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サンダリル興国史  作者: 大九
1章ムンズ攻略編
10/17

ムンズ攻略編第7話~ユンズの悪夢~

なんとか、金曜日に投稿できました。おかげさまでPVが1000越え、ユニークが300を越えました。ひとえに皆様のご助力のおかげです。

今回、残酷描写、及び人の尊厳を貶めるような描写があります。私個人としては、このようなシーンもファンタジーものには必要だと考えていますが、皆さんはどうでしょうか?是非、ご意見いただければと思います。

次話は来週中に投下できればと思います。

でも、テストが…

 深夜、マルクを訪ねたエリオットはエリがいた事に驚いた。この戦争の直接の原因となった事もあり、エリは毎日鬱ぎ込んでいた。ケンたちは、夫と息子を殺されたことを嘆いていたのだと考えていたので、ひとりにさせていた。それが、今日初めてあったマルクの元に、それも深夜に訪ねていたのだ。

 「マルク様?まさかとは思いますが、エリさんに手を出したのですか?」

 エリオがそう疑問を持つことは自然だった。

 「エリオ、俺はここではマルスだ。どこで聴かれているか解らんから不用意にマルクと言うな。」

 「そうでした。すみません、マルス。で?実際はどうなのですか?」

 エリオとしては追求を止めるわけにはいかない。マルクは仮にも王族だ。それも、2国で王位継承権のトップになっている。悲しむのはエリである。

 「ん?別に何もしてないぞ。なんだ?彼女は何かあるのか?この戦争の引き金に成っただけあってとても魅力的な女だったが。なんか、兄を助けた礼を言われただけだ。」

 あまりに普通に話すのにエリオはびっくりしたが、ひとまず納得し本題に入った。

 「現在、反乱軍は決起した村々を中心に防衛線を敷いています。ムンズ伯のいるサグマまでには、ユンズ、トンケル、バンバロの3カ所を落とし、その先のパンツェッタを攻めないといけません。先ずは先に上げた3カ所を攻めるのですが、」

 少し言葉を濁すエリオに代わってマルクが言った。

 「戦力的にも難しいと言うことだな?」

 その言葉にエリオは頷く。

 「現在、敵の攻撃をしのぐのに精一杯です。兵自体は1000はおりますが、それぞれの村に分散してますから。」

 反乱軍の現在最大の悩みは、戦力の分散であった。村々の協力で成り立っている反乱軍。やはり誰もが自分の村を守りたい。その結果、兵がそれぞれの村に待機する形と成ってしまっていた。

 「結局、ここにいる奴らだけで、一番近いユンズを落とすしかないか。トンケルは、司令官が農民出身でな。あそこに常駐する伯爵の私兵さえ何とかできれば降伏する手はずになっている。バンバロに関しては、この2つが堕ちれば周りの村も出兵してこよう。」

 「そうですな。ではマルス、明日軍議でユンズ攻略を話し合いましょう。」

 この時2人はまだある人物のある行動を予測することが出来なかった。


 翌朝、マルクはエリオからの急の知らせに起こされた。

 「マッ、マルス!エリさんが失踪した。」

 マルクがエリの部屋に向かうと、主だった者は既に集まっていた。ケンがいきなりつかみかかってくる。

 「お前、エリになにをした!?」

 未だ状況がよく読めないマルクはされるがままになった。

 「なんでエリが昨日会ったばっかりのお前に置き手紙を残して居なくなるんだよ!ええ?どうなんだよ、マルカロス!!」

 ケンから突きつけられたら手紙を受け取ったマルクは手紙の封を開けた。


拝啓

 昨日会ったばかりのあなた様にこのようなお願いをするのは、大変心苦しいのですが、もはやムンズの民を救えるのはあなた様だけだと思い、お願い申し上げます。

 私はムンズ伯の元へ参ります。ユンズの砦に行けば、それで万事終わりです。私のせいで始まったこの戦争です。私が伯爵の元へ参れば、いくら伯爵と言えども怒りをおさめていただけるでしょう。本来であれば、夫と息子が死んだときに共に失うべき命。もとより、ないものと思っております。

 兄は少し熱血過ぎる所があります。理知的で、冷静沈着なあなた様には是非とも兄の抑えになっていただきたいのです。

 それでは、もう二度とお会いすることは無いでしょうが、お達者でお過ごしください。最期にあなた様とお話できて嬉しゅうございました。

       敬具

マルカロス・サンダリノ様

       エリ・ブラウン

追伸:マルス様の理知的で計算高いところは大変素晴らしい力だと存じますが、人間は道具ではございません。人を動かすのは心です。今のままのあなた様では将来、そのことで大きな壁にぶつかるでしょう。結果など考えず、自分の思いに従う、相手の事を思い、我を忘れて突き進むことも必要になるでしょう。人とはそういう者について行くものです。


 ブチッ!

