21 話があるのですよね?
アドルファスと共に謁見の間で待っていると、国王と王妃、そして、アドルファスの兄である王太子が現れた。国王との謁見としか聞いていなかったリミアリアは驚いたが、まずはカーテシーをした。
許可が出て顔を上げると、王太子と目が合った。王太子は「久しぶりだね」と柔らかな笑みを浮かべて、リミアリアに手を振る。
アドルファスは二卵性双生児で、外見は兄とはあまり似ていない。
兄は父親似、アドルファスは母親似だとはっきりわかるくらいに、それぞれ顔立ちが似ている。
「楽にしろ」
表情が硬くなったリミアリアに国王はそう言うと、早速、本題に入った。
「イランデス伯爵の件では大変だったな」
「お恥ずかしい話でございます」
貴族の離婚はそう珍しいことではないが、世間体は良くない。リミアリアが頭を下げると、玉座の斜め後ろにある席に座る王妃と、その横に座る王太子が微笑む。
「離婚は悪いことではないし、気にしなくていいわよ。それに、リミアリアには悪いけれど、私たちにとっては結果的に良いことになったわ」
「そうだよ。一応、僕は兄だからね。アドルファスの未来について心配していたんだ」
(結果的に良いこと? それに、どうしてアドルファス様の名前が出てくるの?)
困惑しているリミアリアに、国王は苦笑する。
「アドルファスから何も話は聞いていないのか?」
「アドルファス様からですか? 子爵の爵位を授けていただけるという話はお聞きしましたが、それ以外のこと、でしょうか」
「そうだ」
「でしたら、聞いてはいないかと」
特に思い浮かばず、リミアリアは隣に立っているアドルファスに視線を向けた。彼はリミアリアから視線を逸らして答える。
「言い出せなくてここまできた」
「どんなお話なのでしょうか」
「それは、父上たちが話してくれる」
(どういうこと? そんなに言いにくいことなのかしら)
不思議そうな顔をしているリミアリアを見て、王太子はため息を吐いてアドルファスに話しかけた。
「アドルファス、君、戦場での大胆さをどうして恋愛面で出せないんだよ」
「うるさいな。それとこれとは別。俺は兄貴のようにうまくいかないんだよ」
「僕たち双子だよ? やろうと思えば君にだってできるよ」
「性格が違うから無理なんだよ! 大体、それを言うなら兄貴は戦場に出て、俺の代わりに戦えるのかよ⁉」
「え? あ、それは無理。適材適所ってやつだよね」
「だろう⁉」
軽い兄弟喧嘩を始めたふたりを温かく見守っていると、リミアリアの視線に気がついたアドルファスは不貞腐れたような顔になった。
「楽しそうだな」
「はい。おふたりの仲が良くて素敵だなと思っておりました」
「リミアリアは僕たちの関係をよくわかってくれているから助かるよ。何か知らない間に、僕たちの仲が悪いって噂が立っていた時期もあったくらいだからね」
「過去のおふたりも先程のように楽しそうにお話しされていましたし、私は仲が悪いとは感じていなかったのですが」
「俺が精神的に子供だった頃の話だろ」
「そういうことですか」
「リミアリアと会ってから、アドルファスは見違えるほど明るくなったし、お兄さんは本当に嬉しいよ」
「うるさいな」
泣き真似をする兄を軽く睨んだあと、アドルファスはリミアリアに話しかける。
「兄貴のことは気にしなくていい」
「そういうわけにもいきませんが、その、私に何か話があるのですよね?」
リミアリアが話を戻すと、アドルファスは照れくさそうに視線を逸らした。
(隠し事をしている時ってこういう態度なのよね)
ただ、何を言えずにいるのか、リミアリアにはさっぱりわからずに首を傾げる。すると、今度は国王が大きなため息を吐いた。
「アドルファス、今回は私から言うが、改めて自分の口から話をしなさい。情けないにも程があるぞ」
「わかっています。ただ、口にしてしまうと関係が壊れそうな気がして嫌なんです」
「気持ちがわからないわけでもないがな」
国王はうなずくと、アドルファスからリミアリアに視線を移して言った。
「お前をアドルファスの婚約者にしようという話が持ち上がっている」
「ええっ⁉」
国王に対して聞き返す際の言葉としてはふさわしくない。そんなことはリミアリアもわかっているが、つい大きな声で聞き返してしまった。
(わ、私がアドルファス様の婚約者に⁉ 話が持ち上がっているというのは、家族で? それとも貴族をまじえての正式な会議でということ? ああ、それで私を子爵にするという話が出たってこと⁉)
一瞬、パニックになったリミアリアだったが、何とか平静を取り戻して国王に尋ねる。
「ありがたいお話ではありますが、現在の私は平民です。王族であるアドルファス様との婚約は許されるものではないと思います」
「だから、子爵の爵位をお前に授けようという話が出た。イランデス伯爵の領内を調べた結果、伯爵よりもお前に対する信頼が厚いとわかった。お前に領主になってほしいという領民の希望もあり、お前に子爵の爵位を授け、イランデス伯爵領の一部を任せたいと思っている」
「そ、そんな……」
(ありがたいお話だけれど、素直に受け入れていいのかしら。女性が爵位をもらうなんてなかなかないことだし、本当に光栄なことだわ。いや、でも、アドルファス様の婚約者にするために子爵の爵位を授けてもらうのは、何か違うというか……)
「すぐには決められないだろう。一晩考えて答えを出してもらえないか。別に断ってもかまわない。それから、アドルファスとの婚約と子爵の爵位を授ける件は別に考えていい」
「それはどういうことでしょうか」
「アドルファスとの婚約を断ったとしても、あなたに子爵の爵位は授けると言っているのよ」
王妃はにこりと微笑んで続ける。
「リミアリア、このあと、用事がないのなら私に付き合ってくれない?」
「承知いたしました」
リミアリアが王妃に首肯し、国王には「明日にはお返事させていただきます」と答えると、国王は王太子とアドルファスを伴って謁見の間から去っていった。
「私の部屋に移動しましょうか」
「光栄です!」
緊張のせいで、リミアリアが裏声で返事をすると、王妃はふふふと声を上げて笑った。




