91. 狼煙
王都に霧が立ち込めた。
朝から嫌な予感がしていたのはスタークとアリアだけではない。
"ドーンッ"という音とともに地響きがし、地面が揺れた。
緊急事態を告げる狼煙が上がり、街中に鐘が鳴った。
「マリウス団長! アテネ広場にでかい魔獣が現れたと報告が!」
憲兵からの連絡にマリウスは騎士を全員集めた。赤軍、青軍、白軍合わせ、総勢七十数名の騎士達が集められた。
「民衆は大きな施設に避難するよう、兵士たちが誘導している。施設にはシールドが張られているから、お前達の家族にもすぐに避難するよう、風メールで知らせろ」
カラパイトの事例後、ラスタ王国では有事の為の対策が練られた。
緊急事態には王都全体に緊急警報の鐘が鳴り、都民達は定められた避難場所に避難する。兵士たちはその避難を誘導し、動けない者達を移動させる。
避難所には有事になると魔法省の魔法士達によりシールドが張られ、魔物の侵入を防ぐ。食料や水も備蓄してある。
ラジール国王は万全を帰すため、その備えを着々と進めていた。兵士たちの役割分担、食料や水、医療用具の備蓄、情報共有の手段、そして、一番力を入れていたのは治癒士の育成だった。
「いいか、来るべくして、時が来た。相手は魔物だ。絶対に油断するな。情報は常にリアン(通信機)で報告しろ。もしケガを負ってもだ。いいか!どんなにケガをしても、絶対に命だけは落とすな!首の皮一枚でもいい、絶対に死ぬんじゃない!生きて必ずこの国を守るんだ!」
マリウスの言葉に騎士達の胸が熱くなった。騎士達全員がキャロラインの発明したリアンと言う通信機とマントを身に付けている。
「マリウス団長!王城のすぐ近くにまた巨大な魔物が現れたと!」
「!…、二体か…。キリアとカインの隊はアテネ広場の魔物を!スタークの赤軍は王城の近くに!」
「はい!」
「アリア!」
出発する際、スタークが、アリアの手を握った。まだ午前中だと言うのに、二人の背中の奴隷紋が疼いている。
「…スターク。」
「ネリが来る」
「ええ、わかってる。巨大な魔物も…月が落ちてくるのも今日かも」
「何かあればすぐに駆けつける。アリアにしかできないことがあるんだ」
「分かってる」
「絶対に…」
「分かってる。…スタークも…約束は絶対守ってね」
「ああ。絶対に守る。だからアリアも」
アリアは頷き、胸元に隠していたネックレスを見せた。婚約指輪もネックレスに通していた。
「全部終わったら、結婚してあげるわ」
アリアはそう言って笑った。
「うん。アリアのウェディングドレス姿、楽しみだ」
スタークはそのネックレスと指輪にキスをした。
「…私にキスはしないの?」
「終わったら全身にするよ。覚悟しといて」
スタークの笑顔にアリアも頷く。アリアはスタークのピアスにそっと手を触れ、祈りを込めた。
「カイン、頼むぞ」
「ああ、任せとけ。…スターク、どんなに傷ついても、絶対に治してやる。だから絶対に死ぬな」
「君もだ。カインが死んだら、騎士団は全滅だ」
「わかってる」
カインはそう言ってスタークと拳を合わせた。
「じゃあ、あとで!」
「キリア隊長、アリアと二人で先に空間移動します。僕の隊も連れてきてください」
「ああ、分かった。アリア、気を付けるんだぞ」
「はい。キリア隊長、ユリアさんは?」
「ラステルさんが空間移動でもう既に王城に保護してくれている」
「心置きなく戦えますね」
「こき使うつもりだろ?」
「もちろん。じゃあ、キリア隊長、お先に」
カインはアリアと二人、その場から消えた。
**アテネ広場の戦い**
アテネ広場には目を疑うような光景が広がっていた。二十メートルはある巨大な魔物が建物を壊し、逃げ遅れた人々を兵士たちが必死に救助している。
巨大な魔物は灰色の鱗のようなもので皮膚を覆い、トカゲのような顔をしていた。 二足歩行で建物を踏みつぶしている。
魔獣や魔物もウヨウヨと発生しているのか、救助する兵士たちの邪魔をしている。