 何かがキレる音がした。

 「はははは、あの女、誰が理知的で計算高いだって?よくもまあ、ここまで仕込んでおいてもっと感情的になれだぁ?てめぇの方がよっぽど計算高いじゃねえか。こいつは一度説教しなければいけねぇなぁ。」

 ブツブツと呟くマルクに周りは呆然とする。

 「マルス、手紙にはなんて書いてあった。エリは無事何だろうな?」

 ケンがマルクの肩をつかみかかる。

 「うるさい。はなせ!」

 マルクは無表情に、抑揚無く言った。そして、手紙をエリオに渡すと出口に向かいながら言った。

 「エリオ、ちょっと出かけてくる。」

 そう言うと周りが呆然としているなか、マルクは風魔法を使ってマルクは彼方に飛んでいった。

 「え?あっ、ちょっ、だめだ!マルス!戻れ!」

 しかし、既に飛んでいったマルクにその声は届かなかった。


 その日、ユンズの砦で警備に当たっていた兵は突然のことに夢を見ているようだった、と後に語っている。

 最初に異変が起きたのは前日の事であった。砦の近くに偵察兵がいると言うことで一個小隊10名が現地に向かった。その時も警備をしていた彼は、偵察兵と小隊とが戦闘状態に入ったことが解った。時を置かず、戦闘が終わったようだった。10対2である。これも仕方がないと思ったところに異変が起こった。突然風が舞い上がったと思うと男たちの断末魔が聞こえた。彼は急いで上官に報告。捜索隊3個小隊が現場に駆けつけると、敵の偵察兵の姿は既に無く、切り刻まれた肉片のみが辺りに転がっていたという。敵に思わぬ高位魔法士が出現したことにより、厳戒態勢が布かれた。

 第二の異変は、今日の夜明け前であった。今回の反乱の直接の原因となったエリ・ブラウンが突如、出頭してきた。彼はその時間非番であり、部屋で寝ていて直接顔を見ていないが、話によると、とても美しい女性だったそうだ。明朝にはムンズ伯のいるサグマまで護送されるそうだ。

 そして、第3の異変が起きた。


 ユンズの指揮官、デリケウスは醜い男であった。帝国出身で傭兵上がりの彼の顔は半分潰れていた。20年前の半虎戦争の折、負傷したものだ。その後あちこちを転々としたが10年前にムンズ伯に仕官した。時に人を騙し、時に陥れ自分の出世の糧とした彼は、何においても己が欲に忠実である。しかし、それだけが彼の本質ではない。高度な危機意識もまた彼の武器である。そうでなくては、彼のやり方で永くは生きていけない。

 彼に報告が着たのは目覚めた直後であった。反乱の原因となった女が出頭してきた。すぐにその女を見ると、なるほど美人である。ムンズ伯が求めていなかったら自分の物にしたいとさえ思った。

 「女、名はなんという?」

 デリケウスは、いやらしく女の体を見て言った。

 「エリ・ブラウンと申します。」

 従順に答えるエリにつまらなく思った。しかし、少し虐めてみたいと思った。

 「なぜ、出頭してきた?」

 「我が身を差し出すことで、村の税の支払いの猶予をいただきたく存じます。」

 デリケウスは嘲るように笑った。

 「はっ、ずいぶんと淫乱な女だな。自分から抱いてほしいってくるなんてな。ムンズ伯も大層おモテになられる。旦那が殺されて男が恋しくなったか?ん?そういえば、反乱軍にはいい男はいないのか?それともハメまくって反乱軍の男には飽きちまったりしてな!淫乱な女にはお似合いだ。ははは!」

