結局出兵から三ヶ月経ってようやくパンツェッタに着こうとしていた。軍の先頭で馬を進めるデイヘラーは、後ろに集まっている指揮官のぼやきに苦笑した。
「でもまっ、これでようやく戦える。我々が来たからにはこのムンズも平和になるだろう。」
指揮官らの言葉に兵のあちこちから雄叫びがあがる。しかし、そこに水を差す人間が一人いた。
「けっ、どうせ俺らが行く頃には反乱軍は鎮圧され、遅かった我らは笑いもんだな、はっはっはっ。」
「セイフバーク大尉!口を慎まれよ。それに、反乱軍が三砦を攻略したのは事実。今は、むしろ反乱軍のほうが優勢の可能性が高い。」
今回、唯一の貴族出身であったセイフバークは、未だ軍に馴染もうとしていなかった。
「デイヘラー司令官代理。そろそろ自分の部隊に戻ってもいいですかね。と言うか、なぜ指揮官を軍の先頭に集めているんだ。ムンズ伯をお迎えするならともかく、貴賓をお迎えでもしないのにこんな風に集まる意味が無いと思うがね。」
セイフバークの投げやりの言葉を聞き流したデイヘラーはふと馬を止めた。そして、全軍に向かって指示を出した。
「総員、馬を降り、前方に敬礼!!」
全軍がパッと敬礼した瞬間、一陣の風が吹きデイヘラーの前に一人の男が現れた。そして、ゆっくりと敬礼をするとニカッと笑いかけた。
「デイヘラー、久しぶりだな。よくここまで軍を率いてきてくれたな。」
「はっ、マルク様におかれましてもご壮健のようで何よりでございます。無事のお戻り、お喜び申しあげます。」
指揮官をはじめ、一同に唖然としている中、マルクとデイヘラーはにこやかに挨拶を交わす。そして一拍の後、戻ってきた司令官に対し、歓迎の雄叫びが響きあがる。それを聞いたマルクは、満足そうに頷き、そして口を開いた。
「諸君!ここまでの行軍、ご苦労であった。今まで、私は行動を共にできなかったが、諸君の勇姿は常に見てきた。我々は、これから決戦の地に向かう。我々に課せられた任務はこのムンズ地方の平和を取り戻すことである。その為の諸悪の根源を取り除かなくてはならない。」
マルクの言葉を、すべての兵が黙って聞いている。
「私は、実は単独行動していた今まで、反乱軍に潜入していた。」
しかし、この言葉にざわめきが起こる。最も、その実情を知るデイヘラーは、あれは潜入と云うより、懐柔、たらしこみ、乗っ取りといったものだろうと心のなかで毒づいていたが……。
「反乱軍と行動を共にしてわかったことは、諸悪の根源はムンズ伯にあることである。ムンズ伯は、陛下のものであるハンムリル軍ムンズ地方守備隊を無駄に失わせ、また現在反乱軍に向け、黒魔術により操った三万の農民をラウン平原に集めている。この中には、まだ年端のいかない少女から、歩くのがやっとのお年寄りまで動員している。ムンズ伯のこの所業は最早、見過ごすわけにはいかない。また、今私の手にあるものは、陛下より賜りし勅書である。」
そう言ってマルクが高々と掲げたもの。そこには、しっかりとハンムリル国王のサインの入った勅書であった。
『ムンズ伯・吉成・ケインズは、伯爵の地位にありながら予の民を苦しめ、更にいたずらにコルン帝国の傭兵を領内に招き入れた。この所業は予に対するあきらかな叛意である。よって、伯爵の地位をはじめ、一切の権利を剥奪し身柄を速やかに王都に連行、不可能ならこれを殺害すべし。ハンムリル国王 忠真・エクス・ハンムリル』
この勅書が全軍の眼に入った瞬間、軍の士気は最高潮に達した。もとより、農民出身者を中心に構成されている今回のムンズ地方平定部隊。王命により仕方なく、ムンズ伯に加担するものだと思っていた多くの兵は真の倒すべき敵を示され喜びあふれた。最早、指揮官が止めなければ、そのまま戦場にかけていきそうな勢いである。
「「「国王陛下、万歳!!マルク様、万歳!!」」」
口々に国王やマルクを称える声が聞こえる中、一人顔を真っ赤にして怒りに震える者がいた。
