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奴隷の呪いと  作者:


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95/104

95. 月の丘の戦い

「スターク、アリア!」

 ユリアを連れ、空間移動してきたラステルは二人の無事を確認し、安堵した。

「ユリアさん。よろしくお願いします」

「絶対に成功させましょう」

 こんな状況に怯えているかと思いきや、ユリアの表情は闘志にみなぎっていた。

 キリアとお揃いの指輪とピアス、それにはキリアの加護がかかっている。


 ユリアはアリアの描いた魔法陣の中心に両手を重ね、呪文を唱えた。

 ユリアの手から金色の魔法陣が拡がりはじめ、アリアの描いた魔法陣と重なって行く。

 二つの魔法陣が重なった時、その魔法陣は光の柱になり、月をめがけて一直線に立ち上がる。

 アリアは呪文を唱え続け、魔力を放つ。ラステルもその光の柱に補強の魔力を注いだ。

 太い光の柱が月に届くと、ユリアも呪文を唱えた。まるで何かの儀式のようにアリアとユリアの呪文が重なり、光の柱はゆっくりと月に吸収されていく。

「いいぞ、その調子だ」

ラステルがそう叫び、ユリアの全身が光を帯びた。

 月がゆっくりとした速度で上がっていく。

 ユリアが呪文を唱え終わると身体から光が消えた。魔力が尽きたユリアはラステルに支えられ、やりきった表情でアリアを見た。

 アリアは頷く。

「後は任せて下さい」

 アリアは柱に魔力を注ぎ続ける。


__ドクンッ

 アリアとスタークの背中の奴隷紋が疼いた。

__来たか。

 スタークは神経を研ぎ澄ませた。このタイミングで来ることは予想していた。

「スターク、任せるわ」

「ああ。任せてくれ。…ラステルさん、ユリアさんと王城に戻って下さい!」

「しかし…いや…分かった」

 自分とユリアがいたら足手まといになる。ラステルはアリアの肩に手を置き、できる限りの加護を与えた。

「アリア…また女子会しましょう」

 ユリアはそう言ってアリアに笑った。ユリアの笑顔にアリアは癒される。

「ええ、楽しみにしてる。…ラステルさん、合図したら、気の魔法を解除して下さい」

「分かった。アリア、スターク、必ず無事に帰って来い」

 ラステルはそう言ってユリアを連れ、その場からいなくなった。


 あたりは霧が立ち込め、視界が悪くなる。

【カキンッ】

 スタークは気配を察知し、剣で攻撃を受け止めた。

 突如現れたネリにスタークは間髪入れずに立ち向かう。ネリは瞬間移動をするが、スタークはその動きを全て読んでいる。

「くっ…!」

 容赦ないスタークの攻撃にネリは地面に叩き付けられた。力の差は歴然だ。スタークは凄まじい数の烈火弾をネリに撃ち込み、とどめを刺そうと、起き上がろうとするネリの心臓をめがけ突進した。


【ドーンッ】

 空間の歪みから大きな魔物が現れた。

「!」

 カラパイトに現れたのと同じ大きさだった。人型の黒い魔物は城程の大きさで、火を吹く。

「クソッ…」

 スタークはダメージを受けているネリの身体を魔法陣で拘束し、シールドに閉じ込めた。ただトドメを刺すだけではまたジゼルに逃げられてしまう。

 アリアはネックレスの加護で、ある程度護られてはいるが、魔物がでかすぎる。スタークは魔物がアリアに近づかないよう、気を引くように烈火弾を撃った。

 魔物は森の木を焼き払うかのように口から炎を吐き、スタークを攻撃する。


『カイン!こっちに来れるか!?』

 スタークはリアンでカインに叫んだ。

『すぐ行く!』

 アテネ広場をキリアに任せ、カインがすぐに空間移動して来た。

「何これ…デカい!!」

「…カラパイトの時と大きさは同じだが、様子が違うんだ。あの時は魔物はただ闇雲に暴れるだけだったが…こいつは明らかに俺を狙って来る」

「?」

「おそらく…ジゼルがこいつを操ってる。さっきのネリからはジゼルを感じられなかった」

「こいつの中にジゼルが?」

「いや…まだ他にいる。奴は絶対にアリアを狙ってるはずだ。俺はこの魔物を引きつける。だからカインはアリアを頼む」

「こんなデカいの、スターク一人じゃ無理だ!」

「一人じゃない。アナがいる。ジゼルは宿主が死ぬ寸前、気体になって逃げていく。だから、とどめを刺す前にシールドに閉じ込めろ。ゾーンじゃなく、シールドだ」

 スタークはそう言ってアナスタシアに飛び乗った。

「俺は大丈夫だ、こう見えても魔聖騎士だから」

 スタークはそう言って心配するカインに笑った。

「分かってる…分かってるけど…」

__この魔物を一人で倒して、魔力を使い果たしてしまうのが心配なんだ。

 カインは不安をぐっと飲み込むしかない。アリアは月に集中している。

「スターク…約束は守れよ」

「ああ。カインもな」

 スタークはそう言ってアナスタシに乗り、巨大な魔物を引き付けるよう、攻撃し始めた。


 カインは風魔法で自分の気配を消し、アリアを見張っていた。瘴気を含む濃い霧の中に少年がいた。こちらに気付かず、アリアに近付こうとしている。霧の中に黒い魔法陣が浮かび上がり、アリアに向けてそれを飛ばそうとしていた。

