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奴隷の呪いと  作者:


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96. 封印

 アリアはガクンと膝から崩れ落ち、地面に手を付いた。

「アリア!」

 カインが支えるとアリアは疲れた表情で天を指差し、ホッとしたように笑った。

「できたわ」

 カインは空を見上げた。そう言えば視界が明るい。太陽は出ていないが、普段の曇りの日の明るさに戻っている。さっきまですぐ近くに迫って来ていた灰色の月の大地は跡形もなく、月は見当たらない。空間の歪みもなくなっている。

「月がない」

「ええ、今夜は新月だもの。月は見えないわ。それにまだ、夜ではないもの。スタークは…?」

 アリアは防御膜の中に入っていることに気づき、周りを見た。

「!」

 巨大な魔物が遠くで燃えている。目を凝らすと防御膜のようなガラスのようなシールドが魔物をとじこめていた。魔物は烈火の炎の中で焼かれ、あまり動かなくなっていた。

 スタークの姿は見えない。

「スターク!」

 立ち上がり、防御膜から飛び出そうとしたアリアの手をカインが掴む。

「大気が電流を帯びている。防御膜を張らなきゃ燃えちゃう」

 アリアにはそんな魔力はもう残ってはいない。カインが右手をアリアにかざし、魔力を分けた。

「もういい、あとはスタークにあげて」

 カインの魔力もそう残ってはいない。アリアは防御膜だけの魔力をもらうと魔物の方へと駆け寄った。魔物のあまりの大きさとそれを囲むシールドの範囲にアリアは不安でたまらない。魔物は焼き焦げたところから砂状化が始まっていた。