 デリケウスのあまりの恥辱にエリは赤面する。

 「そっ、そんなことな…」

 「そんなことないってか?嘘言うな。ちなみにサグマまで行かなくてもここにもいい男はいっぱいいるぜ。手始めに俺がここでヤってやろうか?」

 デリケウスがいやらしくにやつきながら近寄ってくる。従順な様子のエリは氷のような表情を見せた。 一瞬デリケウスはたじろぐ。

 「近寄るな、醜い帝国の犬め。私らを苦しめているのはお前等であろう。私はこの身は捧げると言ったが、それ以上なにもくれてやるつもりはない。夫が死んだことで、心も何もかも失ったからな。人形を抱くのが好きならいくらでも抱くがいい。」

 いきなり牙を剥かれたデリケウスはカッとなった。

 「けっ、そんなに抱いて欲しけりゃ今すぐ抱いてやるよ!!」

 デリケウスがエリにつかみかかろうとしたとき、爆音が鳴り響いた。


 砦の門が吹っ飛んだのは一瞬であった。この世界の砦や城は対魔付与が施されている。間違っても門が一瞬で吹っ飛んだりしない。

 門からは、ひとりの男が入ってきた。全くの無表情で立ち向かった兵たちは一瞬で震え上がる。

 「てっ、敵は一人だ。ビビらずやっちま…」

 ハッとしたように誰かが叫んだがその声が最後まで発せられることはなかった。

 「ウォーター・カッター!」

 侵入者は叫んだ男の首を水の鎌で一瞬のうちに飛ばした。兵たちが呆然としている間を侵入者は悠然と歩いていく。

 侵入者が通り過ぎた後、慌てて後を追おうとした兵たちは侵入者のつぶやきを聞くことが出来なかった。

 「ストーム・ブレイカー。」

 彼らの周りを風が吹いた。風はすぐさま強靭な刃物となり、そこにあるものをすべて切り刻む。残ったのは、雨のように降りそそぐ鮮血と、原型を留めない肉片だけだった。

 侵入者は悠然と作戦本部のある建物に向かっていった。


 デリケウスは、なにがなんだか解らなかった。爆音により冷静さを取り戻した彼は、エリを突き飛ばし窓へ向かった。そこで彼の見たものは現実として理解できないようだった。

 まず、門が木っ端微塵になっていた。魔法部隊一個中隊でも用意しなくては短時間で破れない代物のはずである。何より、敵にはそれだけの魔法兵はいないはず。しかし、現実に門は破られている。それもたった1人の男によって。

 「デリケウス様。敵襲でございます。」

 今更になって伝令兵が報告にくる。

 「遅い!そんなこと見れば解るだろう。それより詳しい報告をしろ。」

 デリケウスは苛立って叫ぶ。

 兵の報告によると、先ほどものすごいスピードで男が飛んできたこと、制止する間もなく門を吹き飛ばしたこと、その後作戦本部に向かって歩き始めたこと、捕らえようとした兵が惨殺されたことを知らされた。

 「現在、兵の損害は約70!!また、門を始めとして多くの建物が壊滅状態に陥ってます。」

 この報告中にもどんどん被害は広がっているだろう。デリケウスは苛立って立ち上がる。

 「一体、男ひとりに何をやってい…」

どごーん。

 デリケウスが声を荒げた時、とてつもない振動が建物を襲った。皆が一度に硬直する。今、部屋にいるのはデリケウスとエリ、伝令兵の他に兵士が10人いた。

 「おっ、おい、お前。少し下の様子を見て来い。」

 デリケウスは震えながら近くの兵に言う。しかし、言われた兵は恐怖のあまり気を失ってしまう。

 先ほどの振動から何も音をしなくなった。その場にいる全員が、死刑執行を待つ罪人のような思いである。ただひとりを除いて。

 そして、運命の扉が開かれた。現れたのはまだ年若い青年。しかしその顔は怒りに満ち溢れている。兵のひとりが恐怖のあまり奇声を上げて突っ込んできた。しかし青年は軽く剣を振るうと兵の首は胴から離れた。そのまま、残りの兵に向かい2閃3閃していく。瞬く間にデリケウス以外の兵が屍となった。

 「きっ貴様、何者だ。」

 震える声で、それでもデリケウスは叫んだ。青年は少し思案すると、フッと顔を和らげ言った。

 「私は、サンダール王国第一王子にしてハンムリル軍特務中佐、マルク・アレ・サンダール。この度、王命により悪政を布くムンズ伯、吉成・ケインズを討伐しにやってきた者である。」

