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奴隷の呪いと  作者:


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85/103

85. 束の間

「スタークさん!」

 エルビス孤児院を訪れたスタークにレオが駆け寄って来た。

「やぁ、レオ。ここの暮らしはどうだい?」

 アリアと同じ色の髪をクシャクシャと撫でる。

「うん、なんか…皆すごく優しくて楽しい」

 レオは嬉しそうに笑うと、小さな女の子がレオの足に抱きついて来た。レオはその女の子を優しく抱き上げる。

「なんか…家族ができたみたいだ」

 マンダリからラスタに来てまだ一週間も経っていないのに、少しふっくらした気がする。

「そうか、良かったな」

 スタークの笑顔にレオは顔を赤くする。

「スタークさんの騎士の格好、すごくカッコ良い…」

「あリがとう」

「レオ! その騎士様は誰?」

 レオと同じくらいの歳の男の子もレオに抱きついて来た。

「ん、俺の師匠だ!すごい強いんだ!」

「へぇ…カッコ良いな!だからレオは騎士になりたいのかぁ」

「おう」

「いいなぁ、俺もなりたい。でも…孤児でも騎士になれるのかな…?」

 スタークは膝を折り、二人の目線に合わせる。

「なりたいと強く思えばなれるよ。できない言い訳より、自分に今出来ることを探すんだ。騎士は人を守る仕事だ。強くなければ誰も守れない。強くないとなる資格がないんだ」

「…じゃあ、俺は何から始めればいい?」

「そうだな。毎朝ここから城まで走って帰って来る。それを毎朝するんだ。あと、腹筋、腕立て伏せ、朝晩百回ずつ。もしそれを一ヶ月続けられたら、次にやることを教えてあげるよ」

