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奴隷の呪いと  作者:


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89/104

89. 土産

「お前達、婚約者に早く会いたいからって飛ばしすぎだろ?次の街で休憩だ!」

 マリウスは馬を走らせながらスタークとキリアに叫んだ。


 同盟国の軍事会議を追え、サリナス国からラスタへと帰国の途中、三人は砂漠のオアシスにある街に立ち寄った。

「マリウス団長だって奥さんが待ってますよ?」

 食堂で喉を潤しながらキリアはマリウスに言った。

「うちは結婚して長いからな。もう遠征や派遣で長いこと家に帰らないのも慣れてるさ。女なんて逞しいもんだ。夫がいなくても屁とも思っちゃいねぇ」

「まぁ…確かに、女性の方がメンタル強かったりするな。スタークのとこもだろ?」

「メンタルどころか、全てにおいて男は女には勝てないんですよ。争ったらダメだ」

 スタークの言葉にマリウスとキリアは顔を見合わせ、笑った。

「お前が一番若いのに、一番分かってるな」

「ほんとは今すぐにでも、俺達を置いて空間移動で王都まで帰りたいんだろ?」

「すぐ帰っても、どうせまだ就業時間ですよ」

「この感じだと、夕方には王都に着きそうだな」

「アリアとユリアさん、すっかり仲良くなったみたいですね。一昨日、魔法省に行った帰りに女子会したって風メールで言ってましたよ」

「ああ、ユリアからも嬉しすぎてメールが来たんだ。彼女自身は風メールを送れないから、彼女の父上からだったが…」

「マリウス団長は結婚してどのくらいですか?」

「ん、あぁ、俺が二十歳の時だから…そういやもうすぐ二十年だな、丁度」

「!」

「マリウス団長、ちゃんと奥さんに何かするんでしょうね?」

「するって何を…」

 スタークとキリアは顔を見合わせた。

「結婚記念日、いつですか?」

「まさか、毎年何もしてないわけじゃないですよね?」

 二人に問い詰められ、マリウスはたじろいだ。

「…結婚記念日は、新年明けた一月の一日だ。俺が忘れないようにその日にしたが、新年の祝いはするが、結婚記念日を祝ったことなんてないな」

「もうすぐじゃないですか!来月ですよ?」

「奥さんは何も言わないんですか?」

「ん、新年おめでとう、今年もよろしくってお互いに言うだけだ」

「…マリウス団長、そのうち見捨てられても知りませんよ?」

「おいおい…うちは二人とも平民出身だぞ? 騎士で功績を上げたから爵位はもらったが、そんなお祝いするような柄じゃない」

「いやいや…なぁ、スターク」

「奥さんは不満や愚痴は言わないんですか?」

「金は好きに使っていいって言ってるが、別に何も買わないし、社交も好きじゃない。騎士の仕事が忙しいのは当たり前だ。不満とか愚痴も聞いたことない。今は娘が産んだ孫の世話でてんてこまいだ」

「…マリウス団長、お土産を買って帰りますよ。確か、この街はサボテンから作られた酒が特産品だったな…」

「お酒は飲まれるんですか?」

「まぁ、少しな」

「甘い物は?」

「好きなはずだが…」

「キリアさん、お酒より、珍しい果物がいいですよ」

「ああ、そうだな。俺もユリアに…」

「マメだなぁ、お前達」 

「団長、マリウス団長が無事に騎士として国を守れるのは誰のお蔭か自覚するべきですよ」

 スタークはそう言ってため息を吐いた。

「う…」

「感謝とか気持ちは、ちゃんと言葉や形に表さないと意外に伝わらないものなんです」

「男は一生、女に借りを返す為に生きてるんですよ?」

 キリアの言葉に頷くスターク。二人を見て

マリウスは唖然とする。

「お前等…なんか…若いのに達観してるな」

「いいから、行きますよ」

 二人に連れられ、マリウスはバザールに行った。


 王都と違い、冬でも温暖な砂漠地帯の街は王都では見られない果物や野菜が売っている。

「なんだ、これ…」

 マリウスは黄色い丸い実を手に取る。

「これはルノーの実ですね。トロピカルな味で、酸味がないんです」

「これは?」

「トルトと言って、クリーミーな…」

 スタークはそう説明を止め、マリウスを見た。

「?」

「お土産やプレゼントは、相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら選ぶんですよ。きっと奥さんはこんな果物食べたことないから、団長と二人でどんな味かを楽しみながら食べると思いますよ。だから、団長が食べてみたいものを選んで下さい」

