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【書籍化決定】捨てたものに用なんかないでしょう?  作者: 風見ゆうみ


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31  この意味はわかりますわね?

 リミアリアはフラワがここまで馬鹿正直に話すとは思っていなかっただけに、驚くと同時に、フラワに対する嫌悪感が増した。


(政略結婚なんだから、お母様だって実父と好きで結婚したわけじゃない。それに、実父と継母が結婚できなかったのもお母様のせいじゃない)


「リミアリア、聞いて。今の話は違うのよ」


 ナンサンが部屋を出ていったため、フラワが言い訳する相手は、リミアリアに変わった。手を取ろうとするフラワから、一歩引いて尋ねる。


「何が違うと言うんですか?」

「あなたのお母様のことよ。話を聞いていたんでしょう?」

「ですから、何が違うのです?」

「ほら、お父様とお母様の話よ。あれは、その、夢で見たことを現実のように言ってしまったの」


 リミアリアは、引きつった笑みを浮かべているフラワを冷たい目で見つめる。


「フラワ様、あなたはそんな言い訳が本気で通用すると思っているのですか?」

「言い訳じゃないわ! 本当の話をしているのよ!」

「リミアリア! 騙されるなよ! そいつは自分の身を守るためなら、どんな嘘でもつくぞ!」


 何とかリミアリアに媚を売りたいエマオが会話に割って入ってきた。


「うるさいわね! あなたは黙っていてちょうだい!」

「うるさいのはお前だろう!」


 言い合いを始めたふたりにいら立ちを覚えたリミアリアは、大きく深呼吸した。


(怒りの感情に飲まれちゃ駄目よ)


 冷静になり、ふたりを止めようとすると、アドルファスがリミアリアの隣に立って口を開く。


「黙れ」

「「アドルファス様!?」」


 アドルファスが姿を現した途端に、エマオとフラワは喧嘩をやめて、彼に顔を向けた。


「フラワ嬢」


 アドルファスに名を呼ばれ、フラワは満面の笑みを浮かべて返事をした。


「何でしょうか!」

「リミアリアの母について君が話をしていたのは、俺も聞かせてもらった。犯人が捕まっていない事件だ。この件を調べている騎士もまだいる。君がしていた話は担当の騎士に話しておく」

「え? は?」


 アドルファスが助けてくれるのだと期待していたフラワは、一瞬にして笑みを消した。


「フラワ様、貴重な証言をしていただき、本当にありがとうございます。あなたが話していたことの裏付けがとれましたら、すぐにでも、シウナ子爵夫妻を捕まえることができます」


 リミアリアは深々と頭を下げたあと、憐れむような表情でフラワを見つめる。その目に恐怖を覚えたフラワは、涙目になって叫んだ。


「何よ、その目は! 言いたいことがあるんなら言いなさいよ! 言っておくけど、お母様だって馬鹿じゃない! 今さら調べなおしたって、証拠なんかでてこないわよ!」

「そうでしょうか」

「そうよ。だから今まで捕まっていないんじゃない!」


 はあはあと肩で息をしながら、フラワはリミアリアを睨みつけた。そんな彼女と視線を合わせ、リミアリアは余裕の笑みを浮かべる。


「口は災いの元とよく言ったものですわね」

「……え?」

「夢の話だとおっしゃっていましたのに、現実だと認めるような発言をしていたことに気づいておられないのですか?」

「……っ! それはっ!」


 リミアリアに指摘され、フラワは顔を真っ赤にすると同時に、自分がリミアリアに踊らされたことに気がついた。


「信じられない! あなたは人として終わってるわ!」


 言い逃れなどもうできない。

 そう考えたフラワは、自棄(やけ)になって叫んだ。


「……そうですね。母が亡くなり、実父や継母、あなたに虐げられ始めた時から、私は幸せになることを諦めました。ですから、終わっていたことは間違いありません」


 リミアリアは過去の辛かった出来事を思い出し、目を閉じた。

 フラワたちはシウナ子爵邸にやって来るなり、死んだ人間の物が置いてあるのは縁起が悪いと言い、母の形見を全て燃やしてしまった。

 ひとつだけでいいから形見として残したい。

 そう懇願しても聞き入れてもらえなかった。

 酔っ払ったふたりが母の殺害について口を滑らせてからは、酷い扱いを受けても、いつか母の復讐をするのだと我慢して生きてきた。


(私の心は死んでいた時期があった)


「リミアリア」


 名を呼ぶ声と共に、リミアリアの右手が優しく握られた。ゆっくりと目を開けると、アドルファスが眉尻を下げて彼女を見つめていた。


「大丈夫か?」

「……大丈夫です」


(そうだわ。アドルファス様たちと過ごした時間は、私らしく生きていた)


 手を握り返してうなずくと、アドルファスは安堵の表情を浮かべた。そんな彼を見て平静を取り戻したリミアリアは、フラワに告げる。


「フラワ様、たとえ、証拠が見つからなかったとしても、シウナ子爵家は終わります」

「ど、どういうこと? 証拠がないのに捕まえるなんて不当じゃないの!」

「捕まることはないでしょう。ただ、あなたの証言は社交界で噂されることになります。この意味はわかりますわね?」

「そ、それはっ」


 さすがのフラワも、リミアリアが言おうとしていることに気がついた。フラワの顔がみるみるうちに青くなっていく。

 社交界で悪い噂が流れれば、同時に信用も失うことになる。付き合いを控える貴族が増えていき、いつしか孤立する。

 噂は領民にも流れ、領主が人殺しかもしれないという不信感は積もっていき、その不信感は領主だけでなく領主と関わっている人物にも向けられることになるだろう。

 そして、そのことを重く見た国王がどんな判断をするのかなど、少し考えればわかることだった。

 呆然としているフラワに、リミアリアは静かに声をかける。


「あなたは愛人の子と言われることが嫌だったようですね」

「……だ、だって、違うものっ。大体、そんな言い方を人にするもんじゃないでしょう!」

「私は正妻の子だろうが、愛人の子と言われようがどちらでもかまいませんので、あなたに正妻の子という立場をお譲りいたします」

「……え?」

「だってそうでしょう? 私は妻殺しの容疑がかかっている父親なんていりませんので」


 リミアリアはそう答えてにこりと微笑んだ。

 フラワはこの時になってやっと、リミアリアがシウナ子爵家を没落させようとしていることに気がついた。


「嫌よ、そんなのっ」


 フラワは自分の口の軽さを呪いながら崩れ落ちるように椅子に座ると、頭を抱えて泣き始めた。


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