ムンズ攻略編第9話~バンバロの誓い~
こんばんは!なんとか1月中に出せました。ラウン平原まで行かなかったです。早いうちにラウン平原を書きたいです。
「いいか!我々の目的はただ一つ!なんとしても、援軍が到着する前にパンツェッタを落とすのだ!」
「正義は我々にあり!流れは我々にあり!再びムンズに平和と繁栄を取り戻すために!」
ケンとエリオが声を張り上げる。ユンズを制圧した反乱軍の行動は迅速であった。マルクが手引きした通り、トンケルはあっさりと降伏した。農民出身の守将ゲッセンハルトは砦内の一般兵を掌握、駐留していた傭兵たちを一掃した。反乱軍は一戦もせずトンケルに入城。ユンズ・トンケルで吸収した兵力を組み込み、既に一万二千の大軍になっていた。しかも、今までの素人農民兵ではなく、正規の訓練を受けた兵が多数加わったのだ。反乱軍の士気は最高潮であった。
この勢いにのまれたバンバロでは、砦に駐留する傭兵にパンツェッタへの移動命令が下された。さらにバンバロの守将であったムンズ伯の弟、俊之・ケインズもパンツェッタまで逃げてしまった。既に砦内では士気は無いに等しかった。それでも、己が命を全うしようとした将校たちはが徹底抗戦を主張したが一般兵が強く反発。結論がでないまま反乱軍の攻撃を受けた。一般兵は我先にと反乱軍に合流し、反乱軍の規模はさらに大きくなった。このまま、バンバロも無血開城かと思った矢先、問題が生じた。将校たちはバンバロ砦の最奥に籠城し、大規模魔法を駆使して反乱軍に立ち向かっていた。反乱軍はいまだ魔法を使えるものが少ないため手をこまねいていた。
「マルス様、複数人がかりでの大規模魔法のため、制圧には今少し時間がかかる見込みです。」
前線に出てきたマルクに向かって指揮官のひとりが焦ったように言う。マルクは手をヒラヒラ振って極めて軽く言った。
「ああ、ご苦労さん。因みにこちら側の被害はどれくらい?」
「幸い、死者はでておりませんが、数名重症者がでております。ただ、」
敵が強力な魔法を使う場合、魔法を使えない者がとれる戦法は、決死の突撃をするか、距離をとって相手が疲弊するのを待つか、二つに一つである。現在は後者をとったため、被害は少ない。しかし、
「このままにらみ合いしてても、敵の疲弊は望めないってことだな?」
指揮官の言葉を遮りマルクが言った。事実、魔力量の多い相手に後者の戦法は無意味であろう。例えば、マルク相手に持久戦に持ち込んでも、魔力が枯渇するまで三百年はかかるだろう。彼らはマルクほどの魔力を有していないにしろ、この方法ではほとんど勝てる見込みはない。しかし、ここを制圧しなければ、この先パンツェッタに進行することができなかった。
「はい、ですので今、突撃部隊を編成中です。」
指揮官の難しい顔を見て、マルクはニヤリとする。
「よし!ここは俺に任せろ。十分でカタをつける。」
「えっ、いやお一人など危のうございます。」
「いや、むしろ一人の方がいい。お前だってユンズの悪夢を知っているだろう?」
一瞬にして、指揮官は硬直する。マルクが行ったユンズの悪夢は味方に勝機を与えただけでは無かった。
「わっ、わかりました!どうぞ、よろしくお願いいたします。」
震えながら敬礼する指揮官に軽く手を振りながらマルクは歩いていった。
立てこもっていた将校たちは、何がなんだか解らなかった。散発的な攻撃に対し、余裕をもって対応していた。後、二日程粘れば援軍が来ると考えていた。勿論、敵が決死の突撃を仕掛けてくれば覚悟を決めなければならないが、それでも彼らはそれでもいいと思っていた。
今回の反乱、どちらに非があるとすれば確実にムンズ伯である。彼らもそれはよく解っていたし、農民出身の彼らとてできることなら反乱軍に参加したい。しかし、彼らはできない。彼らは正規のハンムリル王国軍なのである。貧しい農民から、魔法の才能だけを見いだされここまで育ててくれた恩。それは、ひとえに国に対する忠義に他ならない。彼らは、あっさりと降伏したトンケルの守将ゲッセンハルトを許せない。それはどんなに気に食わない人間に仕えていても、国王の命によりそう決められているからだ。彼らはどんなことよりこのハンムリルが大事であったし、国王を信望していた。だから恩ある国に対して叛を翻すことなど彼らにはできなかった。その思いだけが、ムンズ地方の総司令官であるムンズ伯の命令に従っているのであった。
