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奴隷の呪いと  作者:


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99/104

99. 闇の中

 朝からスタークとカインを筆頭にラスタ王国の騎士団二十七人が、同盟国の中でも最も被害の大きい、エルドラの国に派遣される。

 魔法省にある空間移動装置は、各同盟国に設置してあり、お互いの国の同意がないと発動しない。国から国の空間移動はよっぽどの有事の時にしか使わない。


 ラスタ王国にはまだ意識の戻らないマリウスの代わりにキリアが団長を代行する。騎士七十名のうち、まだ半分以上は昨日の戦いのせいで傷を負い、復帰できない。

 治癒士やカインたちは、応急処置として、止血のために皮膚をふさいだり、折れている骨や砕けた骨をつなぎ合わせることはするが、完ぺきに細胞レベルで治すとなると、かなりの魔力が必要になる。

 軽症の騎士達を治癒し、魔力や体力を回復できた者たちを復帰させることを優先した。

 

 マリウスの意識はまだ戻らず、キリアとペドロがラスタ王国に残る。王都は翌朝から復興のために兵士や政府の役人が大忙しで動いていた。

 風魔法や土魔法で魔物の残骸である砂を処理し、損壊した民家や建物の修繕に取り掛かる。騎士団も動ける者は総出で手伝う。ジェイドもタウロスも即戦力となった。

 

 エルドラはラスタ王国の北に位置するため、気温が低く、雪で街は白く覆われていた。報告によると、巨大な魔物が四匹現れ、街は壊滅状態だった。

 ラスタ王国の騎士達が駆けつけた時には騎士も兵士も全滅に近く、スターク達が指揮をとり、四体の魔物を退治した。



 夜になり、騎士達は結界の張られた施設で休むことにした。明日、魔物の残党を退治したらラスタ王国に戻る予定だ。二日続けての巨大な魔物討伐にラスタの騎士達も疲弊している。


「スターク、これ食べて」

 一人、施設のバルコニーの手摺に腰掛け、破壊されたエルドラの都の街を眺めているスタークにカインが支給されたパンとスープを差し出した。他の騎士達は食堂で食事をとっている。

