連れていかれたら、残りは処分でいいらしい
直人は、ゆっくりと肩の力を抜いた。
相手の刃が自分に向いていることも、背後の退路がほぼ塞がれていることも、全部理解した上で――あえて、軽く息を吐く。
「やっぱ、やめだ」
黒ずくめの男が眉をひそめる。
「何?」
「いや。こういう場面で、ちゃんと“話し合い”が成立した試しがなくてな」
直人は、手に握った牙を一度だけ持ち替えた。
刃物としては即席もいいところだが――
(起点は、こっちだ)
次の瞬間。
直人は、地面に転がっていた小石を、ほぼ反射で蹴り上げた。
狙いは顔でも急所でもない。視界だ。
同時に、体を低くして前に踏み込む。
「――っ!」
黒ずくめの一人が反応しかけた、その“半拍”が致命的だった。
直人の牙が、相手の手首をかすめる。
深くはない。だが、力が抜けるには十分だ。
落ちた刃を、直人は蹴り飛ばす。
「一人!」
怒号が飛ぶ。
だが直人は止まらない。
頭で考えるより先に、体が動く。
木の根を蹴り、相手の懐に潜り、肩でぶつかり、体勢を崩す。
転んだ相手の背中を踏みつけ、そのまま次の標的へ。
――常識的な動きじゃない。
だが、だからこそ対応が遅れる。
「ナオト、やめろ!」
背後で、ビスタの声がした。
振り返る暇はない。
だが、その声に含まれた焦りだけは、嫌というほど伝わってくる。
黒ずくめの一人が、距離を取った。
懐から取り出したのは……石?
直人は、嫌な予感を覚える。
その直後――
その石が、地面に叩きつけられた。
乾いた音。
次の瞬間、空気が歪んだ。
気づいた時には、ビスタと石を割った黒ずくめ姿はそこにはなかった。
「は?」
「回収対象、確保」
(回収された? 転移? どうやって?)
考えて考えて考えて――
直人の中で、何かが切り替わった。
「そうかよ」
牙を、握り直す。
「じゃあ――遠慮はいらねぇな」
そこから先は、速かった。
相手が一人減ったこと。
仲間を考えなくて良くなったこと。
直人は、木、石、地形、相手の焦り――使えるものをすべて使った。
息が切れる頃には、立っているのは直人だけだった。
だが――
生きている者はいなかった。
「……くそ」
膝に手をつき、荒い息を吐く。
「……何も、聞き出せなかったな」
直人は立ち上がり、無言で死体を漁る。
感情は後回しだ。
結果だけを見る。
革の内ポケット。
小さな金属札。
簡素な地図の切れ端。
文字はない。
わかるのは、近くに何があるかと方向ぐらいだ。
それで十分。
どこに行くべきかは直感でわかる。
「……借り、作ったままだな」
そう呟いてから、直人は森を抜けるために歩き出した。
火はない。
仲間もいない。
だが、目的地は定まった。
気に入っていただけたら幸いです。
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