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奴隷の呪いと  作者:


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97. 終焉

 マーガレットが四体の魔物に囲まれていた。背後には自分より若い騎士が達が三人、戦闘不能で気絶している。

 もう何時間も続く戦いで魔力も尽き、剣を握る手も力が入らない。本当なら後ろの気絶した若い騎士達に防御膜を張って自分が囮になり、魔物達を引き連れ、この場を離れたい。だが、情けないことにその魔力すら残ってないのだ。

「ごめん…皆」

 そう言ってマーガレットは涙をこらえ、唇を噛みしめた。せめて囮になるだけでも…そう思い、魔物に斬りかかり、そのまま走り出した。魔物達が追ってくる。自分に注意が向くよう、立ち止まり、応戦するフリをしてはなるべく遠くへ走ろうとした。 足がもつれ、こける。

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 マーガレットは肩で息をし、立ち上がろうとしたがもう既に魔物に囲まれていた。残して来た騎士達からは一キロ程離れた。

『誰か…お願い、マシューのパン屋の前に…戦闘不能の騎士達がいるわ。気絶してる、誰か行ってあげて』

 リアンでそう伝えるとマーガレットは剣を握り立ち上がった。

「最期まで闘うわ…どんなに無様でも」

 マーガレットはそう言って一番デカい魔物に斬り掛かった。魔物はマーガレットの腕を掴み、裂けた口でマーガレットの頭を食べようとした。

「!」

「悪食だな。この女は簡単には食えねぇぜ?」

 ペドロがそう言って魔物をバッサリと斬り倒した。ペドロの身体は傷だらけだ。他の三体の魔物を斬り倒し、マーガレットに手を差し出した。

「…なんで…こっちに来たのよ?」

「珍しくお前が誘ってくれたのかと思ったんだが?」

「バカ。…マシューのパン屋に…」

「タウロスが行ってくれてる」

 マーガレットはホッとし、ペドロの手を取って立ち上がった。

「…まさか、あんたに助けられるなんて」

「惚れた?」

「んなわけ…」

 そう言いかけた時、ペドロはマーガレットを引き寄せ、抱きしめた。

「…良かった、間に合って」

 ペドロの身体は震えていた。相当急いで走って来たのか、鼓動は速く、肩で息をしていた。今まで軽口を叩きながらナンパな誘いしかしてこなかったペドロが、必死に自分の為に駆けつけてくれた。

「あリがと…少し惚れた」

「!」

「けど、職場の男とは遊ばない主義なの」

「…遊びじゃなきゃいいんだろ?」

 ペドロはそう言ってマーガレットの唇にキスをした。

「!…」

「戦いが終わったら、デートしよう。だから…避難所で怪我人の世話をしといてくれ。これ、副隊長命令な」

 ペドロは照れくさそうにそう言った。どうせもう戦える魔力も体力も残っていない。

「どっちが命令?デート?怪我人の世話?」

「どっちもだ!」

 ペドロはそう言ってまた戦場へと走って戻って行った。


「ケガ人はジェイドさんの作った防御膜に入れろ!」

 タウロスはそう言って魔物を突き刺した。騎士達の半分以上が怪我を負って戦闘不能だ。治癒士のティカだけではとてもじゃないが、手に負えない。致命傷を優先的に治癒するが、ティカの魔力にも限界が見えてきた。  

 

 スタークが広範囲に雷鎚を落としたお陰で一掃された魔物や魔獣だったが、やはり空間の歪みからまた次々に魔物や魔獣がこちらの世界へと侵入して来る。

 斬っても斬ってもキリがない。それでも騎士達は誰一人、剣を捨てで逃げる者はいない。

 遠くの丘に光の柱が立ってから一時間以上過ぎている。天を指していた光の柱は見るたびに空高く伸びては行くが、疲弊した騎士達にはその時間が長く感じられた。


「…クソ!」

 キケが使い物にならなくなった剣を魔物に投げつけた。もう魔力は残っていない。魔物にやられた左足からは血が流れている。こんなことなら、もっと鍛錬しとくべきだったと後悔する。