「…俺はいいよ」

 スタークはそう言って水筒の水を飲んだ。魔物退治している時は戦いに集中している分、身体を休めるとアリアのことで頭がいっぱいになる。

「ダメだって分かってるだろう?明日も戦いが続くんだ」

「…」

 スタークは黙って手摺から降りるとそれを受け取り、地べたに座った。カインも隣に座る。

「寒っ…風邪引いちゃうよ」

「ん、ああ、そうだな」

 寒さに今気付いたようにスタークはカインと二人が入れるゾーンを張り、空気を温めた。

「エルドラの被害はかなりひどいね」

「ああ、元々軍事力は弱かったからな」

「ラスタはラジール国王の政策で有事の時の備えは万全だったからね。避難所もちゃんと機能したし…」

「ヴィオラさんやキャロラインは大丈夫だった?」

「ああ。孤児院は避難所になったから、忙しかったみたいだけど。…そうだ」

 カインは思い出したようにスタークを見た。

「レオはマンダリの平民の子だよね?」

「ん、ああ、そうだけど、何かあった?」

「避難してる人達が喧嘩を始めたんだ。キャロラインが止めに入ろうとしたら、レオがそこにいた人達全員の心を魔法で諫めて癒したらしい」

「…ああ、精神魔法が使えるからね。…でも、精神魔法はそんなに大勢に一気に使うことは出来ないはずだけど…」

「だからかな…その後、レオは暫く普通にしてたけど、魔力切れで寝込んでるみたい」

「まだ、十歳だから魔力量も少ないはずだけど。精神魔法は基本一対一でしか使えない。人の精神に作用させるから、すごい精神力がいると聞いたことがある」

「キャロラインがすごく驚いていた。喧嘩をしてる人達を諌めた時のレオはいつもと違ってなんか威厳があったって」

「…まぁ、色々辛い経験があるからかな。会った時から落ち着いた感覚はあったけど」

「とにかくキャロラインは助かったみたい」

「そうか…」

 スタークはそう呟き、空を見上げた。細く頼りない三日月が見える。

「…少し横になって眠った方がいい。眠れてないんだろ?」

「…情けないな。普通に振る舞ってるつもりだけど…皆に気を遣わせてしまって」

「分かるよ、僕も同じだ」

「…アリアの魂が一人彷徨ってるかと思うと胸が痛い…。心繋をたどっても…この世界にはアリアを感じられない。この世界の方が…まるで…闇の中だ」

 スタークの声が震えていた。スタークは両ひざを抱え、うつむく。こんな弱音を吐くスタークを見たことがない。

 ゾーンの外には雪がチラホラと舞い始める。カインは細い月を見上げた。

「あの月はアリアが戻したんだ」

 カインはスタークに手を回し、肩を組んだ。スタークは再び顔を上げ、月を見た。

「…スタークはアリアがいないと案外ポンコツだからね。そんなスタークを残して、アリアが帰って来ないと思う?」

 カインはそう言って笑いかけた。その笑顔にスタークも微笑む。

「ありがとう、カイン。…そうだな。信じて待とう」

「うん。僕達のアリアは…必ず帰ってくる」

「…なんか、少しムカつくよ。カインの方が年上みたいだ」

「そりゃ、こう見えても僕は兄だからね。スタークは末っ子だろ?アリアと結婚したら、僕が義兄だ」

 少し得意げなカインに肩に手を回し、フッと笑った。



 炊き出しの片付けを終え、シキノはマリウスが眠る王城の客室に戻って来た。部屋は暖炉の火で温かかったが、空気の入れ替えをしに窓を開けた。冷たい風が入り、シキノはふと頼りなく光る細い三日月を見つめた。

 ベッドにはマリウスが寝ている。

「あなたの騎士達がこの世界を守って…あの月をあそこに戻したのよ?あなたが先に目を覚まして…皆を励ましてあげなきゃならないんじゃない?」

 シキノはそう言って窓を閉めた。


 少し前、二十年目の結婚記念日に初めて旅行に行った。シキノが寒がりだからと言って、ラスタ王国の端にある暖かい海の近くの街に連れて行ってくれた。四日間も二人きりで一緒にいた事は二十年間で初めてで、ゆっくりとした時間を過ごした。

「騎士を引退したら、こんな暖かい場所で暮らすのもいいな」

 海を見ながらポツリとそう言ったが、三日目には自分の不在中の騎士達が気になっていたみたいだった。


「暖かい場所は旅行で行くぐらいで丁度いいわ。だって、あなたはどうせ騎士達が気になって仕方ないんですもの」

 シキノがそう言ってマリウスの手を布団の中にしまおうとした時、その手をギュッと握り返した。

「!?」

 驚いてシキノがマリウスの顔を見た。マリウスはうっすらと目を細めてシキノを見た。

「…あぁ、やっぱりその色、お前に似合うな」

 シキノが首に巻いているストールを見てマリウスは呟いた。

「マリウス…」

 シキノは思わずマリウスに抱きついた。

「!」

 シキノを抱きしめ、その温かさにマリウスは安心した。

「…よく死ななかったな、俺」

「ジェイドさんが運んでくれたのよ。もう…死ぬ寸前だった」

「やっぱり…足がないな、片方」

 マリウスは布団をはぐり、太ももからなくなった左足を見た。

「…ええ、魔物に食いちぎられたって」

「ああ、覚えてる」

 落胆するかと思いきや、マリウスはそれ程気にしてはいない様子だ。

「騎士団は…?魔物は…」

「非常事態宣言はその日のうちに解除されたわ。ケガ人は出たけど、騎士団は皆、命はあるわ…でも…」

「月は…?」

「アリア嬢が役目を果たして月は元の位置に戻ったけど…」

「?」

「アリア嬢は意識が戻らないらしいわ」

「アリアが!?…」

 マリウスは驚いて身体を起こそうとしたが、シキノが止める。

「…月の位置が戻って魔物は皆、退治されたわ。でも、同盟国の他の国ではまだ魔物の残党がいるからって、ラスタから動ける騎士達が派遣されたの」

「…情けないな、俺は…」

 マリウスは悔しそうに唇を噛みしめた。シキノはその言葉に怒った顔でマリウスの目を見た。

「バカ言わないで。キリア隊長が言ってたわ。あなたが指揮をしたから、騎士団の誰一人命を失うことはなかったって。あなたはもし、キリア隊長が同じように魔物を退治して瀕死の状態だったとしても、情けないなんて思うの!?」

「!」

「…あなたがいたから、皆頑張ってるのよ?少しは自分にも思いやりを持ったらどうなの?」

 シキノの言葉にマリウスは絶句し、シュンとした。

「…」

「…ジェイドさんが言ってたわ。あなたのことだから、目を覚ましたらどうせすぐに仕事に戻リたがるだろうって」

「…お見通しだな」

「私としては、もう四十過ぎだし…足もなくなったし、このまま引退してもらおうと思ったのに。」

 シキノはそう言って笑った。

「いい義足があるから、すぐに復帰できるって」

「相変わらず、スパルタだな、ジェイドさんは」

「そうね。でも動けなくてイジイジしてるあなたなんて見たくないから、丁度いいわ」

 シキノの言葉にフッと笑い、マリウスは握ったシキノの手にキスをした。

「ありがとう、シキノ」



 





 

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