したがって、彼らはここで倒れるわけにはいかなかった。たとえ、自分らはここで討ち果てたとしてもパンツェッタで再編しているはずの王国軍の時間稼ぎをしなくてはならない。また、敵の戦力を少しでも減らさなくてはならない。しかし、確固たる思いも目の前に歩いてくる一人の男によって打ち砕かれようとしていた。どんなに魔法を打ち込んでも、彼に当たらない。彼の目の前にくるとなぜか魔法が霧散してしまう。
「くそ、俺の最高出力だ!喰らいやがれ!」
ひとりが焦ったように魔法を撃ち放つ。
「ばか!止めろ!」
彼らのリーダーであったバンバロ副司令官ザンツェルは叫ぶが遅かった。魔法はやはり男の前までくるとまるで線香の煙りでも吹くかのように霧散した。魔法を放った男は魔力を使い果たし倒れた。それを見た他の将校たちも覚悟を決めそれぞれが全力の魔法を撃っていく。そして男の前で霧散する。彼らはバタバタと倒れていく。気が付くと残っているのはザンツェルだけだった。ザンツェルは逃げ出したかった。しかし、自分の周りに転がる仲間たちを置いて自分だけ逃げるわけにはいかない。彼ができるのは最期の悪あがきだけである。
「ふ、ファイヤー・サイクっ、げほっ、げほっ。」
魔法をかけようとしたとき、近寄ってきた男が一気に懐に入り、鳩尾に拳を入れた。
「まぁ、急ぐなって。それよりも、お前名はなんて言う?」
ザンツェルを押さえつけると、男はのんきに言った。
「敵に名乗る名などもっておらん。それに、人に名を聞くなら自分から名乗るべきであろう!」
ザンツェルがそう吐き捨てると、男はなるほどと言った。
「これは失礼した。俺はここではマルス・サンダルノと名乗っている。訳あって今は本名を名乗れんのでこれで勘弁してくれ。」
「!!、そうか、貴様があのユンズの悪夢の実行犯。ならば、悔いはない。一思いにやってくれ。」
マルクは呆れて言った。
「だから、俺はお前の名前聞いているのだ。なぜ殺さなくてはいけない。」
「貴様は我らに辱めを加えようというのか。ふっ、いいだろう。たとえどんな屈辱だろうと俺は耐え抜いて見せる。この俺の陛下への忠義心をみて驚くがいい!!」
マルクはどうしたものかと悩む。そして、
「わかった。話し合いは無理らしいな。一思いにやらせてもらおう。」
ザンツェルは最期を覚悟している。そして、マルクの手に魔力が集められ、放たれた。
前線で待機していた指揮官はただただ動揺するだけであった。マルクが任せてくれと言って出陣してからすでに15分が経過している。7分までは盛大な戦闘音がしていたがその後全く何の音も聞こえない。マルクの魔法に巻き込まれる可能性があるので近くに偵察を出すことすらできていない。しかし、それはまだ大きな問題ではなかった。いくらマルクがユンズの悪夢を起こした張本人だとしてもまさか10分で制圧できるとは思っていなかったから。問題は先ほど5分前、つまりマルクが行って10分後に来た2人にあった。
「だ・か・ら、話せと言っている。マルスが一人で行っているなど、危険すぎて話にならん。どうしてあいつはいつもそんな無茶ばかりするんだ!!」
「で・す・か・ら、ご主人様は足手まといになるから他に誰も連れて行かなかったのです。むしろ今あなたが行くと逆にご主人様の足を引っ張ってしまいます。ここでおとなしくしてなさい。」
先ほどから言い争いをしているのは、エリオとエリであった。エリはユンズの悪夢の後マルクの専属メイドになることを公言し、一瞬反乱軍の中で内部崩壊が起きそうになったのはまだ記憶に新しい。もろもろの結果、エリのメイド化は承認され、それ以後エリはマルクのことをご主人様と呼ぶようになっている。マルクが前線に行ったことを聞きつけた二人は心配になり様子を見に行った。・・・主にエリオはマルクの無事を心配して、エリは心配というよりご主人様の勇姿が見たいがために・・・。
そして、マルクが一人で敵のところに向かったことを知りこの二人が口論を始めたのである。指揮官は自分の手に余る二人を前に頭を抱えるしかなかった。
「あの、お二人とも、そろそろこの辺で・・・」
「「あ?なんなの(だ)?外野は黙ってなさい(ろ)!!!!」」
指揮官が二人の剣幕に気おされ失神しそうになったとき、いきなり大きな魔法音が聞こえた。そして、
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今度は、心配で見に行くと言って騒ぐエリと、大丈夫だからここで待つべきだというエリオが口論を始めたのである。
