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奴隷の呪いと  作者:


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81/103

81. 魔獣

「俺はスターク。名前は?」

「キュイ」

「私はアリアよ」

 スタークは軽々とキュイを馬に乗せ、その後ろに跨った。

「案内して」

「うん、こっち」

「お父さんは大丈夫なの?」

「…足を爪で掴まれて折れたんだ。必死で逃げて帰って来たみたいだけど…まだ寝てる」

「何の魔獣かしら…。お父さんは何で森に入ったの?」

「仕事だよ。木を切るのが仕事なんだ」

 三人が森の入り口に到着すると小さな家の前でキュイの母親が心配そうな表情で家の前に立っていた。

「あ…母ちゃん」

「! まさか…本当に勇者様を連れてきたの!?」

 馬に跨るスターク達を見て母親が驚いた顔をした。二人は馬を降りる。

「母ちゃん、このお兄さん達が魔獣をやっつけてくれるって!」

「勇者様…も、申し訳ありませんが、うちにはお支払いするお金が…」

 スタークは母親の言葉を遮る。

「残念ながら、勇者ではありません。だから、お金はいりません。ご主人に会わせていただけますか?」

「…本当ですか?」

 疑う母親にアリアが笑顔で言った。

「訳あってこのような服を着ていますが、同盟軍の騎士です」

 アリアはそう言って魔法で小さくしていた剣を大きくして見せた。マンダリの騎士から奪った剣だ。

「そ、そうなんですね! どうぞ、中に!」


  中に入るとベッドで横たわる父親は足に包帯を巻いたまま、うなされていた。

「…熱が出てるんですか?」

「はい。足の傷が深くて…ここには医者も治癒士もいないので…」

  アリアはスタークを見た。いつもなら治癒はカインがする。アリアもスタークもカインほどの治癒力はない。

「二人でやろう。一人よりはマシだろ」

「そうね」

二人が包帯を取ると、父親の右の膝下には大きな爪痕が三本、ふくらはぎに一本あった。赤くパンパンに腫れ、父親の意識はない。

「つかまれたみたいね」

「ああ、傷が化膿してるし、骨も折れてる」

「気の魔法で毒素を出すわ。スタークは骨をお願い」

「わかった」

 二人は手をかざし、治癒していく。アリアは水魔法で身体を冷やしながら、毒素を身体から抜いて行く。父親の顔色が良くなっていき、十五分程で意識が戻り、傷も回復した。


「…どうして…」

 不思議そうに身体を起こし、父親は呆然としてアリアとスタークを見た。

「騎士様達が助けてくれたのよ!」

「なんて…あリがとうございます!信じられない!」

「いえ、できることをしたまでです。それより、森のどこでどんな魔獣に襲われたんですか?」

「…昨日森に入ったら、いつもより魔物が多かったんです。この森は瘴気も少なく、あまり魔物がいないはずなのに。小さな魔獣や魔物なら俺でもなんとか出来るからと思って奥に進むと、銀色の見たこともない魔獣がいて、いきなり襲って来たんです。避けたつもりが足を掴まれ、それでも必死で逃げて帰ってきたんです」

