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奴隷の呪いと  作者:


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87. レオ

「ラステルさん、すみません、忙しいのに」

 スタークはレオを連れ、魔法省のラステルの執務室に来た。

 部屋の壁は本で覆われ、日の光が全く差し込まない。棚の中には魔宝石や水晶が飾られてあり、レオはキョロキョロと興味深げに見つめていた。

「いや、かまわんよ。君こそ忙しいみたいだな。魔法省の書庫に暇さえあれば通ってるらしいじゃないか」

「ええ。属性の相性について気になって」

「相性?」

「…昔アリアと初めて会った時、エンタングルメントを起こしたんです」

「ああ、ジェイドから聞いたよ」

「アリアの腕には俺の雷の雷紋が走り、俺の腕は圧力で骨が折れていたんです」

「雷と重圧か」

「重力だけでなくアリアは圧力も操れる。おそらく、気の属性も交われば気圧も。気圧が低いと俺の雷は威力が増します」

「科学か。確かに、組み合わせ次第で威力が増すだろうな」

「最近、魔物の数が増えてきてます。兄が言うには太陽フレアの動きも活発で大陸の磁場に影響が出ると言ってました」

「そうなんだ。磁場のせいで結界も弱くなっている。やはり不吉な予兆だと騒ぐ奴らもいる」

「騎士団も今まで以上に備えなければ、カラパイトの二の舞になりかねません」

「そうだな。ジゼルの件もある。今は不気味な程、静かだが…ユリア嬢の無限魔法を狙う魔物はジゼル以外にもいる」

「無限魔法を狙う目的はなんですか?」

「奴らは次元の違う空間から、ねじれにより、こっちにやってくる。奴らからすれば、瘴気のない世界は空気が違う。無限魔法でこちらを瘴気で覆われた場所にしたいんだろう」

「…カラパイトが巨大な魔物に襲われた時、磁場が王都に発生した。だから、魔石に雷で磁力を込め、王都から離れた場所に磁場を移したんです。もしもの時の為にラスタでも大きな魔石を用意しておかないと」

「そうだな。おっと…すまないね、君の属性を視る約束だったな…」

 ラステルはそう言ってスタークの横で魔石の図鑑を興味深げに見ているレオに目を向けた。


「レオです。よろしくお願いします」

 少しかしこまった挨拶をするレオにスタークはクスッと笑う。

「ラステルだ、よろしくな。これはまた…アリアとカインを混ぜたような子だな」

 ラステルの言葉にスタークは苦笑する。

「マンダリやジオルグでは銀色の髪は珍しくないのかな?」

「たまにいたけど…俺の兄ちゃんは銀じゃなかった」

「そうか。街の教会では属性が分からなかったって? 魔力が弱いわけでもなさそうだな」

「マンダリで覚醒した瞬間、兵士が何人か倒れたらしいです」

「そうか、では、視てみよう。レオ、この水晶に手を置いてごらん」

 ラステルはそう言って直径二十センチ程の水晶を差し出した。

「そう言えばスタークとアリアには水晶を壊されたな。スタークが壊したのは特大の高いやつだったんだぞ?」

「そんな小さい頃のことを言われてもね」

 スタークが苦笑するとラステルは小さく呪文を唱え始めた。

「!」

 レオの掌から黄色い光が出て水晶に吸い込まれて行く。レオは少し怖がりながらもその光を水晶に送り込んでいく。

「うわ…!」

「ほう…これは…」

 ラステルはそう呟いてレオの手に触れた。

「もういいよ、レオ」

 ラステルに言われ水晶から手を離すとレオは自分の手を見つめ、胸に当てた。

「どうした?気持ち悪い?」

「ん…いや、なんか…」

__一瞬…自分の中に自分じゃない誰かを感じたけど、なんだったんだろう。

 レオは言葉にできない感情に戸惑う。

「ラステルさん、わかりましたか?」

「ああ、面白い。属性は火、だが、もう一つ、精神魔法が使える」

「精神魔法?」

「人の意識に干渉する魔法だ。喜怒哀楽を抑えたり、治癒魔法では身体の傷を治したりするが精神魔法では心や魂に作用する」

「前に記憶を改ざんする魔法を使う少年がいました。そんな感じですか?」

「ああ、記憶改ざんや記憶を消すのは禁忌魔法だから少し違うな。稀な才能だが、きっと必要とする人はいるはずだ」

「そんな特殊な魔法、使い方が分からないですね」

「覚醒した時、兵士が倒れたと言ったな? 精神魔法は使い方によっては恐ろしい兵器になる。使い方を正しく学ばなければならない。一人、魔法師に精神魔法をできる者がいる。そうだな、週に一回、習いに来るかい?」

「いいの?」

 レオはスタークの顔を見た。

「君が学びたいと思えば、頼んでごらん」

「…ラステルさん、俺、沢山色んな事を学びたい。スタークさんみたいに、誰かを守れるように。よろしくお願いします」

「ああ、分かった」

 ラステルはそう言ってレオの頭を撫でた。




「レオ、今何が視える?」

 魔法省の魔法師、ウィルソンは瞑想中のレオに話しかけた。

「ん…なんか、小さな男の子が視える。金色の髪に青い目で…あれ、これってウィルソン先生?」

「そうだよ。今、君は私のの記憶にアクセスしてるんだ。小さい頃の僕は何してる?」

「川で遊んでる。水に足を浸して…あ! ウィルソン先生が溺れてる!男の人が助けた…でも…意識がない!」

 レオはそう言って立ち上がろうとした。 

「レオ、集中して」

「…ウィルソン先生が夢を見てる。暗い闇の中に光が…ウィルソン先生が歩いてる。光の先に花畑があって…女の子がウィルソン先生の手をつないでる。先生と同じ金髪の子だよ」

「よし、レオ、戻っておいで」

 ウィルソンはそう言ってレオの手をギュッと握った。その瞬間、レオが我に返る。

「…今のは」

「そう、私の記憶だよ。川に溺れ、意識を失い、幼い頃に亡くした妹と夢の中で会ったんだ。妹は私の手を引いて、肉体に戻る道を案内してくれた。目が覚めたら、私は家のベッドの上にいたよ。それからだ、私の精神魔法が使えるようになったのは」

「人の記憶を視れるのか…俺」

「そうだよ。でも、人の記憶は勝手に視ていいものではない。分かるね?」

「うん。でも、じゃあ、どう言う時に使うの?」

「そうだね、君は将来、騎士になりたいんだろ?」

「うん」

「例えば、魔物に襲われて命を亡くした人の記憶をたどり、どんな魔物に襲われたのかを調査することもできる」

「死んだ人の記憶も視れるの?」

「そうだよ。意識や記憶、人の残した残留思念まで視えるはずだ」

「残留思念?」

「そうだ。この本の意識を先ほどのようにたどってごらん」

 ウィルソンはレオに本を渡した。 

「集中して」

 レオが本人集中すると、本を読んだ人間の顔が頭の中に流れてくる。そして最後、この本を書いた著者の姿まで視ることができた。

「人の意識や想いと言うものは目には見えないけど、念として残るんだ。死んだ人間は死んだら意識がなくなるが、その残った身体には念が残っている。その本にも、書いた著者の念、読んだ者の念が残っている。それを視るんだ」

「分かった」

「毎日瞑想をするんだ。君ならすぐに習得できると思うよ」

「あリがとう、ウィルソンさん」

 にっこりと笑うレオの頭をウィルソンは微笑みながら撫でた。








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