「アリア!あいつの動き止めれる?せめて足だけでも」
「任せて!」
アリアは土魔法で地面をぬかるませ、魔物が足を取られた瞬間、地面を固めた。魔物が足を取られ、その場で暴れ出す。
「…硬っ…!」
カインが剣で魔物を突き刺すが、皮膚が硬く、大したダメージを与えられない。魔物は火を吹き、街を焼こうとして居る。
「あまり暴れると足が地面から抜けちゃうわ!」
「足が抜けるまでに殺らなきゃ!」
カインが空中で魔法陣を描き、それを魔物にぶつけた。魔法陣が魔物の皮膚をきり刻むが、あまりにも大きい為の、ダメージがあまり与えられない。
黒い魔竜が空を飛び、アリア達を攻撃して来る。
「邪魔だわ!」
アリアは水魔法で魔竜を狙うが、すばしっこく、中々当たらない。
駆けつけたキリアが叫んだ。
「魔竜は弓で狙え!白軍はカインとアリアの援護に回れ!」
あまりの大きさに足が止まる騎士もいたが、キリアの掛け声で全員が剣や弓を抜き、闘いに参加した。
「カラパイトの魔物と同じ大きさですか?」
アリアはキリアに尋ねる。
「いや、こいつの方が二回りくらい小さい!」
「マジか!? キリア隊長!その時はどうやって倒したんですか?!」
カインは火弾を魔物に浴びせながら、リアン(通信機)で話に割り込む。
「氷魔法で足を凍らせ、二十人くらいで攻撃したんだ。とどめはスタークの雷鎚だったが」
「どれもここにない魔法だ。わんさか魔物が発生するから、全ての力は使えないな。皮膚が硬くて、致命傷を与えれない。キリア隊長、どうします?」
「早く仕留めないと足が外れちゃうわ!」
「瘴気も濃くなって来た、俺が奴の目を潰す。カイン、奴の顔だけゾーンを張れるか?」
「顔だけなら行けます!」
「アリアと俺の水魔法で奴の顔に水の塊をぶつける。その瞬間にカインがその水を閉じ込めてゾーンを張るんだ!」
「了解!」
キリアは小さくしていた予備の剣を普通の大きさに戻し、両手に一本ずつ剣を握った。
「行くぞ!」
キリアは空高く舞い上がり、魔物が放つ火を避けながら一気に魔物の顔の高さまで来た。魔物はハエでも振り払うかのようにキリアを払いのけようとした。キリアはそれを素早くかわし、剣に強化魔法をかけ、一気に魔物の両目の眼球に剣を突きつけた。
『ヴォォオオオオオオ!!』
魔物の怒り狂った叫びが耳をつんざく。
「アリア今だ!!」
アリアとキリアが大量の水の塊を魔物の顔に浴びせた。
「カイン!!」
「ゾーン!」
カインが魔物の顔にゾーンを張り、その中に水で満たした。魔物は苦しみ手でゾーンを壊そうとしたが、カインとキリアが魔物の指を斬り落とした。
「アリア!ゾーンを圧縮して!」
アリアはカインの作ったゾーンを圧縮し、水のせいで魔物は呼吸ができず、苦しみ、もがく。
「キリア隊長! トカゲ系は火魔法が有効だ!見て!」
カインが火弾を浴びせた箇所を指差した。鱗が焦げ、剥がれ落ちて地肌がむき出しになる。
「よし!火魔法を使える者は心臓を狙って砲火を放て!」
青軍と白軍の火属性の騎士達が一斉に魔物の左胸に砲火を放った。焦げついた鱗が剥がれた。
「砲火止め!カイン!」
「了解!」
カインは魔物の心臓めがけ、剣に強化魔法をかけ、一突きで心臓を突き刺した。
魔物が膝から崩れ落ち、地面に倒れ、死んだ。
「…一苦労だな」
「まだよ!」
アリアはそう言ってカインを狙って来たモンキルを水砲で撃ち抜いた。
「この魔物達、どこから湧いて出てくるかを突き止めないと!」
「分かってる!」
次々に湧いてくる魔物や魔獣の数に応戦しながら二人は瘴気の濃くなる方へと進む。
『こちら、マリウスだ。ジョルノ通りに魔物が発生した。俺が向かう。それぞれの持ち場で空間の歪みを処理したら応援を頼む』
リアンでマリウスがそう言った。アリアとカインは顔を見合わせる。
「マリウス団長一人じゃ危ない」
「ええ、急がなきゃ」
二人は歩みを速めた。