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ザンツェルはいつまでもこない苦痛に不思議に思い、恐る恐る目を開ける。
「よし、これでここにいたバンバロの将校は全員死んだな。おい、お前、名はなんという。」
一人で変な芝居を始めたマルクに対してザンツェルは怒り出す。
「貴様!どこまで俺を愚弄すればっ!」
「すまんな。しかし、お前のような忠義心厚いやつを殺すのは惜しくてな。」
そういうと今まで羽交い絞めにしていたザンツェルを解放する。そして居住まいを正し、言った。
「私の本名は、ハンムリルマルク・アレ・サンダール特務中佐である。今回のムンズ地方平定部隊の司令官でもある。そなたの名は?」
そう言って、ハンムリル軍司令官章を見せる。ザンツェルは狐につままれたような顔をして、そして大きく驚いてその場に平伏した。
「わっ、私はハンムリル軍ムンズ地方守備隊バンバロ砦副司令官ザンツェル・ハスキー大尉であります。」
まさかの事態にザンツェルは顔を青くしながら震える。
「そんなにおびえなくても良い。それよりそなたに確認することがある。そなたが忠義を尽くすのはムンズ伯か?」
その質問に対し、ザンツェルは顔を赤くして答える。
「とんでもありません。そのような侮辱、たとえマルク殿下であろうとも容認することはできません。我ら一心に忠誠を誓うのは国王陛下ただ一人でございます。」
マルクはそれを聞き、にこりとした。
「よくぞ言った。これから、このハンムリルは未曽有の危機になるかもしれない。私は陛下からムンズにおける総ての権利を移譲されている。これからは、私を主君と思って仕えるがよい。」
しかし、ザンツェルは難しい顔をしている。
「恐れながら、我らハンムリル王国軍の兵が仕えるのは陛下唯一人でございます。いくら後継として最有力の殿下といえども承服しかねます。」
「ザンツェル!貴様にとって大事なのはハンムリル王国軍としての地位か?それともプライドか?」
いきなり、語気を強めたマルクにザンツェルは気圧される。
「もっ、勿論王国兵としてのプライドです!」
「ならば、その地位とやらを捨てろ!いいか、俺はこれから誰もが理解できない行動を取り続けるであろう。周りの部下とて信じられない事ばかりだ。しかし、どんなに理解されなくても、どんなに敵を作ろうとも、たとえハンムリルの全てを敵にまわそうともそれはハンムリル王の願いであり、それはハンムリル・サンダール両国の為である。俺の地位がどう変わろうと、どの様な事をしてもそれは一切違わない。もし、俺が少しでもその意志に違えるとき、我らが太陽神テウルに焼き殺されようと、月神ヨミルに潰されようと一切文句を言わない。サンダール王国第一王子にして、ハンムリル王国第一王女、芙雪・シグナール・ハンムリルの婚約者であるマルク・アレ・サンダールの誓願として二神に誓う。ザンツェル!お前はこれから先、我がこの誓願を唯一の頼りとして、俺に仕えろ!!」
マルクの誓願を聴き、ザンツェルの眼には明確な意志の光が灯った。
「バンバロ砦副司令官ザンツェルは反乱軍により殺されました。此処にいるのはマルク殿下の忠臣、ザンツェル・ハスキーです。殿下の誓願のため、この命の火が消えるその瞬間までお仕えする事をお誓い申し上げます。」
その言葉を聴き、マルクは非常に嬉しそうな顔をした。
「して、他の者はどうする?」マルクが視線を後ろに送ると、先程まで魔力切れで倒れていた将校たちが平伏していた。
「我らも、マルク殿下のため一心に働く所存にございます。」
それを聴き、マルクは頷く。
「よく、決心してくれた。そなた達にも誓おう。我が誓願は決して破らない。これからよろしく頼むぞ!」
「「「「はっ!」」」」
ザンツェルたちを連れて戻ってみると、エリオとエリが口論していた。しかし、マルクに気が付くとすぐに駆け寄ってくる。
「マルス!心配させるな!」
「ご主人様、ご無事ですか?」
二人に頷き、マルクは言った。
「紹介しよう。彼らは今回我らの仲間になったザンツェルとその部下達だ。仲良くな!」
ぽかんとする兵たちの前でザンツェルたちは自己紹介をしていく。
「ザンツェルたちは私の直属とする。よろしく頼む。」
マルクはそう言うと本陣に向かって歩いていった。
次話、ラウン平原の戦いを書ければと思います