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奴隷の呪いと  作者:


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80/104

80. 冒険者

 午前中、森を抜け、マンダリとジオルグの国境まで来た。

 サンドラが民衆の前で処刑され、オニキスが正式にマンダリの王となったことを耳にした。王都では民衆達が歓喜の声を上げ、新しい王を歓迎した。そして大陸同盟に加盟を申請すると表明した。

 国境付近の街でもその話題で持ちきりだ。


「若い王の誕生ね。スタークと同じくらいの歳かしら…」

 噂を耳にしながらアリアが尋ねた。

「俺、そんなに老けてる?」

 スタークが少し複雑そうな顔をする。

「え?オニキス王はいくつ?」

「確か二十九歳だと思うけど」

「若く見えたわ。身体が弱かったからかしら」

「レオにもオジサンって言われたし」

「フフ、レオからすれば私もオバサンだわ。全然老けてないわよ。私なんか、変化魔法でマルレになった時は、トシマとか、クソババアって言われたのよ?」

「マルレの時もアリアは綺麗だったよ。ちなみに、なんでマルレって偽名だったんだ?」

「カインと前日食べたのがマルレットっていうリンゴのパイだったの」

「リンゴパイの名前か…」

 スタークはクスッと笑った。

 

 検問は王権交代のせいであまり機能しておらず、出国はスムーズにできた。

 

 二人はたまに馬を歩かせたりしながらミズのいるジオルグのサンティアナの町を目指す。

 王都を避け、田舎町を通る。途中、魔物に襲われたのか、廃虚となった村もあった。


「ジオルグを統治する王がいないから、国として機能してないのね…」

「…治安も悪い。誰かが統治しようとしても、今までネリがそれを阻止してきたんだ」

「自分が統治するわけでもなく…ただ壊したいだけなのよ」

 アリアは罪悪感で胸が痛む。

 大陸同盟が介入してはいるが、統治する者がいなければ犯罪も多い。国としての事業は何もなされてはいない。王都やその周辺の大きな街では同盟軍の兵士が派遣され、救援物資や治安警備はされているが、あくまでも最低限のレベルである。


