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【書籍化決定】捨てたものに用なんかないでしょう?  作者: 風見ゆうみ


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プロローグ

 イランデス伯爵家のエントランスホールには、大勢の使用人とこの家の(あるじ)であるエマオの妻――リミアリアが、主人の帰りを待ちわびていた。

 エマオは元々、リミアリアの血の繋がらない姉、フラワの婚約者だった。

 一年前、フラワがイランデス伯爵家に嫁ぐことが決まったが、エマオは戦地に赴いていることが多く、屋敷に戻ってきても仕事に追われていたため、顔を合わせることは一度もなかった。女性好きで清潔感のない大男だという噂のエマオとの結婚を、フラワは嫌がった。


「イランデス伯爵との結婚をフラワは嫌がっている。先方はお前でもいいと言っているから、お前が嫁に行くんだ」


 父のシウナ子爵は、リミアリアに冷たく言った。

 そんな父を見て、母が生きている間は幸せだったとリミアリアは思い返す。


 リミアリアが七歳の頃、母が亡くなった。その十日後、出かけた父が母子を伴って屋敷に帰ってきた。

 父は隠れて愛人を囲っており、その愛人に子供がふたりいた。

 それが、姉のフラワと弟のラウだった。


 父は周囲の反対も聞かずに愛人と再婚し、跡継ぎ予定のラウと、その姉のフラワを可愛がり、リミアリアを邪険に扱うようになった。


 母によく似ていると言われるリミアリアは、スレンダー体型で紫色のストレートの髪に赤色の瞳を持つ美人タイプ。

 リミアリアより二つ年上のフラワは、緩やかなウェーブのかかった金色の長い髪に、青色の瞳を持つ、目の大きな可愛らしい女性で、小柄で童顔な分、妹のリミアリアよりも幼く見える顔立ちだ。


 父は、可愛らしい女性が好みだったため、余計にフラワを可愛がった。継母はリミアリアが自分の子供ではないという理由だけで目の敵にし、冷たい態度を取るだけでなく、気に入らないことがあると、愛用の扇でリミアリアの頭を叩いた。

 言い返せば叩かれる回数が増えるだけだとわかったリミアリアは、いつしか何も言わず、ただ、怒りが過ぎ去るまで耐えるようになった。そんな妻と子の様子を見た父は、便乗して、暴力をふるうようになった。

 しかも、服で隠れるような場所ばかり狙っただけでなく、人に言うなと脅すことによって虐待の事実が外に漏れないようにしていた。


 エマオとの結婚を拒否しても承諾するまで殴られるだけ。


 それなら、大人しく承諾するしかないと諦めたリミアリアは、十八歳になる直前の十七歳の時に、学園を中退してエマオのもとに嫁いだ。


 エマオは結婚初日だけ顔を見せたが、初夜を迎えることなく、すぐに戦地に戻り、今日まで戦地から帰ってくることはなかった。

 その間、リミアリアは彼の代わりに伯爵代理として働いた。


 エマオは力に頼るタイプで、書類仕事は得意ではなかった。帳簿の管理も杜撰(ずさん)で、間違いを指摘すると、逆ギレをするため、側近たちは、彼に気づかれないように修正していた。だから、彼が戦地に行っている間は、安息の時間でもあった。


 当たり前のことだが、リミアリアは間違ったことは間違いと認め、素直に謝った。

 そうしているうちに、エマオの側近や屋敷の使用人たちとの信頼関係も築くことができた。


(目的を達成するためには、()(けん)(てい)ではいい妻でいなければならない)


 リミアリアはそう自分に言い聞かせ、屋敷に足を踏み入れたエマオに話しかける。


「旦那様、お帰りをお待ちしておりました」


 紫色のドレスの裾を軽くつまみ、リミアリアは優雅にカーテシーをした。


「今まで済まなかったな」


 ねぎらいの言葉をかけたエマオの顎には不精髭(ぶしょうひげ)が生えており、ダークブラウンの短髪は寝ぐせをそのままにしているのかと思うくらいに乱れている。体型も貴族というより傭兵のようながっしりした体つきだ。不潔だという印象をあまり受けないのは、顔立ちが整っているからだろうか。


「いえ、エマオ様も今までお疲れ様でございました」

「まあな」


 エマオはリミアリアに低い声でそっけなく答えたあと、後ろを振り返った。すると、彼の背後から胸元が大きく開いた紫色のロングドレスに身を包んだ、小柄な女性が現れた。


(思った以上に早いお出ましね)


「久しぶりね、リミアリア」


 エマオの腕に頬を寄せ、親密さを(かも)し出しながら、リミアリアの姉、フラワはにこりと微笑んだ。


読んでいただき、ありがとうございます!


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