「おい!マルク!!てめえ、陛下にどんな手を回した。今現在、芙雪様の婚約者だからって調子にのってんじゃねえぞ!ムンズ伯を追い落として貴族派の力を削ごうってつもりか?おいっ!!?」
マルクに掴みかかり、怒鳴り散らしたのは魔法部隊指揮官セイフバークだった。マルクを締め上げようとするが、周囲の指揮官に取り押さえられる。
「セイフバーク大尉。上官への暴力行為は軍法会議の対象になりますぞ。」
「けっ、何が上官だ。この国の人間でもないやつに使われること自体、俺は我慢ならなかった。何が特務中佐だ。お前ら、目を覚ませ。このハンムリルがサンダールに乗っ取られるかもしれないんだぞ!!」
喚くセイフバークに対し、しかし他の兵たちは冷ややかな目を向けていた。兵たちの多くは農民の出である。そんな彼らが貴族に対し、いい印象を持つはずがない。しかも、真の悪であるムンズ伯を倒すとしたマルクに対し、身勝手な発言をしているセイフバークに味方するものはいなかった。なおも暴れるセイフバークは、そのまま拘束されどこかに連れていかれた。マルクはため息をつきながらデイヘラーに言った。
「よく、あいつをここまで連れてこれたな。」
「ムンズ伯と独自に内通していましたから。おそらく、貴族派の工作員としているつもりだったんだと思います。」
どうでもいいと云う風にデイヘラーは答えた。
「とりあえず、魔法部隊暫定指揮官にカリス・カルロー少尉を任ずる。カルロー少尉、至急魔法部隊の取りまとめを始めろ。」
デイヘラーがてきぱきと指示を出す。そして、マルクの方へ向き直り、恭しく頭を垂れた。
「マルク・アレ・サンダール司令官閣下。只今を持って、閣下よりお預かりしておりました全軍の指揮権をお返しいたします。」
しかし、マルクは首を横に振った。
「いや、今しばらくデイヘラー少佐に預けたままにする。今後の作戦を発表する。現在、反乱軍とムンズ伯軍はラウン平原において交戦中である。全軍、直ちにラウン平原に向けて進軍。私は単身、パンツェッタ城に潜り込み、黒魔術の術者を始末する。全軍はムンズ伯傭兵の背後に待機、農民たちが黒魔術から切れた瞬間、背後より傭兵に強襲し、反乱軍と挟撃の形をとれ。ムンズ伯軍にはなぜかハンムリル正規軍は一兵もいない。だから、遠慮なく敵を殲滅せよ!」
「しかし、閣下お一人では、パンツェッタ城を落とすのは……。」
指揮官の一人が恐る恐る尋ねると、マルクはニヤッとして答えた。
「“ユンズの悪夢”の話は聞いたことないのか?」
その瞬間、指揮官はガタガタと震えだした。
「まっ、まさか。あれをおやりになったのは……」
「ムダ話の時間はここまでだ。私も後から必ず行く。平和なムンズ地方を得るため、ここが正念場である。総員、心してかかれ!」
オオオオオオっーーーーーーー!!!!!!!!!!
そして、ひとりマルクを残してハンムリル軍はラウン平原へと向かった。
「戦線を維持せよ!なるべく殺さないようにするのだ。いいか、今はひたすら耐えるのだ。さあ、押し返せ!!」
ザンツェルの必死の鼓舞が戦場に響く。戦端が切られてから既に一刻が過ぎていた。左翼を担うザンツェル隊も少しずつ疲労が出ている。敵の農民兵は、黒魔術により死ぬまで襲ってくる。そんな彼らを殺すことはできない。敵を殺してはいけない戦争など聞いたことがない。そんな状況がジリジリと精神から疲弊させている。敵方の農民兵の後方に待機している傭兵達はまだ動かず、反乱軍と農民兵の様子を静観している。おそらく、反乱軍と農民兵が共に消耗しきったとき彼らは狩りを始めるだろう。その魂胆が解るから反乱軍としては、なるべく体力を温存しつつ来る傭兵との戦闘に備えなければならない。しかし現実には、農民兵達だけで精一杯だった。
「耐えろ!なんとしてもあと一刻耐えれば我々の勝利となるのだ!」
マルクが、黒魔術を解くのに必要とした時間、一刻が過ぎようとしていた。ザンツェルは圧されている自軍をみて、すがるような気持ちでパンツェッタを方を仰ぐ。
(くそっ、マルク殿下。早くしてくれ!!)