「!? カイン!急いで!」

 シールドの側にスタークが倒れている。心臓の音が胸を叩く。アリアは足に力が入らず、這うようにスタークに駆け寄った。

「スターク!」

 魔力切れのように髪の毛が白く、身体はピクリとも動かない。息をしていない。

「ダメよ!スターク!」

 冷静でいられないアリアは震える手でスタークを抱きしめる。

「スターク!」

 カインは歯を食いしばリ、冷静にスタークを見つめ、魔力と生命力が少しでも残っていないかを確かめた。

「…!」

 スタークの右手の中指に、ジェイドから貰った指輪が光る。

「!アリア、どいて」

 カインはその指輪のしてある指にほんの少しだが魔力を感じた。カインはスタークの身体を抱き寄せる。

「…この指輪のお陰で指一本分の命が残ってる!」

 カインがそう言って自分の魔力をスタークに送る。カインの魔力ももう底をつきそうだ。アリアはそれを察知し、カインを止め、自分の魔力をスタークに送ろうとした。

「ダメだ、アリア。アリアにはもう防御膜を張る力さえ残ってないんだ」

「お兄様だって…」

「約束したんだ。僕がスタークを…」

 そう言いかけた時、アナスタシアが二人の間に割り込み、動かなくなったスタークの頬に顔を寄せた。

「アナスタシア…?」

 アナスタシアの身体から淡い銀色の光がユラユラと立ち上がり、スタークとカイン、アリアを包んでいく。

「!?」

 二人は顔を見合わせ、アナスタシアを見た。黒く焼き焦げた地面が自分達の周りだけ緑色の草の色に変わっていく。

「なに…これ」

 明らかに魔力が戻って来る。二人はアナスタシアの魔法に驚き、スタークを見つめた。

「見て…髪の色が…」

 色が抜けたはずの髪の色が柔らかな金色に変わって行く。

「コホッ…」

 スタークが小さく咳をした。

「スターク!!」

 二人同時にそう叫ぶとスタークはゆっくり息を吐きながら目を開けた。

「二人とも…声がでかいよ」

 そう言ってクスッと笑った。

「…これ、カインの魔力?」

 掠れた声で尋ねる。空っぽだった身体にジワジワと魔力が溜まっていくのを感じる。

「ちがう!アナスタシアのだ」

「スターク!」

 アリアが思わずスタークの唇にキスをした。スタークの身体を抱きかかえているのはカインだ。スタークは申し訳なさそうにカインを見た。

「…いいよ、スターク。本当なら僕も君にキスしたいくらいだ」

 カインは苦笑いする。スタークは魔力が回復し、アナスタシアの顔に手を添えた。

「あリがとう…アナ。君は本当に復活の女神だ」


 三人は立ち上がり、シールドの中の炎を見た。魔物は焼き尽くされ、ほとんど砂状化している。

「…いるわ、まだ」

 アリアがシールドの中に漂う紫色の煙を指差した。

「アリア」

「わかってる」

 アリアは魔法陣を出し、ラステルに合図した。アリアの左手の甲に魔法陣が浮き出し、消えた。

「気の魔法が戻ったわ」

 アリアはそう言ってスタークの張ったシールドに手を添えた。そしてシールドの中の空気を真空状態にして行く。

 酸素がなくなり、烈火は消えた。紫色の煙は人型になり、苦しみながらすごい怨念の塊をぶつけてシールドを破ろうとしている。シールドの空気が完全になくなった瞬間、スタークはシールドの中に放電した。

 真空のシールドの中はバチバチと電気が発生し、紫色の煙が分解され、跡形もなく消えてしまった。

「…これ、どんな状態?」

 カインが尋ねる。

「真空の中で放電したから、ジゼル(煙)が電気分解されて蒸発したんだ」

「? ジゼルは死んだってこと?」

「!」

 スタークはカインの質問にハッとして制服を脱いだ。

「どう?消えてる?」

 スタークの背中から奴隷紋が消えている。

「消えてる!私のは?!」

 アリアもブラウスのボタンを外そうとし、スタークとカインが焦って止めた。

「脱がなくていいから」

「あ…」

「向こう向いてるから、スタークが見てやって」 

 カインがそう言ってアナスタシアの頭を撫で始めた。スタークは制服のジャケットを脱がし、ブラウスの背中をめくった。

 忌々しい紫色の奴隷紋はすっかり消えていた。白く美しい背中にスタークはそっと手を当てる。

「消えてる。…良かった」

 スタークはそう言ってアリアの背中にキスをしてブラウスを直した。アリアは少し顔を赤くしながら服装を正した。


「念のため、このシールドは圧縮して持ち帰ってラステルさんに封印してもらおう」

スタークはシールドを小さくして行く。

「ネリは?」

「シールドに閉じ込めてる。ジゼルが死んだ今、魔回復も無理だから…」 

 スタークがそう言いかけた時、アリアの背後にネリが現れ、アリアの身体を捕らえた。

「?!」

 ネリの身体は傷だらけでジゼルが死んだことにより、右半身はなくなっていた。

「アリア!」

 スタークとカインが攻撃しようとした時、アリアはそれを制した。

「…こんな死に損ない、楽勝だわ」

 アリアはそう言って左手を掴み、重力で地面に叩きつけた。アリアは地面に横たわるネリに馬乗りになると、剣を抜き、ネリの心臓に突き刺した。

「ゴフッ…宝物…俺のものにはならないのか…」

 ネリは口から血を吐き、そう呟いた。目にはうっすら涙を溜めていた。アリアの胸元からはスタークに貰ったネックレスが見えていた。スタークの瞳の色の石と、ダイヤモンドの指輪が光っていた。

「私はあなたの宝物じゃないわ…」

「…俺のものにならないのなら…」

 ネリはそう言ってスタークを見てニヤリと笑った。スタークはハッとして息を呑んだ。

「?…?!アリア!離れろ!」

 スタークがそう叫んだ瞬間、ネリの左手がアリアの肩に触れた。

「?!」

「アリア!?」

 アリアの身体がガクッと崩れ落ち、その重みで剣がネリの心臓を貫いた。

「アリア!!」

 スタークとカインが駆け寄ると、息絶えたネリの上にダラリとアリアの身体が重なっていた。

 

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