 マリウスはスタークの言葉に自分の妻の顔を思い出し、二人でこの未知の果物を食べているところを想像した。

「なるほどな。じゃあ、店主、これとこれとこれ、あと、これもくれ。全部、中身を食うんだよな?」

「そうですよ。これは殻が硬いから、刃物で二つに割ってスプーンで食うんです」

「へぇ…」

 マリウスは見たこともない果物を一通り買うと、向かいの露店に売っている赤紫のストールを見つめた。

「相手の喜ぶ顔か…」

 マリウスはそう呟き、そのストールを身に着けている妻の顔を思い浮かべる。

「…店主、そこの赤紫のストールをくれ」

「これかい?お目が高いな、騎士様。この地方で作られた絹だよ」

「ああ、それにするよ」

 マリウスは商品を受け取ると少し温かい気持ちになった。

「…土産を選ぶってのは、案外楽しいもんだな」

「でしょ? 一刻も早く帰りたくなるでしょ?」

 キリアのドヤ顔にスタークはクスッと笑いながら、スタークも果物をたくさん買った。 



 騎士の砦に着いたのはすっかり暗くなった夜七時だった。馬舎に馬を返し、それぞれ家路に着く。

 マリウスは果物が入った袋を抱え、ストールは懐に入れ、屋敷に着いた。

「ただいま」

「あら、お帰りなさい。明日になる予定じゃなかったかしら?」

 妻のシキノは編み物をしていた手を止め少し驚いて立ち上がった。 

「明日に帰る予定だったんだが、若い二人が早く帰って婚約者に会いたいらしく馬を無理させたんだ」

「あらあら、馬が可哀想に。で、あなた、夕飯は?」

「ああ、軽く食ったから…それより、これ、土産だ」

 マリウスはぶっきらぼうに果物の入った袋をシキノに渡した。

「え!?」

「そんな驚くかよ?」

「…何?」

「途中、砂漠のオアシスの街に寄ったから…見たこともない果物だし、お前と食べてみようと思って」

「…」

 シキノはマジマジとマリウスの顔を見る。マリウスは少したじろぎながら、懐から紙の袋を取り出した。

「それと…これ。お前、こう言う色、似合うかなと思って」

 シキノは袋を受け取ると中を見た。鮮やかな赤紫色のストールを手に取り、シキノは困惑した表情でストールを見つめている。

「あ…あんまり、好きじゃなかったか?別に、付けなくても…」

 シキノはストールを握りしめ、嬉しそうに微笑んだ。その笑顔にマリウスはドキッとする。シキノは照れを隠すようにマリウスを睨む。

「な、なんなの?浮気でもしたんじゃないでしょうね?」

「バ、バカ。何でそうなるんだよ!?」

「だって…私にこんな物を買ってくれたり、お土産なんて…なんかやましいことがあるんじゃないかって!」

「浮気なんかするわけないだろ…。いや…その…うちの若い奴らから怒られて…」

「?」

「俺が騎士としてやっていけてるのはお前のお蔭だって…。感謝は形や言葉にしなきゃ伝わらないって」

「そんなことは…」

「いや、その…まぁ…なんだ、感謝してる」

「…」

 その言葉にシキノは固まった。

「チッ…慣れないことはするもんじゃないな。浮気を疑われるなんて…」

 シキノはクスッと笑い、マリウスを見た。

「あなたが浮気なんてできるとは思ってないわよ。いつも…感謝や思いやりはちゃんと伝わってるわ。でも、たまにこんなことされたら…」

「?」

「うれしくて泣いちゃう」

 シキノはそう言ってストールを握りしめ、目に涙をためて笑った。

「…やっぱり似合うな、その色」

 マリウスはそれを見て照れくさそうに笑った。






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