ムンズ攻略編第8話~各勢力、再び~
もうすぐ、第1章のクライマックスです。その前に、状況整理させていただきました。今回、マルクは出てきません。
感想等、渇望しています。
ばん!!
と音がして執務室の扉が叩き開けられた。ここはハンムリル王宮、国王の執務室である。ある日を境にここに毎日のようにくる人物がいた。
「お父様!私をムンズに行かせて下さい!」
今日も、入室早々口を開いた。芙雪・シグナール・ハンムリルはもう限界であった。マルクがハンムリル軍から消え、行方不明になってから既に2ヶ月。マルクが出兵してから3ヶ月の時間が過ぎていた。“ユンズの悪夢”については王宮にも情報が入っている。しかし、詳しい情報は入っておらず、僅か一日でユンズが反乱軍側に落とされたということしか解っていない。解っていないが、まるで人外の仕業としか思えない今回の事件に芙雪は戦慄していた。いずれマルクが軍に戻っても、そんな怪物と戦わなくてはいけない。ちょっとくらい戦闘能力があるマルクでは勝てない。芙雪は、本気でマルクが死んでしまうと思っていた。
「お父様は、マルクが死んでしまってもいいのですか?」
芙雪が本当に必死の思いで訴える。しかし、彼女の父は決して首を縦には振らなかった。
「芙雪。お前が行ってもどうするというのだ?ムンズで被害がでているのは、ムンズ伯の兵のみ。援軍は土砂崩れでまだムンズに着いてないからの。」
事実、ハンムリル軍は土砂崩れのため、未だムンズに着けず、援軍としての役割を果たせていなかった。報告によると、あと一週間程でムンズに着けるらしい。
「でも、マルクがいなかったら援軍の指揮が、」
芙雪は以前、沙織から聴かされていた話を思い出す。今回、マルクがしっかりとした実力を見せないと、最悪自分との婚約が破棄されてしまう。最近では、もう変に言い訳とかしなくなった。素直に自分が出せるようになっていた。
「軍の指揮はデイヘラー少佐がしっかり執っている。仮にマルクがいようといまいと結果は変わらん。」
王はそう言い捨てると、少し厳しい表情を見せて言った。
「それより、お前は早く花嫁修行でもしていろ。どこに出しても恥ずかしく無いようにならんと、誰とも結婚させんぞ!」
そう言うと、芙雪を部屋からつまみ出した。
「また、随分と酷く言われましたな。陛下。姫様に嫌われてしまいますよ。」
芙雪が出て行った扉の方を見ながらダレル公はニヤニヤと言った。王は憮然として、
「儂とて好きでしているんじゃない。お前はそういう経験がないであろうが、実の娘に陛下と呼ばれる苦しみを理解できるか?」
王の見当違いな発言に一瞬ポカンとしたダレル公であったが、
「少なくとも、今日は言われなかったので、宜しかったのでは?」
と、間抜けた返事をする。
「くそ、人の家庭の事情だと思って。」
再び吐き捨てると、王は真面目な表情をした。
「しかし、反乱軍の進行が速いの。ユンズ、トンケルに続きバンバロまでこうも早く落ちるとは。」
王が少し溜め息混じりで言う。
「仕方ありません。理由はよく解りませんが、ユンズはマルク様ひとりで落とされたようです。それも二時間で。」
ダレル公は、極めて冷静を装って言う。
「しかし、ユンズを二時間とは。確か、二十年前の帝国をして八万の兵で三日かかったと記憶しておったが。」
王はそうぼやくと悩ましい顔をした。
「マルク様に関しては心配ございますまい。それより、姫様の方をお気をつけ下され。そろそろ限界で御座いますれば。」
そういうと、真剣顔のダレル公が急にニヤッとして、
「なんせ、怪物にマルク様が食べられてしまいますからの。フォッフォッフォッ!」
一方、部屋を追い出された芙雪は沙織を伴ってすごすごと部屋に帰ってきた。
「あの、姫様。大丈夫ですか?」
沙織が心配そうに聞くと、芙雪はダラダラと涙を流しながら言った。
「どうしよう、沙織。マルクが死んじゃうわ。ムンズには、怪物がいるのよ。マルクが勝てるはず無いわ。」
もうこれ以上は限界だと悟った沙織は意を決して言った。
「姫様。私たち二人だけで行きましょう。」
その言葉に芙雪は驚く。
「で、でも、どうやって?」
「大丈夫です。私の実家を使います。サンガ伯爵家もそこそこできるんですよ。」
沙織が自信満々に答える。
「でも、そうしたら沙織が怒られてしまうわ。」
「姫様っ。私の望みは姫様とマルク様が二人で仲むつましく暮らせることなんですから。さぁ、もう準備はできています。今夜、決行しましょう。」
「さ〜お〜り〜。」
芙雪がぎゅ〜と抱きつくと、沙織は優しく微笑んだ。
「少佐!バンバロが落ちた由にございます!」
急を知らせる伝令の声を聞いたデイヘラーは思案を巡らせる。
(流石は、マルク様。こちらが土砂崩れを片付け終わるのと同時にバンバロを落とすとはな。ムンズ伯は俺らに活躍されたくないはず。ということは…)
「誰か、ムンズ地方の地図をもってこい。それとすぐに軍議を始める。指揮官を召集しろ!」
指揮官が揃うとデイヘラーは言った。
「諸君らのお陰で三カ所あった土砂崩れは全て解消する事ができた。しかし、この時間ロスでムンズ伯軍は、ユンズ、トンケル、バンバロの三つの砦を失った。反乱軍は今後パンツェッタを攻めるだろう。よって、我々は一路、パンツェッタに向かう。おそらく、ムンズ伯軍はパンツェッタの手前10キロのラウン平原で反乱軍を迎え撃つだろう。パンツェッタにて体制を整えた後、すぐにラウン平原に向かう。いいか、お前ら!反乱軍如きに手こずるムンズの腰抜けに、我々の実力を見せつけようぞ!」
うおおおぉ〜〜〜!!!!!!