「させるか!」

 カインがすごい威力で霧を吹き飛ばし、魔法陣を破壊した。

『小賢しい! 邪魔するな!』

 割れるような声が頭に直接聞こえ、少年はカインに闇魔法で攻撃してきた。

「邪魔してるのはそっちだ!」

 カインは少年の攻撃をかわしながら、応戦する。


 アリアは背中の奴隷紋の疼きに耐えながら月に集中した。ゆっくりではあるが、確実に月は地上から離れて行っている。

 見たこともない巨大な魔物の出現も、カインが背後でジゼルと戦っているのもすべて状況は分かる。

 __早く…元の位置に!

 気持ちが焦る。アリアは目を閉じ、祈るように口を開いた。

「我が守護神セレナの御名におき、我に力を貸し給え。あなたの大地、月がこの星を照らし、安寧を与える位置に戻し給え」

 アリアはそう言ってさらに魔力を注ぎ込んだ。アリアの身体から魔力がどんどんなくなっていく。

【ギュイン】

 光の柱から放たれる光が強くなり、明らかに速度が上がった。

「焦るな!アリア!ゆっくりでいい!」

 魔物の攻撃をかわしながらスタークが叫んだ。

「大丈夫!私はできる!」

 自分に言い聞かせるように叫び、アリアは魔力を注ぎ込んだ。

 空間の歪みが少しずつ閉じていく。


 カインは少年に火弾を浴びせるが、その身体はすぐ霧になり、実体を掴めない。そうかと思うと霧が自分の身体を纏わりついて、身動きが取れなくなる。

『死ね、雑魚め!』

 少年はカインの身体を霧で包み、爆発しようとした。

【ドンッ】

 爆発音がしたが、カインはマントで身を包み防御した。

「…キャロラインのマント、マジ優秀…」

 カインはそう呟き、少年に火砲を放った。少年がまた霧に紛れようとした瞬間、風魔法で辺りの霧を一掃した。

「!」

 灰色の気体になった少年が霧に紛れることができず、またすぐ少年の姿に戻る。

「そこだ!」

 カインはすかさず少年の身体に火弾を撃ち込み、ゾーンを張って閉じ込めた。

「カイン! 避けろ!」

 スタークが叫び、振り返ると巨大な魔物が少年を閉じ込めたゾーンをカインごと踏み潰しに来た。

「!」

 ゾーンが破壊され、灰色の気体が魔物の体内に入って行った。少年の死体だけが地面に転がっている。

『皆殺しにしてやる』

 魔物の身体から聞こえるジゼルの声にスタークとカインは剣を構えた。

「アナ、アリアを守って」

 スタークの言葉をアナスタシアは理解したようにアリアの側に行く。

 二人は総攻撃するが、霧の属性を加えた魔物はすぐに霧に紛れ、中々実体にダメージが与えられない。


__ドクンッドクンッ

 スタークの背中の奴隷紋が疼く。今にも破裂しそうな痛みに歯を食いしばる。

「カイン、ゾーンで魔物を閉じ込めれるか?」

「…できるけど、これだけ大きいとすぐに破られるかも」

「それでいい!一瞬でいい、実体を固定して、ゾーンを破った瞬間に雷鎚を落とす。まずはこいつを倒さないと…」

「分かった」

 スタークは空中に魔法陣を出した。魔法陣は空に舞い上がり、広がると、どんよりとした雲から雷電を集める。気をそらすようにスタークは魔物に攻撃を加えた。

「…僕に任せろ!」

 カインはそう叫んで魔法陣を出した。その魔法陣を大きくし、魔物にぶちかました。魔物はその攻撃をかわそうと霧に紛れようとしたした瞬間、カインは先ほどのように大量の風で霧を吹き飛ばした。

「ゾーン!」

 カインはグレーの気体を巨大なゾーンで閉じ込めた。

『!』

 魔物はすぐさま実体に戻り、ゾーンを壊そうと暴れ出した。

 スタークはさらに地面に巨大な魔法陣を描き、リアンでカインに言った。

『カイン!アリアの側で防御膜を張ってくれ』

「スターク!魔力の使いすぎだ!」

『こいつは一気に殺らないと倒せない!』

「じゃあ僕と二人で…」

『アリアを守れ。頼んだぞ』 

 スタークは右手で自分のピアスを触り、そう言ってカインの目を見た。

「!…分かってる!」

 空に浮かんだ魔法陣と地面に描かれた魔法陣、二つともスタークの最大限の魔力を要するはずだ。

 カインはアリアとアナスタシアの側に行き、防御膜を張った。

 魔物が暴れ、火を吹いてゾーンを破った瞬間、スタークは両手を上げ、空に放った魔法陣を魔物にぶつけた。

【バリバリバリ…】

 雲から集めた眩いばかりの雷電がスタークの放つ雷鎚と共に魔物に落ちた。

【ドーンッ!!】 

 地響きと共に魔物の身体を雷鎚が貫いた。

 防御膜の外は大気に電流が流れ、森の木や草花は発火し始めた。

それと同時に地面に描かれた魔法陣が発動し、魔物をガラスのようなシールドに封じ込め、烈火が燃え盛る。

 魔物が断末魔の叫びを上げ、もがき苦しんでいる。スタークは魔物を焼き尽くすまで魔力を送り込んでいた。

 








 








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