「やる!」

「俺も!」

「騎士になるには勉強も魔法も必要だ。ここでは教育が受けれるんだろ?」

「うん。午前中は勉強だよ」

「しっかり勉強するんだ。きつい時もあるし、サボりたい時もある。けど、何故それをするのか、考えろ」

「…分かった」

「最後まで目標を忘れなかった者が、夢をかなえるんだ」

 スタークの言葉にレオもその友達もしっかりと頷いた。

「あら、スターク様。もう騎士団のスカウトですか?」

 キャロラインが笑いながら声をかけた。

「やぁ、キャロライン。いい孤児院だね。清潔だし、雰囲気が明るい」

「スターク様、ご無事で良かったですわ」

「レオを受け入れてくれてあリがとう。キャロラインはいつもここに来ているのか?」

「仕事場をこちらの建物の二階に移しましたの。手が空いた時は子供たちと一緒にいれますもの」

「教育が受けれる孤児院なんて、素晴らしいね」

「午後は子供達に事業を手伝ってもらってるんです。お金を稼ぐことも大事な勉強ですもの」

「そうだね。…もし、希望者がいるなら、週に二回くらい、騎士団から剣術の稽古をつけに人を送ろうか?」

「まぁ!すてきなアイデアですわ!きっと習いたい子はいるはず。女の子も含めて」

「子供相手に基礎を教えるのは若手の騎士の勉強にもなるはずだ」

「沢山の選択肢を与えてあげれますわ」

 キャロラインはそう言って子供たちを見ながら微笑んだ。

「レオが馴染めたみたいで安心した」

「人懐こいんですもの。なんかカイン様みたいな性格で」

「俺も最初そう思ったよ。しかもあの髪色にあの瞳」

「…カイン様が言ってらしたわ。アリアがまるでアリアとカイン様の子みたいって言ったんでしょう?」

「あーね」

「全く。アリアったら」

 キャロラインは呆れて笑った。

「レオの属性は分かったの?」

「それが街の教会に連れて行ったのですが、そこの方では分からなかったんですの」

「そうなんだ? じゃあ今度ラステルさんに見てもらおう」

 スタークは皆で楽しそうにしているレオを見て安心したように微笑んだ。


「ちなみに、今日はキャロラインに頼みがあって来たんだ」

「あら、なんですの?」

「婚約指輪を用意してほしいんだ」

「!」

「ほんとはすぐ贈りたかったんだけど、色々あって。でもちゃんとした物を贈りたいから、キャロラインに頼もうと思って」

「任せて下さい! ちなみに石は魔宝石ですか?」

「いや、もう贈ったネックレスに使ってるから、干渉してしまう。純粋にアリアに似合う物を…。ちなみに、キャロラインのその婚約指輪は素敵だけど、カインが選んだの?」

「カイン様が私に内緒で私の両親に頼んでくれてたみたいで。私の好みは母が一番知ってるから、母とカイン様で選んでくれたんです」

「確かに…カインだけじゃ選べないよな」

「フフ。あの兄妹は素材がいいから、装飾には無頓着なんです。じゃあ、私がいくつか提案するのでスターク様が選んで下さいね」

「ああ、助かる」

 キャロラインはスタークの笑顔を見てニヤリと笑う。

「スターク様、幸せオーラが毛穴から出てますよ」

「…君までそんなこと」

 スタークは顔を少し赤くしながら笑った。




「新月討伐…今回は無事終わったわね。キリア隊長からも特に連絡なかったから大丈夫だったみたいね」

 アリアは馬を砦の馬舎に繋ぎ、カインに言った。

「ああ。魔物の数は増えてるけど、これなら新人達にもいい実戦練習になる程度だ。アリア、背中は大丈夫?」

「ええ。今夜はあまり疼かないわ。コストリアの王子が拐われてから不気味な程、ネリとジゼルの動きが静かな気がする」

「ああ。前回のアリアに腹を刺されたダメージが残ってるからじゃないかな」

「お祖父様もティクルに戻られたし、このくらい平和が続くといいのだけれど」

「そうだね。先月の新月討伐以来、ケルンやキケがすごい稽古に励んでるらしいよ」

「みたいね。良いことだわ」

「空間移動で家まで送って行こうか?」

「大丈夫よ、私は明日昼過ぎからだから…」

「俺が送るから大丈夫だよ、カイン」

 サンクニルの森からスタークが馬で帰って来た。

「スターク。早かったんだな」

「ああ。今夜は面倒だったから、一気に魔法陣で片付けた」

「それ、マリウス団長に怒られるやつだ。新人の為にならないって」

「あーね。ちゃんと口止めしてるから大丈夫。カインは明日は朝からだろ?」

「そうなんだよ。二人の邪魔はせず消えるよ。じゃ、おやすみ、二人とも程々にね」

 カインはそう言って、空間移動で消えた。

「程々にできるわけない」

 スタークはそう呟き、アリアを見た。

「背中、大丈夫?」

「ええ。分かるでしょ?」

「ああ。先月とは全然違う。帰ろうか」

「ん、歩いて?」

「いや、新月の夜は暗いからね」

 スタークはそう言ってアリアを抱きしめ、空間移動をした。

 

「あら、スターク!アリア、お帰りなさい。」

 屋敷に帰るとヴィオラが玄関先に出て来た。新月討伐の日はヴィオラはアリアが心配で必ず起きて待っていてくれる。

「ただいま、お母様」

「こんばんは、ヴィオラさん」

「上がって。今日はユルゲイが出張なのよ。そうだわ!スターク、明日は早いのかしら?」

「いえ、アリアと同じ昼からですよ」

「泊まってってくれないかしら。ユルゲイがいないから心細いわ」

 ヴィオラの申し出に二人は顔を見合わせる。ユルゲイはいてもいなくてもあまり関係ないのでは…とアリアは少し思ったが、ヴィオラはこっそりとアリアにウィンクした。

「いいんですか?」

「ええ。お風呂の用意はしてるわ。二人とも疲れたでしょう?先にスターク、入って来て」

「俺は後からでも…」

「一応、まだお客様だからお先にどうぞ。まだ結婚前だから、二人でとは言えないけど」

「お母様!」

「ハハ、じゃあ、お先に入らせて頂きます」

 スタークを先に入らせ、ヴィオラがアリアにハーブティーを淹れてやる。

「あリがとう、美味しいわ。でも、お母様、どう言うつもり?」

「あら、何が?」

「だって、お父様がいなくても私がいたら心細いなんてことないでしょ?わざわざスタークを泊めるなんて」

「あら、野暮なこと言うのね。だって、朝までゆっくり二人で過ごしたいかなと思って」

「!」

「私だって昔は恋する女の子だったのよ?でもユルゲイは生真面目だし、仕事も忙しいでしょ?中々結婚前は会いたくても会えなかったの。もっと…二人きりで一緒にいたいって思ってたわ」

