92. 歪み
**王城近くの闘い**
先に空間移動してきたスタークは王城近くの広場で暴れている巨大な魔物を確認した。カラパイトで見たあの人型の魔物ではなく、巨大な蜘蛛の形をしている。全身は毛で覆われ、頭部についた六つの丸い目が黒く光っている。八本の足は太く、素早く動く。口からは粘着性のある糸を吐き、鋏角からは神経毒が出るのか、襲われた兵士が今まさに喰われようとしていた。仲間の兵士は助けようとしても手が出せない。
兵士の甲冑は鋏角が喰い込み、血が流れている。
スタークは烈火弾を蜘蛛の頭部に放った。衝撃で兵士は地面に落ち、仲間が駆けつけた。
「おい!しっかりしろ!」
「避難所に連れて行け!治癒士にすぐ見せろ!」
スタークの指示に兵士たちは傷付いた兵士を連れ、その場を去った。
大蜘蛛はスタークに向かって糸を吐く。スタークが大蜘蛛に砲火をした瞬間、背後から殺気を感じ、振り返った。
「!?」
二十メートルを超えるサソリがスタークめがけ、その尻尾を振り下ろした。石造りの噴水が粉々に崩れ落ちる。
「マジか…二匹」
スタークは濃くなる瘴気を風魔法で吹き飛ばし、尻尾で攻撃して来るサソリに対して関節に剣を突き刺した。
『スターク!避難所近くでまた巨大な魔獣が出た!』
赤軍の騎士達を率いてこちらに向かっているはずのペドロが、リアンを使っでスタークにそう言った。
『俺と五人、こちらで戦う!残りはそっちに行かせる!』
「いや!こっちはいい!全員でそいつを倒せ!必ずトドメを刺せ!」
『分かった!そっちは一人で大丈夫なのか!?』
「一人じゃない!こっちは大丈夫だ!空間の歪みを見つけてゾーンで塞いで魔法士を呼べ!」
『空間の歪み?』
「そこから魔物が発生してるはずだ!」
スタークは蜘蛛とサソリの攻撃をかわしながらリアンでペドロにそう言った。
『分かった!待ってろ!片付けてそっちに行く!』
スタークは魔法陣を出した。するとどんよりとした空に空間の歪みができ、銀色の竜が現れた。
「アナ!力を貸して」
スタークがそう言うとアナスタシアは大きな翼を羽ばたかせ、スタークに背中に乗るよう促した。
「あリがとう」
スタークはアナスタシアの背中に乗り、雷鎚を一気に二体の魔物に落とした。
地響きがし、スタークの雷鎚にサソリの魔物は頭部を潰されて動かない。蜘蛛は素早い動きで咄嗟に交わしたのか、足が二本、ちぎれただけだった。
「トドメを刺さなきゃ再生するんだ!」
スタークは自分に言い聞かせるように、サソリに烈火弾を放った。サソリの身体が火に包まれる。
蜘蛛はアナスタシアにめがけ、糸を放つ。スタークはアナスタシアに当たらないように火弾で糸を焼き切りながら蜘蛛の弱点を探っていた。
ペドロ達は巨大な狼にキケの氷魔法で左前足を凍らせ、破壊した。三本足になって動けなくなった狼に全員で攻撃する。大きな魔物のそばには次々に魔物や魔獣が発生し、倒しても倒してもキリがない。
「ペドロ!見つけたわ!空間の歪み!」
マーガレットが建物の壁に異空間との穴を見つけた。そこから魔物や魔獣が湧き出てくる。
「穴ごとゾーンを張って閉じ込めろ!」
「了解!」
マーガレットと何人かの騎士で壁ごとゾーンを張った。
「こいつを倒したらすぐ行く!」
ペドロは邪魔をする魔物達を振り払い、狼の左の前足を斬った。狼の身体が地面に倒れ込み、ペドロは剣で心臓を突き刺した。
「手を止めるな!手が空いた者は王城に行け!」
狼が息絶え、身体が砂になって行くのを確認するとペドロはマーガレットのそばに駆けつけた。マーガレットの張ったゾーンの中には次々に魔物があちらの世界から流れ込んで来る。
「今、魔法士を呼んでる!魔法士しかこの穴は防げない!」
ゾーンを守りつつ、マーガレットが魔物と戦っている。
「ペドロ!ここは私に任せて!魔法士が来るまでは私がここにいる!早くスタークのもとに!」
「分かった!ヒューゴ!お前はマーガレットの援護を頼む!」
「了解です!」
ペドロは他の騎士達を連れ、スタークのいる王城近くへと馬を走らせた。
「なんだ、これ…」
スタークの戦場に駆けつけたペドロ達は唖然として立ち尽くした。
巨大なサソリが燃え盛り、巨大な蜘蛛の頭が胴体から斬り離され、砂状化が進んでいる。
「この二匹を…スターク隊長一人で倒したのか?」
ざわつく赤軍の騎士達にスタークは叫んだ。
「まだだ!油断するな!」
空からまた無数のギュールが落ちて来た。その中に何体か巨大化したギュールもいる。
「クソッ…きりがない!」
スタークは空に開いた穴をゾーンで閉じ込める。騎士達は自分達よりはるかに多い数のギュールと応戦した。
「ソマリ!」
巨大化したギュールにやられたソマリが右半身がギュールの吐いた炎に焼かれている。ペドロが慌てて水魔法で鎮火し、ギュールの群れからソマリを連れ出した。
「ソマリ!しっかりしろ!ティカ!ソマリに治癒を!」
騎士だが、治癒魔法を使えるティカは他の騎士に治癒魔法をかけている。
明らかに騎士達に疲労がみられ、怪我する者も増えてきた。
『スターク!聞こえるか?』
聞き覚えのある声がリアンから聞こえた。
「その声は、ジェイドさん?来てくれたんですか?今どこに…」
『…マリウスがやられた』
「!?」
『ジョルノ通りで倒れてた。足が食いちぎられてる。今からマリウスを王城に運ぶ』
「命は!?」
『虫の息だ。あとは城の治癒士に任せるしかない。スターク、君が指揮を執れ』
ジェイドの言葉にスタークは固まった。
「…わかりました。マリウス団長をよろしくお願いします」
『ああ、わかってる。城に置いたら合流する』
スタークは歯を食いしばり、ペドロを見た。
「どうした…スターク」
「マリウス団長が…」
「!?」
「今ジェイドさんが空間移動でマリウス団長を王城に運んでる。」
「…クソ!この数、キリがねぇ!空間の歪みがどんどんできてる!」
「磁場のせいじゃない…これは…」
スタークはそう言って空を見上げた。どんよりとした雲が低く広がり、今にも空が落ちてきそうだった。