心の中で毒づくがどうにもならない。
「おい、そこ!!陣を乱すな!一人の乱れが我々全ての命に関わるんだ!」
雑念を振り払い、指揮に集中するザンツェル。
今回の戦いでは、農民の保護があることから、歩兵中心で構成されている。それも、バンバロの砦の壁板などを剥がして作った盾で武装した重歩兵。マルクの考え出したこの戦法は、ちょうどアテナイやスパルタが採用した集団密集戦法であった。本来であれば、盾の隙間から槍を出して敵を攻めるのだが、農民を殺せないことから盾で押し返すだけである。万事休すと苦虫をかみしめていると、味方本陣の方で大きなどよめきがあった。
「誰か!!確認してこい!!」
すぐさま、指示を出すザンツェル。慌てて、二、三人の兵が駈け出していく。本陣の方を見ると、本陣が真っ二つに割られていた。
(ちぃ、エリオットの野郎。もっと踏ん張れよ。)
心のなかで毒づきながらザンツェルは更に指示を飛ばす。
「本陣が崩れた。本陣の左半分はわが左翼が収容する。右半分はゲッセンハルト殿がうまくまとめるだろう。その後、敵、農民部隊と傭兵の間に回りこみ、右翼と合流し敵を二分する。」
本陣から崩れてきた兵を収容し、回りこむ左翼と連動するように右翼でも回りこみを始める。そして、本陣の様子を確認してきた兵が戻ってきた。
「申しあげます。本陣は壊滅。現在、本陣の兵は左右両翼に収容されつつあります。」
「エリオットは無事か?」
ザンツェルは掴みかかるように尋ねる。
「はい。急に意識を失い倒れたそうですが、現在は戦線に復帰され右翼にてゲッセンハルト様と共に指揮を取られております。」
報告を聞き、幾分落ち着いてきたザンツェルは、ふとあることに気づく。
(あの狸め〜〜)
見事、エリオットの計略にはまり、手のひらに泳がされたザンツェルは心のなかでエリオットを非難する。
そして、反乱軍の両翼が完全につながり、傭兵と農民を完全に分断したその瞬間、まるでタイミングを図っていたように農民たちの動きが止まった。そして、農民たちは辺りをキョロキョロと見回してそこが戦場だと知ると、大混乱に陥りながら放放へ逃げまとった。
開戦から、あと四半時(三十分)で一刻が過ぎようとする時、パンツェッタ城の前に一人の男が現れた。当時、城はまもなく来るであろう援軍のために城門を広く開けていた。男がそのまま、門を入ろうとすると、門番が槍を突きつけその行く手を塞いだ。
「にいちゃん。此処から先へは入っちゃいけねえんだ。トットと立ち去りやがれ。」
それを見た男は面倒くさそうに言う。
「私は、ハンムリル軍ムンズ地方平定部隊司令官マルク・アレ・サンダール特務中佐である。私に無礼はなるまいぞ。」
それを聞いた門番たちは大笑いをした。
「はは、いつの時代に兵を連れない司令官閣下がいるんだ。にいちゃん、寝言は寝てから言えよ。」
そのとおりだと囃し立てる彼らに向かって、マルクはぼそっと言った。
「一応、警告はしたぞ。まぁ、見るところコルン帝国の傭兵みたいだし問題ないか。」
未だ、笑い続ける門番たちの声が急に止まった。そして、マルクは悠然と門をくぐっていく。その後ろには、今さっきまで人間であったものが転がっていた。
パンツェッタ城守将、俊之・ケインズはいつもこの時間ティータイムであった。今日は、サンダールから取り寄せた高級茶を味わっていた。最近は守備隊に傭兵とやかましい毎日であったが、今日はそれらはいない。守備隊は既にこの世になく、傭兵は今、戦場に出ている。このパンツェッタには現在、五十ばかりの傭兵と、黒魔法使い二十名しかいなかった。俊之は久々ののんびりとしたひとときを送っていた。俊之がこの時間に一番嫌うのは、一人だけでいる彼の部屋に無遠慮な邪魔が入ることだ。だから、その扉が開いた時、彼は烈火のごとく怒ろうとした。しかし、それをすることはできなかった。振り向いた彼の目に入ったものは、全身血まみれで赤く染まり、抜き身の剣を持つ男が立っていたのだ。
「お初にお目にかかる。私はマルク・アレ・サンダール。今回、ムンズ地方平定部隊司令官に任命された者である。ムンズ伯の弟君、俊之・ケインズ殿とお見受けいたすが…。」
マルクの言葉に必死に首を縦に振るしかない俊之。しかし、その行為が彼の最後の行動となった。一度頷いた首は、二度とあがることなく床を転がった。まるで豚のようなその体は、重たい音を立ててその首に覆いかぶさるように倒れた。
「さて、残すは術者だけか。」
首をボキボキと鳴らしながら、マルクは場内にある祈りの間へと向かった。
黒魔術は、いわゆる呪いとして認知されている。精神に直接関与するため、下手に術者を殺害すると人形となっている農民たちはすべて、頭が破裂することになる。これを止めるためには、呪詛返しをして、操り人形から魔法を剥がすしかない。祈りの間に着いたマルクはそこで一心に黒魔術を行使している二十人ばかりの集団を見た。
「はあ、こいつらに返せばいいのか。」
かったるそうにしながら、マルクは呪詛返しの呪を唱え始める。唱え始めて少しもしないうちに効果が出てきた。術者の一人が大きく震えだしたと思ったら、その場で、頭が暴発した。そして、次々に垢い花火が上がった。そして、ラウン平原では農民の動きが止まった瞬間であった。
シリアス書こうと思ってるのに、シリアスにならない(汗)