14 ありがたいわね
アドルファスたちとエマオが話をしている頃、リミアリアは解毒薬作りに励んでいた。
エマオがアドルファスたちに危害を加えるのではないかと心配だったが、自分が一緒に行っても足手まといになるだけだ。
アドルファスの実力は話で聞いているし、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
気を紛らわせるために、エマオに関する報告書を読ませてもらったが酷いものだった。殺人罪や性犯罪など、目を覆いたくなるような内容だ。
書かれていたことが事実なら、エマオは遅かれ早かれ捕まって、処刑されることになる。
(エマオ様のことだもの。アドルファス様と私が友人関係だとわかれば、減刑を頼んでくるでしょう)
エマオの件で自分に出番があるのだとすれば、彼が命乞いをする時だけだと思っていた。
解毒薬を売る以上、いつまでも、身を隠していることはできない。周りが協力してくれるとはいえ限界がある。
とりあえず、他の人に迷惑がかからないよう、エマオには自分を探すことはやめてほしいと手紙を送っておいた。
今日はお客様がやって来る予定のため、それまでは作業場で作業をしていた。邸内の客室用の部屋を作業場に変え、解毒薬作りに専念するようにしたのだ。
南側にあり日当たりは良いが、長方形の作業台と解毒薬に使うために乾燥させた薬草などが入った小さな引き出しがたくさんある棚、休憩用のソファなど、最低限のものしか置かれていない殺風景な部屋だ。
リミアリアの作るものは、体の不調を改善するものではない。体内に入った毒を無効化させるものである。
平民にはほとんど縁のないものだが、貴族の間では多々あることだった。
リミアリアの母親もそうだった。遅効性の毒で毒見役に反応が出た時には、母は毒の入ったスープを口にしていた。
犯人は誰だかわからないまま終わっているが、リミアリアには黒幕がわかっていた。
本妻の座がほしかった継母と、愛人を愛していた実父だ。
酒に酔ったふたりが、リミアリアの前で口を滑らせたことで真相を知った。次の日のふたりはすっかり記憶が飛んでおり、リミアリアは助かったが、安心はできなかった。
そのために、毒草について学び、解毒薬を作っておくことで、万が一の事態に備えることにしたのだ。
継母は平民だが、薬師という、薬を作り販売することができる資格を持っており、毒にも詳しかった。人を助けるための知識を、人の命を奪うことに応用するなんて人として信じられない行為である。
石で作られた大きなボウルに毒消しの草を入れてすりつぶしていると、執事が新聞を持ってやってきた。
「リミアリア様、市場に行って新聞を買ってきたのですが、これを見てください」
「ありがとう。何かおかしなことが載っていたの?」
作業の手を止め、白のエプロンを付けたまま、新聞を受け取った。
新聞社は国内に大手が三社ある。渡された新聞はそのうちの一つで、王都で起こった出来事を中心に書かれている、プリリッツ王国では一番需要があると言われている新聞だった。
執事に促されるまま新聞をめくっていくと、王都以外の領地で起こった出来事が書かれている紙面があった。
そこには、リミアリアの実家であるシウナ子爵家のことが書かれていた。
実父はリミアリアをシウナ子爵家から追放し、これからは何が起きても一切無関係であることを宣言していた。
「無関係と言ってくれたのはありがたいわね」
(だって、真実を暴いても私は無関係だということだもの)
夫や実家に捨てられたリミアリアだったが、彼女の表情には悲壮感はなく、母の敵を討つという強い意思に満ちていた。リミアリアの表情を見て、執事は柔らかな笑みを浮かべると、壁にかかっている時計に目を向けた。
その視線に気がついた執事も時計を見る。
「もうすぐ、お客様がやって来る時間ですね」
「ええ。いらしたら応接室にお通ししてね」
「承知いたしております」
恭しく一礼して執事が去っていくと、リミアリアは読みかけていた新聞を近くの棚の上に置き、解毒薬作りを再開した。