指揮官たちが勇ましく雄叫びをあげた。
指揮官たちを下がらせた後、デイヘラーはひとり座っていた。誰もいない部屋で不意にデイヘラーは言った。
「“影”殿か?いつも、ご苦労だな。しかし、まだ気配を察しきれない。これは流石と言うべきか。」
ふっとデイヘラーの前に人影が現れる。
「いえ、感心しているのは、こちらの方でございます。こうも気配を察せられては、今後少佐への諜報活動は困難になってしまいます。」
“影”がおどけて言うと、居住まいを正し言う。
「本日の連絡でございます。マルク様はバンバロを落とし、現在軍の再編中でございます。二日後、パンツェッタに向け、進軍を開始するとのことです。対するムンズ伯軍は少佐の予想通り、ラウン平原で迎え撃つつもりです。陣の構築をするため明日にはパンツェッタを順次出陣するようです。ムンズ伯軍は約三万の見込みです。」
「さっ三万!?して、対するマルク殿下の兵力は?」
デイヘラーは驚いていた。ムンズ伯がそれほど多くの兵を集められるとは思っていなかったからだ。
「マルク様は現在、周辺の村や3つの砦で吸収した兵力合わせて1万2千で立ち向かう予定です。」
マルクの兵力は半分にも満たない。
「我々も千の兵力しか無いしな。」
デイヘラーが思案していると、扉をノックする音が聞こえた。“影”は一礼するとスッと消えた。デイヘラーが戸を開けると、足元に一通の手紙が落ちていた。手紙を拾い読んだデイヘラーはニッと笑い急いで手紙を書き始めた。
「いいか!かき集められるだけ集めるんだ。どうせ農民共は腐るほどいるんだ!」
膨れた腹をさらに誇張するように後ろに反り返りながら、ムンズ伯は叫んでいる。
ムンズ伯はその武勇によりこのムンズを与えられた。しかし、農民の反乱に対し既に3つの砦を落とされるという屈辱を受けた。
「伯爵様!これ以上となりますと、魔術師の体が保ちません。」
「そんな事は知らん!お前がなんとかしろ!」
劣勢となったムンズ伯のとった方法とはある意味やってはいけなかった。天然魔術師のみが使える精神干渉系魔法、通称“黒魔術”を使った。
もともとムンズ伯は農民からの人気が無かった。そんな事で、ムンズ伯の出した兵の募集に応じる者は傭兵を除いてほぼゼロであった。それでも、始めのうちはそれで良かった。しかし、状況が変わった。3つの砦が落とされ、そしてパンツェッタまで反乱軍が迫ろうとしている。ハンムリル軍の援軍を待てばいいが、平民でほとんどを構成されている援軍に借りは作りたくない。なんとしても、援軍が来る前に決着をつけたかった。
黒魔術を使うと、対象の精神に直接干渉できる。このことから、ムンズ伯は魔術師が制御できる最大限の人間を集めさせた。今いる三万の兵は意志なき人形であった。それは、老若男女問わず構成される悲しき軍隊であった。それが今、マルクたちに立ちはだかろうとしている。
次話、いよいよラウン平原の戦い。マルクたち反乱軍は三万の敵相手にいかに戦うのでしょうか。そして、デイヘラーが受け取った手紙とは。
きっと、いろいろと感想いただけると、テスト勉強よりこっちを優先して早く書けるかも。……。ごめんなさい。調子のりました(汗)