 デリケウスは、驚きの声を上げようとした。しかし、マルクの振るった剣がそれよりも早くデリケウスの首を飛ばした。

 部屋には、マルクとエリが残された。エリが震えながらマルクを見上げる。

 「マルス様は、サンダールの王子様?」

 衝撃の事実にエリは理解が追いついていないようだった。

 「しかし、2年前にお会いした時も、マルス様と名乗っておられたような。」


 実は、マルクとエリは面識があった。2年前、マルクは例によって大教院をサボって市に来ていた。ふと市の隅を覗くと街の荒くれ共が群がっていた。5歳くらいの男の子が荒くれ共に虐められていた。マルクは一瞬でその中に入ると荒くれ共をすべて叩き伏せた。そして、男の子を助け出し、一緒に両親を探してあげた。当時、エリ一家は村の特産品を売ろうと市に来ていた。

 やがて、両親を見つけた男の子はその元へと駆けていった。エリ夫妻は物を売るどころではなく、辺り一帯を必死に探していた。マルクがエリ夫妻から感謝をされたのは言うまでもない。その時、マルクは家族愛に満ちたこの一家を少しだけ羨ましく思った。マルクはこの一家にマルスと名乗った。男の子はマルクがいかに強いかということを身振り手振りで両親に伝えていたのだった。なお、この時エリ達から買ったコースターは、芙雪にプレゼントし今でも彼女の部屋に飾ってある。


 「しかし、息子の言った通りあなた様はお強いですね。」

 マルクが過去を回想していると、驚きから立ち直ったエリが嬉しそうに言った。しかし、マルクはまだ怒りが冷めない。

 「人のことを、冷酷だの、計算高いだの言っておいて。俺がここに助けに来ることを解ってて出頭したんだろ。どっちが計算高いんだ!」

 マルクの怒りにエリは、

 「正直、お助けくださるかは半々でしたわ。それも単身で乗り込んでくるなど誰が予測できましょう?でも、マルス様があの時のマルス様なら必ず来てくださると思いました。」

 そう言うと、エリは一歩下がり深々と頭を下げた。

 「これで、心置きなく夫と息子の所に行けます。兄たちはまだまだ心配なところが多くありますが、あなた様がいれば大丈夫でしょう。どうぞ、兄たちとこのムンズをよろしくお願いいたします、マルク殿下。」

 エリは顔をあげると、胸元から匕首を取り出し、自分の喉に近づけた。まさに喉に突き刺さる直前、匕首が吹っ飛んだ。

 「ふざけるな!!さんざん人に迷惑かけ、自分はさっさと死ぬとはなんだ!いいか、お前が捨てた命を俺が拾ったんだ。つまり、もうお前は俺のものだ!勝手に死ぬなど許さん。」

 マルクは怒りに任せてそう言った。そしてエリの方を見ると、何故か彼女は頬を赤らめていた。マルクは意味が分からなかった。しかし、自分の発言を振り返った彼は途端に慌てだした。

 「おっ、俺のものって別に深い意味じゃなくてだな。えっええと。あ!そっそうだ。俺は王子だからな。うん。だから、身の回りのことができない。だから、それをしてくれる奴隷、じゃなくてメイド?なんか違うな…。侍女?そうだ!侍女が必要なんだ。お前はこれから俺の侍女だ。うん、そうしよう。」

 あまりの慌て具合にエリが笑いを堪えている。そして、顔を引き締めその場にひざまずいた。

 「かしこまりました。エリ・ブラウン、ただいまより、マルク・アレ・サンダール殿下の奴隷であり、メイドであり、侍女として生涯身も心も捧げます。いかようにもお使い下さいませ。ご主人様。」

 「いっ、いや。そういうことではなくてだな。ああ、なんといったらいいのやら…。」

 なんとなく、烈火のごとき怒り狂う芙雪が脳内に浮かび、頭を抱えるマルクであった。


 指揮官を失ったユンズ砦は意外と簡単に収集が早くついた。ムンズ伯直属の傭兵たちは、自分たちの不利を知るや否や我先にと撤退していった。残された常駐兵たちはあっさりと降伏した。元々、ムンズ伯のやり方に不満を持っていた者達だ。全員がマルクに忠誠を誓った。実にユンズ砦制圧にかかった時間は、僅か2時間であった。昼過ぎ、マルクを追ってユンズにきたケンやエリオたち反乱軍はその光景に、ただただ言葉を失った。


 以上が後に“ユンズの悪夢”と呼ばれるものの顛末である。


登場人物紹介を作りました。まだ少ししかできていませんが、暇を見て加筆していきます。

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