 ジオルグ第二の都市、サナリクに着いた。商売の盛んな土地で、人口も多く、チラホラと同盟軍の兵士もウロウロしている。

「意外に人が多いな…」

「ええ、同盟軍の兵士もいるわ」

「…アリア、念のため、変化魔法、しといたほうがいいかもね。アリアは目立つから。」

「あら、スタークだって。なら、二人で同じ髪の色にしてみる?」

「いいね。何色?」

「そうね。黒はどう?」

「よし。じゃあ…」

 二人は一斉に変化魔法で髪色を黒にした。

「アリア…めちゃくちゃ可愛い」

 アリアの黒髪の姿にスタークは思わず呟いた。黒髪になったアリアはエキゾチックで色っぽく見える。

「スタークもなんか…キリッとしてカッコいいわ」

 黒髪のスタークはいつもよりクールな印象になる。お互いに褒め合い、顔を赤くする。

「少し早いけど、今日はこの街に宿を探そうか。アリアは俺に膝枕して眠ってたから今日はゆっくりベッドで寝てほしいし」

 スタークは馬を降り、道端でリンゴを売っている男に尋ねた。

「この辺の宿は、あの店しかねぇよ。一階が食堂。夜は酒場だ」

「あリがとう…。アリア、ちょっと待ってて」

 スタークはそう言って食堂の方に歩いて向かった。

 胸の開いた派手な服を着た娼婦達が客引きをしている。

「ねぇ、見た?さっきの黒髪の男」

「ええ。いい男。今夜、抱いてくれないかしら。あれなら、私、ただでもいいわ」

「あんたたちじゃムリよ。ああ言うクールな男はプライドが高いのよ。私みたいな女が好きなのよ」

 平民にしては少し高そうな紫色のドレスを着た女がそう言った。

 アリアはその会話を聞き、紫のドレスの女の顔を見た。茶髪に青い瞳、大人の色っぽさを持った女はスタークの入って行った食堂を見ている。

 アリアは少し焦って馬を繋ぎ、店の中に入って行った。


「今日は冒険者達のパーティが二組もいるからねぇ。部屋は一つしか…」

「部屋二つがいいんだ。二部屋あれば、別にお金はいくらでもいい。」

「そう言われてもね~。一人部屋が一部屋しかないのよ」

「ここ以外だと宿はどこにある?」

「ああ、一〇キロ先にあるけど、そこも満杯だよ。同盟軍の騎士達がたくさん泊まってる」

「うーん」

「どうするんだい?」

 宿屋のおかみと話しているスタークの横にアリアは立った。

「一人部屋に二人で泊まってもいいんですか?」

「アリア…」

「ああ、いいよ。宿代、割引してやるよ?」

 宿屋のおかみはニッコリ笑う。

「じゃあ、それで」

 アリアは笑顔でそう言うとスタークはため息を吐く。

「一人分でいいよ。じゃあ、アリアが使えばいい、俺は宿じゃなくても大丈夫だから」

「ううん、二人で一部屋でいいじゃない」

「いや、アリア…」

 スタークは少し困った表情で止めようとするが、アリアは気にしてない。

「恋人なんだからいいじゃない」

「なんだい、恋人なのかい?じゃあ、何の問題もないじゃないか」

「早く、スターク。お金払ってよ」

「…」

 スタークは渋々金を払った。

「じゃあ、用意するね。少し待ってて」

 そう言っておかみがそう言ってその場を離れるとスタークは呆れて言う。

「…アリア、意味分かってる?」

 スタークは少し不機嫌そうに尋ねた。

「意味?」

__あぁ…分かってない、、、。

 スタークはため息を吐き、しょうがないなと呟いて、おかみに言われ、アリアの荷物を持って二階に上がった。

 案内された部屋は狭く、ベッドが一つだけ置いてある。

「狭いけど、清潔だわ。ねぇ、お腹空いちゃった。下の食堂で何か食べたいわ」

「ああ、そうだね」


 二人は食堂で肉を頼んだ。おかみが言っていたように冒険者らしき格好の男達が他のテーブルで食事をしている。腰に大きな剣を差し、昼間から酒を飲んでいる。


「ケイプ、昨日の魔物は少し手ごわかったな。あのデカいモンキル」

「ま。大したもんじゃないさ、確かにモンキルにしてはでかかったが」

「さすが、勇者だな。一人で三匹も殺したんだから」

「どうってことないさ」

 金髪、碧眼のケイプと呼ばれる勇者は酒を飲みながら笑った。声が大きいのでこちらまで聞こえてくる。


「ねぇ、勇者って何?」

 アリアは小さな声でスタークに尋ねた。

「ん、なんか、でかい魔物や魔獣を倒した人が認定される称号みたいなもんだよ。冒険者達は大体、ギルドに所属して、依頼を受けて魔獣や魔物討伐をする。そこで結果に応じてランクを付けられるんだ」

 スタークはそう言ってアリアに肉を切って食べやすくしてやる。

「ありがと。ラスタにはそう言うギルドとか、冒険者っていないわよね?ん…このお肉、美味しい」

「いるよ。ギルドも一応あるけど、ラスタは騎士がいるから、魔物や魔獣が出ても、わざわざギルドに頼むこともないだろ?だから、人探しや、薬草探しとかの依頼がメインのギルドなんだ」

「なるほど…」

「騎士がいても、国によっては騎士を動かさないところもあるんだ。だから国民がギルドに依頼したり護衛を頼むんだ」

「じゃあラスタは治安がいいのね」

「そうだね。それもラジール陛下とジェイドさんがそうしたんだ」

「そうなのね」 

 二人が楽しみながら食事をしていると、食堂の扉が開き、十歳くらいの男の子が一人で入って来た。そしてキョロキョロと店を見回し、冒険者達を見つけて近寄った。


「ん…なんだ?ガキ」

「勇者様、お願いです!大きな魔獣を倒して下さい!」

「?」

「カヤナタの森で父ちゃんが魔獣にやられて、足を大怪我をしてるんです!あの森に居座られたら、父ちゃんは仕事にも行けない!」

「でかい魔獣?」

「はい!」

 勇者のケイプはその子供を一瞥し、酒をグビッと飲んだ。

「お前、俺に金払えるのか?」

「こ、これくらいしかないですが…」

 男の子はそう言って小袋の中にあるコインを出した。

「なんだ、これ。ジオルグの通貨かよ。俺はクランしか貰わねぇよ?しかもそんなでかい魔獣なら、一日千クランは必要だぜ?」

「ク、クランは…」

 子供は泣きそうな顔で立ち尽くす。

「ああ、向こうに行った行った。泣いたって、無駄だぜ?」

「そうだ。俺達は別にボランティアじゃないんだから」

 ガタイの良い髭ヅラの男が手で追い払ってその子供は尻もちをついた。

「ほら、はした金持ってさっさと出て行け」

 子供は投げつけられたコインの入った袋を見つめ、泣きそうにグッと唇を噛みしめた。

「…スター…」

 アリアは立ち上がろうとしたが、スタークはもうすでに子供に手を差し伸べていた。

「えらいな。泣いても解決しないからな」

 スタークの言葉にキョトンとした顔で子供が見上げた。

「俺が倒してやろう。その魔獣とやらを」

 スタークの言葉に冒険者のグループが笑った。

 スタークは気にする様子もなく、子供を立たせ、金を拾ってやる。

「お、ヒーロー気取りか?良かったな、ガキ。倒せるかどうか知らねぇが、助けてくれるボランティアがいて」

「オゥオゥ、兄ちゃん、彼女にいいトコ見せたいのか?」

 バカにしたように笑っていたが、一人がアリアの顔を見て、勇者のケイプに何か耳打ちした。


「なぁ、彼女。彼氏がボランティアしてる間、俺達と一緒に飲もうぜ」

 ケイプがグラスにワインを注ぎ、アリアの前に置いてそう言った。

 アリアがケイプを見上げると、ケイプは一瞬、固まる。

「…こりゃ驚いた。こんな美人、滅多に見ねぇ…。もっと良い酒おごるよ。だから俺と…」

 そう言いかけたがアリアはまるで聞こえていないかのように無言で立ち上がり、手を付けてないパンを子供に差し出した。

「昼ご飯は食べた?お腹空いてたら戦えないわよ?」

 アリアの優しい笑顔に子供は少し顔を赤くしてパンを受け取った。

「さぁ…お腹も満たされたし、運動しに行きましょう、スターク」

「ああ」

 まるで相手にしないアリアにケイプはイラッとして手首をつかもうとした。スタークがアリアを抱き寄せ、ケイプを睨む。

「!」

 その威圧感と冷たい視線にケイプは手を引っ込めた。

「…」

 ケイプが大人しく手を引いたことに仲間は不思議に思い、ケイプの顔を見た。額から脂汗がでている。

「ケイプ…腹でも痛いのか?」

「あ…いや、ああ」

 そう言ってケイプは自分の席に戻った。

 スタークはおかみに支払いをしてアリアの手を繋いて店を出た。


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