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go to 異世界

朝凪直人は、欲張(よくば)りだ。


自分がうまくいくだけじゃ足りない。

一緒にやっている人間も、ちゃんと(むく)われてほしい。


だから手を出す。

口も出す。

結果的に、中心に立つ。


誰かが(あきら)めかけていると、拓斗は言う。


「まだ手はある」

「別のやり方なら、いける」


それは(はげ)ましでもあり、同時に、彼自身の()けず嫌いの発露(はつろ)でもあった。


途中で折れるのが、何より嫌いだった。


社会に出てからも、同じだった。


小さなチーム。

限られた人員。

無茶な目標。


普通なら、どこかを切る。

人数か、品質か、期限か。

拓斗は切らなかった。

切る代わりに、()()えた。

役割(やくわり)を変え、順序(じゅんじょ)を変え、視点(してん)を変える。


気づけば、

誰も想定(そうてい)していなかった形で、仕事は回っていた。


しかし、そんなやり方はある大型案件で、限界(げんかい)(たっ)した。


人手不足(ひとでぶそく)

納期短縮(のうきたんしゅく)

上層部(じょうそうぶ)無茶振(むちゃぶ)り。


誰もが「今回は無理だ」と思っていた。

拓斗だけが、違った。

「全員生かして、全部取る方法があるはずだ……」


徹夜(てつや)工程(こうてい)()()え、

部署(ぶしょ)横断(おうだん)して人を引っ張り、

誰が何をやるかを再定義(さいていぎ)する。


「……ほんと、欲張りだよな」

冗談めかして言われる。


拓斗は笑って返す。


「欲張らないと、全部取れないだろ」


仲間は、ついてきた。

怖かったが、信じた。


案件は成功した。

数字は、会社始まって以来の成果だった。


その日の帰り道、直人は少しだけ疲れていた。

残業続きで、頭が(にぶ)っている自覚(じかく)があった。


それでも、帰りのルートを変える気にはならなかった。

いつもの道、いつもの時間。

日常は()り返すからこそ、安定する。


駅へ向かう途中、工事用フェンスに人だかりができていた。

再開発予定地(さいかいはつよていち)

以前は空き地だった場所だ。

直人は足を止めなかった。


野次馬(やじうま)になる趣味はない。

ただ、その場所を横切った瞬間、

胸の奥に、説明できない違和感(いわかん)が走った。


「……は?」

言葉にならない疑問(ぎもん)が、喉の奥で引っかかった。

足元のアスファルトが、柔らかく沈んだ。

いや、沈んだのではない。

存在感(そんざいかん)が薄れていく。

重力(じゅうりょく)が、急に頼りなくなる。

風だけが逆向きに吹いた。

背中から、世界が()()がされていく感覚。

――落ちる。


そう思った直後、直人の視界は完全な暗闇に包まれた。


だが、真っ暗ではなかった。

そこには、無数の「何か」があった。

言葉にならない断片(だんぺん)

形にならなかった選択(せんたく)

採用(さいよう)されなかった可能性(かのうせい)

それらが、ざわめいている。


声ではないのに、意思(いし)だけが伝わってくる。


『――戻りたい』

『――選ばれなかった』

『――まだ終わっていない』


頭が割れそうになる。

「……うるさい……」


直人は耳を塞ごうとして、気づいた。

自分の体が、ない。

手も足も感覚が曖昧で、

それでも「自分」という意識だけが、確かにそこにあった。


次の瞬間、何かが――

正確には、**何かの“境界(きょうかい)”**が、直人に触れた。


冷たくもなく、熱くもない。

ただ、拒絶(きょぜつ)するような感触。


世界が言っているのが、分かった。

――お前は、ここにいない存在だ。


強烈(きょうれつ)圧力(あつりょく)が、意識を押し戻す。

(はじ)き出される。


暗闇が、破裂した。


直人は地面に叩きつけられ、肺の空気を一気に吐き出した。

「――がっ……!」


土の匂い。

湿った空気。


直人は荒い呼吸のまま、仰向けに転がり、呟いた。

「……異世界転移(いせかいてんい)って……」

喉が、からからに乾いていた。

「……もっと、親切なもんだと思ってたんだけどな……」


答える者はいない。

ただ、世界のどこかで――

何かが、確かに動き始めていた。

気に入っていただけたら幸いです。

頼れる皆さんへ→

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