「銀の魔獣…見たことないな」

「私もないわ。ウォルフかしら」

「いや…翼があって…まるで竜のような。竜は見たことないけど」

「…竜はこの地域には生息してないですよね?」

「はい、聞いたこともない」

「…案内をお願いできますか?必ずお守りしますので」

「はい、大丈夫です」

父親はそう言って立ち上がった。


「…瘴気が発生してるな」

「昨日より濃くなってます」

 森を進むにつれ、瘴気が濃くなっている。防御膜を張りながらさらに進むと瘴気で真っ暗になった。

 魔物のうめき声と何か獣のような鳴き声がする。 スタークは何が起きているのかを見極めようと風魔法で瘴気を吹き飛ばした。

「! 何、あれ」

 魔物や魔獣が集まり、何かを攻撃し、覆っている。

「よく見えないな…」

「任せて」

 アリアは水魔法で水の竜巻を起こし、一気に魔物の黒い塊をなぎ倒した。

「!」

 大きさは二メートル程の高さで、銀のたてがみに銀の鱗、濃いハチミツ色の目をした竜だった。

「…何これ」

 アリアとスタークは初めて見る竜に驚きを隠せない。

「…竜だ。でも…まだ成獣じゃない。子供だ」

  スタークはそう言ってアリアを見た。スタークの視線にアリアは顔をしかめた。

「これ、私と似てるって思ったでしょ」

「うん、アリアみたいな竜だ。可愛い…」

 銀の竜はアリア達に威嚇している。キュイの父親は恐ろしくてスタークの後ろで震えている。

「竜みたいなって…まんま竜ですね」

「す、すみません、竜は見たことなかったので…」

 スターク達でさえ、本物は初めてだ。絵本や図鑑など、平民は見る機会もないのて当然である。

「…なんで魔物に襲われてたのかしら」

「…腹をケガしてるみたいだ。血が出てる。その血に魔物が寄って来たのかも。竜の血には強い魔力があるって聞いたことがある」

「…竜って魔獣?」

「うーん、魔力はあるけど、種類によっては聖獣と呼ぶ地域もある。俺も初めて見たけど…綺麗だ」

 スタークはそう言って少し近付く。

「…治癒してみる?」

 アリアの提案にキュイの父親が驚く。

「き、危険です!近づいたら」

「水縄で縛るわよ?」

「うん」

 アリアが竜を水縄で縛ると竜が暴れ出した。スタークは近付き、二メートル程離れた場所から手をかざした。

「怖くないよ…大人しくして」

 しばらくはバタバタと抵抗していた竜も自分の腹の傷が癒えていく感覚に大人しくなっていった。

「よし、傷は塞がった」

 竜は傷が塞がった腹をじっと見つめ、舐めてみる。

「よくなっただろ?」

「…触ってみたい」

 アリアの言葉にキュイの父親が首を振った。

「ダメです! いくらなんでもそれは…」

「目を見て。攻撃的な目じゃなくなったわ」

 先ほどはハチミツ色の瞳の中に瞳孔が線でしか見えなかったのに、今は瞳孔が丸くなってくる。

「可愛いわ、猫みたい」

 スタークとアリアの目がまるで新しいおもちゃを見つけた子供の様にキラキラしている。

「触ってみようか」

「うん。癒しの魔法を使ってみましょ」

「ああ」

  二人は癒しの魔法を使いながらそっと触れる。

「硬い鱗…」

「痛かったでしょ?もう大丈夫よ」

 優しく声をかけ、アリアはたてがみを撫でた。スタークは竜の眉間を掌で撫でる。

「水縄を解いて」

「ええ」

 アリアが水縄を解くと竜は逃げることもなく、グルグルと気持ち良さそうに喉を鳴らしてスタークにすり寄った。

「…アリアみたい」

「…それ、複雑だわ」

「だって、可愛い」

「確かに…可愛いけど」

「…どこから来たんだろう。魔力を少し分けてやろう。そうすれば飛んで帰るだろう」

「そうね」

 スタークは自分の魔力を竜に流し込んだ。竜は目を閉じ、魔力の流れを感じているようだった。

「…! スターク、見て」

 竜の頭上に光の魔法陣が浮き出た。

「これ…魔法陣?」

「うーん、竜の魔法陣かな」

 魔法陣はスタークの頭上に降りてくる。

「契約魔法?」

「敵意はないみたいだけど…従属の契約かな?」

「魔法書でしか読んだことないわ。でも、どっちが主?」

「俺が従う方だったら、笑うね」

 スタークがそう言って笑うとキュイの父親が驚いて尋ねる。

「契約するんですか!?」

「やってみようかな…」

「もし、あなたがこの竜に仕えなければならなくなったらどうするんですか!」

「まぁ…そうなったらそうなったで面白そうだし」

「やってみてよ、スターク」

「ああ」

 スタークは自分の契約魔法の魔法陣を出した。光る二つの魔法陣が重なり合う。

「…なんか契約したみたい」

「なんの契約かしらね。でもきっと、カインが見たらびっくりするわ」

「魔法陣の意味は帰ったらラステルさんに聞いてみよう。さ、もう大丈夫だよ、自分の家に帰りな」

 スタークがそう言うと竜はスタークに顔をこすりつけた後、翼を広げた。

「わぉ…キレイ…」

「またね。気を付けてね」

 スタークは竜を撫で、少し離れた。竜は羽ばたき、飛び立つと空中に消えた。

「消えたわ」

「竜は俺達とは違う次元の空間に住んでると聞いたことがある」

「じゃあ、そこに帰ったのかもね」

  三人は元来た道を戻り、キュイと母親の待つ家に帰って来た。


「これで明日からまた仕事できますね?」

「はい! 本当にあリがとうございました。騎士様達がこんなに強いなんて」

「今回のことは人には言わないでもらえると助かります。竜のことも」

「わかりました!本当に…何もお礼ができなくて…あリがとうございました」

「気にしないで下さい。キュイの行動力に協力しただけです」

「あんな奴らより、スタークさんとアリアさんの方が本物の勇者様だ」

「あリがと、キュイ。ちゃんとお父さんとお母さんの手伝いをしてあげてね」

「はい!」

「じゃあ、失礼します」

 キュイ達に別れを告げ、二人は馬に乗り、宿まで帰った。



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