 巨大モンキルが鋭い爪を武器に、キケに襲いかかろうとしていた。キケは辺りを見回し、十メートル先に落ちている剣を取りに行こうと走った。

「無理するな!足を怪我をしてるじゃないか。防御膜に入ってろ!」

 ジェイドがそう言ってキケに襲いかかる巨大モンキルを水砲一撃で倒した。

「…イヤです!まだ、戦える!」

「死に急ぐな。死ぬための戦場じゃない!」

「だから戦うんです!」

 キケはリタイアした騎士が落とした剣を拾った。

「…アリアは同期です。アリアなら…戦えなくなるまでやるはずです。あの光の柱が見える限り、俺もやれるだけやります。じゃないと…胸を張って同期だと言えない」

 キケの目はまだ闘志があった。ジェイドははるか遠くの丘を見た。光の柱は天に向かって上昇している。

「名前は?」

「キケです」

 ジェイドはキケの足に手をかざした。 

「!?」

 傷がみるみる塞がり、さらに魔力まで流し込まれている。

「ジェイドさん…」

「あともう一踏ん張りだ。行くぞ!」

「はい!」



「キリア隊長!う、腕が…!」

 若い騎士を魔物から守るためにキリアが火弾を受けた。キリアの右腕がダラリと動かない。

「…問題ない。俺は両利きだ」

 そう言って左手に剣を持ち替え、魔物の首をはねた。

 アテネ広場から丘は見えないが、建物の向こうに眩い太い光の柱が空に向かって伸びているのが分かる。

 先ほど、ユリアからピアスに通信があった。自分の役目は終わったと。ラステルと共に王城に戻り、ケガ人の手当てに回ると言う報告だった。

 ユリアの安全が分かれば心置きなく戦える。それを承知でわざわざ連絡してきたのだろう。

「あと少しの辛抱だ!絶対に死ぬな!」

 キリアの気合が入った叫びに青軍の騎士達は「はい!」と答えた。  


〚ドーン…バリバリ〛

「!」

 遠くから聞こえる雷鎚の音に騎士達は光の柱がが立つ丘を見た。凄まじい数の雷鎚が一点を集中的に振り注ぐ。何キロも離れているはずのここまで、大気の振動が伝わって来る。丘の横にある森から火の手が上がった。

「スタークの雷鎚だ…あっちでも戦ってるのか…あの威力…力を使い過ぎじゃ…」

 キリアは魔物の残党を切裂きながらふと不安に駆られた。


 薄暗かった視界がいつの間にか明るくなっていた。霧が晴れ、空間の歪みが小さくなって行く。

「キリア隊長!あれ!」

 ユーラスが光の柱の方を指差した。

「!」

 光の柱がゆっくりと消えて行く。先ほどまで低かった雲は上空にたなびき、今まで感じていた大気の圧迫感がなくなった。

『月を元の位置に戻した!』

 カインからの報告に戦える騎士達は戦の終わりが見え、力がみなぎる。


「あと一踏ん張りだ!残った魔物を片付けろ!」

 タウロスの掛け声に、騎士達は雄叫びをあげ、最後の力を振り絞った。

 

 王城近くの戦いも終わりを迎えていた。ジェイドが逃げ惑う四頭のモンキルをまとめて竜巻で吹き飛ばした。

 辺りを見回し、魔物がいないことを確認すると騎士達は歓喜の声を上げた。

 全員が傷だらけだ。だが、なんとか生きている。

 街は被害が大きい。半壊した建物、道路は所々で石畳が剥がれ、砂状化した魔物の残骸があちらこちらに見られる。

 それでもカラパイトの被害に比べると雲泥の差だ。すぐに復興されるレベルだ。


「さっきの雷鎚の威力…ジェイドさん、スタークは大丈夫なんですか!?あんなの一日に二度も落とすなんて…」

 ペドロが不安そうな顔で尋ねた。

「指一本分の生命力があればなんとか回復できるはずだ。スタークもそれは分かってるはずだ」  

「無事だといいが…あの三人…」

「…ケガ人を運ぶぞ。ラステルを呼ぼう」

 戦いが終わったものの、ジェイドは三人の無事が確認できるまでは手放しでは喜べず、何かしら嫌な予感を感じていた。


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