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【書籍化決定】捨てたものに用なんかないでしょう?  作者: 風見ゆうみ


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8  助けを求めたいと思います

 リミアリアが新居に着いた日は、彼女の予想していなかったことばかり起きていたが、二日目もそうだった。

 アドルファスが来たこともそうだが、メイドたちが来るまではひとりで過ごすと思っていた新居に多くの人が集まっているからだ。

 そうなった理由は、リミアリアの友人で、毒草クラブのメンバーのひとりだった、伯爵令嬢のメイ・ピスカが使用人を引き連れてやってきたからである。

 朝から突然訪ねてきたメイは「お会いできて嬉しいです」と喜ぶリミアリアに笑顔でこう言った。


「今日はわたくし、こちらの家に泊まらせてもらいますわね」

「はい?」


 リミアリアがきょとんとしている間に、メイは背後に控えていた使用人たちに指示をする。


「屋敷の中が埃っぽいわ! 部屋の掃除をお願いね!」

「承知いたしました!」


 廃墟になりかけていた屋敷だったため、破格の値段で買うことができたが、その分、人が住むには不衛生な環境だった。自分が寝泊まりする部屋は自分で簡単に整えておいたものの、それ以外は埃だらけで生活するには厳しい。

 メイドたちと合流した後に、少しずつ改善していくつもりのリミアリアだったが、メイが連れてきてくれた使用人たちのおかげで、邸内は見違えるほど綺麗になっていった。

 掃除の邪魔だと言われてしまったリミアリアたちは、掃除が終わった談話室で話をすることにした。


「お久しぶりね」


 黒のドレスに身を包んだメイは、ソファの背もたれに背中を深く預けて微笑んだ。

 ストレートの金色の髪をハーフツインにしたメイは、吊り上がり気味の目のせいか、第一印象は気の強そうな美人だ。胸が一般的よりも大きいことがコンプレックスで、胸元の開いていないドレスを着ていることが多く、今日も首元まで隠れるような黒いドレスを着ている。


「大変ご無沙汰しておりました。メイ様にお会いできて嬉しいです。あの、お元気にされていましたか?」

「元気にはしていたわ。それから、あなたに会えて私も嬉しい」


 二人は微笑みあった後、お互いの近況を簡単に話した。話が途切れた時、メイドたちが忙しなく動いている音が耳に届き、リミアリアは頭を下げた。


「邸の掃除をしていただき、本当にありがとうございます。メイ様や使用人の皆さんには感謝しかありません」

「私が勝手にやったことですもの。私に礼を言う必要はありませんわ。逆にあなたは怒ってもいいのですよ」

「いいえ。強引にしないと、私が遠慮すると思ってくれたのでしょう? お気遣いいただき、本当に感謝しています」


 リミアリアが一度上げた頭を再度下げると、メイは眉尻を下げた。


「頭を上げてちょうだい。それに、わたくしはあなたに感謝される立場ではないわ」

「どうしてそんなことをおっしゃるのですか?」


 リミアリアは頭を上げて、不思議そうにメイを見つめた。


「だって、そうでしょう。わたくし、あなたのお友達のはずなのに、あなたが苦しんでいることに気づけなかった。もっと早くに気づいていれば、結婚をやめさせるように、アドルファス様たちにお願いしていたわ。本当にごめんなさい」

「そんな! 気になさらないでください。相談しなかった私が悪いんです」


 リミアリアの素性については、彼女が入部した時に、王家が手配した調査員によって調べられていた。その結果、問題ないと判断されたわけだが、それは外面上であり、内部の事情までは調べていなかったのだ。

 肩を落としたリミアリアを見て、メイが興奮した様子で話し始めた。


「そうですわ! 相談してくれていれば、わたくしやアドルファス様、それにカビル様は全力であなたを助けましたのに!」

「も、申し訳ございません」

「謝罪はもういいですわ! これからのあなたの行動に期待いたしますから、がっかりさせないでくださいませね!」

「もちろんです。これからは自分ひとりで解決できない場合は、助けを求めたいと思います」

「本当かしら」


 目を細めて疑うような表情のメイに、リミアリアは苦笑しながら大きくうなずく。


「本当です。それに、今回の件はちゃんとアドルファス様に頼りましたよ。アドルファス様が学園を中退して戦地で指揮を()ると聞いた時は驚きましたが、そのおかげでエマオ様のことで色々と相談することができて、現在に至りますから」

「……あなた、アドルファス様が戦地に行った本当の理由を知らないんですの?」

「本当の理由? あの、王命ではないのですか?」


 リミアリアが聞き返した時、イランデス邸で働いていたメイドがやってきたと、メイが連れてきていた使用人から報告があった。

 話を中断してメイドに会いに行くと、エマオがリミアリアを必死になって探していることを教えてくれた。

 アドルファスが手紙を送れば、エマオが何らかのアクションを起こすことは予想していた。だが、エマオの反応は、リミアリアには予想外だった。


(まさか、私を探すとは思わなかったわ。捨てたものに用はないとか言っていたのに、言った次の日から、私に用があるなんて恥ずかしいと思わないのかしら)


 リミアリアは呆れたが、エマオは一般的な人ではなかったことを思い出した。

 そんなことを考えていたリミアリアに、メイが尋ねる。


「どうするつもりですの?」

「近隣の住民には、昨日のうちに事情を話しているので、私の居場所はエマオ様にすぐに知られてしまうでしょう。下手な悪あがきはせず、見つかった時は、自分からエマオ様の所に行くことはないと伝えようと思います」


 リミアリアには、執事やメイド長には自分の居場所を伝えているが、ふたりは口を閉ざすだろうという確信があった。だが、近所の領民には口止めしていないため、すぐにバレてしまうだろうと思っていた。

 どううまく逃げ切るか考えたリミアリアだったが、それは杞憂(きゆう)に終わる。

 領民は暴君とまではいかなくとも、ワガママで何でも力や金で解決しようとするエマオに、内心うんざりしていたのだ。

 リミアリアが離婚して、ここに逃げてきたのも暴力をふるう元夫に追われている、可哀想な元妻と考えたからだ。

 エマオに非があると察した領民たちは、彼女の居場所を教える気にはならなかった。

 リミアリアの家にもエマオに雇われた人物が確認しにやって来たが、メイやピスカ伯爵家の使用人たちがいたおかげで、ピスカ伯爵家の別荘だと思い込んで帰っていった。

 ここまでうまくいったのは、エマオの素行もあるが、結婚して一年間、リミアリアが領民のために頑張ったことや、良い友人がいたからだった。


(お母様が毒殺され、私にも命の危険があったから、自分の身を守るために毒草について学ぶことに決めたけど、それをきっかけに素敵な人たちに知り合えて本当に良かった)


 その日の夜、リミアリアは多くのことに感謝しながら眠りについた。



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