「確かに…お父様って不器用だものね」

「でしょ?私はアリアに結婚前の恋愛も楽しんでほしいわ」

「お母様って…器の広い女性なのね」

 スタークが風呂から上がって来るとヴィオラはスタークに言った。

「スターク、ごめんなさい。お義父様が使ってた客間がまだ片付いてないらしくて。申し訳ないけど、アリアと同じ部屋を使ってくれるかしら」

「!」

「カインから聞いたわ。アリアを狙ってる魔物がいるんでしょ?心配だわ、ね、アリア」

「え、あ、ええ」

「じゃあ、私はもう寝るわ。よろしくね、スターク。明日の朝食はゆっくりでいいわ。おやすみなさい」

 ヴィオラはそう言うと部屋を出て行った。

「…アリア、これって…俺、ヴィオラさんに試されてる?」

 スタークは少し困った表情でアリアを見た。

「フフ…さぁ、どうかしら。私もお風呂に入って来るわ。先に部屋に行ってて。寝ててもいいわよ」

「眠れるわけない」

 スタークはそう呟いた。



 スタークの腕の中でボンヤリと目が覚めた。朝日が部屋の中に差し込んではいるが、朝の空気はヒンヤリとする。

 まだ寝起きでフワフワとした感覚で、アリアは自分より温かいスタークの体温が心地良く、無意識に身体をピタリとスタークの肌にくっつけた。

「…」

 スタークがそれに応えるようにアリアの身体をギュッと抱きしめる。アリアはハッと目が覚め、スタークの顔を見た。

「…起きてたの?」

「うん。おはよう、アリア。大丈夫?」

 スタークは愛おしそうにアリアの額にキスをする。

 意識が飛び、そのまま眠ってしまった昨晩のことを思い出し、顔が赤くなる。アリアはそれを悟られないよう、スタークの胸にしがみついた。

「…そんな可愛いことされたら、また欲しくなるよ、アリア」

「!…ごめん」

 アリアは慌ててスタークから離れようとしたが、スタークはガッチリと身体を密着させたまま、離れない。

「…スターク、また…」

「うん…アリアがくっつくからだ。ちょっと待って…動かないで。静めるから…」

 スタークは深呼吸をする。

「…いいのに…我慢しなくても」

「誘惑しないで。…朝まで何度もしたから、アリアの身体が心配だ」

 スタークはそう言ってアリアの背中を擦る。アリアもスタークの背中に手を回す。お互いの奴隷紋に掌を当て、二人ともしばらく黙ったまま、身体から伝わる鼓動を感じていた。

「…一つになれる悦びを知っても、怖いと思うのは私だけかしら…」

 アリアが掠れた声でそう言った。

「…同じだよ。幸せなのに…アリアを抱けば抱くほど…満たされるのに、怖くなる」

__アリアを失うことが…

 スタークはグッと言葉を飲み込んだ。

「そうね…多分…同じ気持ちだわ。スタークは…私のためなら何でもするでしょ?」

「うん…」

「それが…怖いの」

 スタークはアリアを抱きしめ、アリアの瞳を見た。

「この奴隷の呪いを解いたら…結婚してくれる?アリアが俺を幸せにしてくれたように、俺がアリアをずっと幸せにするから」

「だったら…約束よ。絶対に…死なない約束」

「ああ。絶対に死なない。アリアも死なせない」

「うん…」

 二人は唇を重ねた。唇を外すとスタークはアリアの髪を優しく撫で微笑む。

「はぁ…一生こうしていたい」

「うん…」

「でもそろそろ、アリアのお腹が鳴る頃だ」

「フフ、よくわかったわね」

「アリアのことは全部知り尽くしてるから」

「私だってスタークの気持ちは分かるわ」

「じゃあ俺の今の気持ちは?」

「ん…分かってるわ。もう一回でしょ?」

 アリアは少し恥ずかしそうに笑い、スタークの頬に両手を添え、キスをした。




 








 

 

 





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