94. 運命の友
『カイン!そっちの状況は!?』
スタークはアナスタシアに跨り、空を舞う魔竜を攻撃しながらカインに尋ねた。
「塞いでも塞いでも新しい歪みができて魔物が降りてくる!」
『怪我人は?』
「何人か出てる。致命傷はないけど、でも…時間の問題だ!」
カインはそう言って、魔法陣を魔物にぶつけた。次から次に発生する魔物と魔獣に白軍と青軍の騎士達も体力と魔力が削られる。
『マリウス団長がやられた。ジェイドさんが今、王城に運んでる』
「!」
『アリア、今どこにいる?』
「アテネ広場から少し離れたところよ!」
『月が…落ちてくる』
スタークの言葉にアリアは空を見上げた。重たい雲が低く広がり、アリアはハッとした。
「これって…」
『ああ、雲で気付かなかったが、月が落ちて来てる。空間の歪みはそのせいだ』
「月を戻せば…空間の歪みは収まるの?」
『おそらく。月が近付いて来てるせいで磁場が狂ってる。でも…皆が闘っている場所から離れた方がいい』
「でも…今私がここを離れたら…」
魔獣と魔物との闘いに騎士達はギリギリの状態だ。
『アリア、ここは任せろ!月はアリアとユリアにしかどうにもできない』
キリアが魔物に剣を突き立てながら言った。
王城近くの戦場も同じく、騎士や兵士たちが魔物と戦っている。終わりの見えない戦いに疲労の表情が隠せない。
マリウス団長の指示が聞こえてこない違和感に気づいている者もいて、いつ集中力が切れてもおかしくない。
キケが魔物に囲まれた。ペドロと他の騎士がすぐさま助けに入る。魔物一体はそれほど強くはないが、その数が容赦なく体力を奪って行く。油断すれば命はない。傷だらけになりながらも騎士達は決して諦めない。
スタークは辺りを見回し、何かを決めたようにリアンで騎士達全員に語りかけた。
『皆、聞いてくれ。今、雲の上に、月が落ちてきている。…今からアリアが月を戻すまで、なんとか踏ん張ってほしい。必ず、成功する。今から…雷鎚を落とす。俺が合図したら、全員、マントで身体を守り、防御膜を自分に張ってくれ』
スタークの言葉にカインが止めた。
『!? 無茶だ!スターク!』
『俺の雷鎚で、一時は魔物の数は減るはずだ』
『範囲が広すぎる!魔力を一気になくすぞ!』
キリアもリアンでそう叫ぶ。
『大丈夫、戦う力はまだ残すから。俺はアリアの護衛にまわる。だから、アリアが月を元の位置に戻すまで絶対に耐えてくれ』
キリアもカインもぐっと唇をかみしめ、周りの騎士達に従うよう頷いた。
「スターク、ここは俺に任せろ!絶対に耐えてやる!」
ペドロがそう言うと、スタークは頷いた。
「いーや、ペドロだけじゃ不安だろ、俺がこいつのケツ叩いてやるよ!」
そう言って現れたのはスタークと入れ替わりに騎士団を引退したタウロスだった。
「タウロス!」
「赤軍の隊長の腕前、しっかりと見せてもらうぜ!」
タウロスはそう言ってスタークに親指を立てた。
「俺も引退した老いぼれだが、少しは役に立たせてくれ」
空間移動でジェイドが現れ、そう言いながら、空を飛ぶ魔竜を一撃で落とした。
騎士達の表情に希望と生きる覚悟が見えた。
「タウロスさん、ジェイドさん、あリがとうございます!動けない騎士の防御幕をお願いします」
「ああ、任せろ」
「スターク、心置きなくやれ」
ジェイドの言葉にスタークは頷いた。
スタークはリアンで再び騎士達全員に話しかける。
『ラスタの誇り高き騎士達よ、必ず俺達が生きてこの国を守るんだ。マリウス団長が言ったように、最後の命の炎一つだけでいい、絶対に諦めずに灯せ。カインが必ず回復してくれる。俺達は大事なものを守る為に騎士になった。…同じ時代にめぐり逢えた運命の友よ、今想いを一つに戦ってくれ』
スタークの言葉に騎士達の胸は熱くなる。
『防御!』
スタークがリアンでそう叫び、騎士達はそれぞれマントで身体を守り、防御膜を張った。
空から無数の雷鎚が地上に落ちて来た。
〚ドーンッ…バリバリバリ…〛
地響きがする程の音がし、雷鎚は容赦なく地上に振り注ぎ、魔物や魔獣を一気に一掃した。信じられないスタークの威力に全員が唖然とする。
「アリア!」
スタークはアナスタシアに乗ったまま、空間移動でアリアの前に現れた。アリアの周りには雷鎚を受けた魔物が砂状化している。
「…すごいわ、スターク」
「惚れた?」
スタークはそう笑って手を差し伸べた。アリアは微笑み、その手を握り、アナスタシアに乗る。
スタークはアリアを後ろからしっかりと抱きしめ、その温もりを噛み締めた。
あれだけの広範囲に雷鎚を落としたスタークの魔力はかなり減っているはずだ。アリアは振り返り、スタークの唇にキスをした。
「…大丈夫?」
「ん…今アリアをチャージしてるから平気だ」
スタークは空間移動し、以前アリアと来た月の見える丘に移動した。
ラスタの王都が一望できる。スタークが雷鎚を落としたことで一掃された魔物だが、また空間の歪みが発生し、魔物達がこの世界に流れ込もうとしている。
「急がなきゃ…」
スタークはアリアの目を見つめ、微笑んだ。
「緊張してる?」
「…」
失敗すればこの世界が終わる。そのプレッシャーに押しつぶされそうになる。
「心配いらないよ。もし、失敗しても俺が月を破壊してあげるから」
「スタークが言うと冗談に聞こえないわ」
アリアがクスッと笑う。
「この日の為に鍛錬してきたんだから、失敗なんてしないわ」
「ああ、信じてるよ。アリアならできる」
スタークはそう言ってキスをした。
「もうすぐラステルさんがユリアさんを連れて来る。準備はいいか?」
アリアはアナスタシアから降り、頷いた。
足元に広がる草原に左手を置き、呪文を唱えた。金色の大きな魔法陣が草原に現れる。
「雲が邪魔だわ」
アリアはそう言って風魔法で雲を蹴散らした。
「!」
今にも落ちてきそうな月は、想像以上にでかく、ラスタだけでなく、大陸全てを覆う程の大きさだった。




