79. 旅路 1
「今夜は野営するしかないかしら」
「そうだね」
カイン達と別れ、マンダリとジオルグの国境に向かっていたスターク達は日が完全に沈む前に馬を降りた。森の中、川の近くに荷物を降ろす。
「私、魚を捕るわ。スタークは休んでおいて」
「じゃあ俺は焚き火を用意しておくよ。暗くなるから気を付けて」
「ええ」
アリアは魔法で足元を照らしながら川の中にじゃぶじゃぶと入って行く。岩陰にじっとしている魚を鷲掴みし、岸に投げた。あっという間に四匹捕まえ、ついでに水浴びもする。
「…ふぅ、昨日より冷えるわ」
アリアは魚を木の枝に刺し、スタークのいるところまで持って帰った。
「!」
スタークが作ったピラミッド型のゾーンの中はポワポワと光の粒が舞い、幻想的に輝いている。
「わぁ…キレイ…」
アリアは立ち止まり、ゾーンを見つめた。
「お帰り。遅かったね。水浴びもしたの?」
スタークが果物を抱え、ゾーンの入り口を開けた。アリアから魚を受け取り、火のそばに刺す。
「乾かしてあげる」
スタークは濡れたアリアの身体を風魔法と火魔法でアリアを優しく包みこんだ。
土魔法で火を囲むように階段状に地面を加工してある。
「素敵。このポワポワ浮いてる光は何?」
「サラハシアと言う花の花粉だよ。夜になると光って空気中に舞うんだ。昔、図鑑で見たことがあったから」
「幻想的できれいね。野営なのにスタークがいると宿に泊まるより素敵で快適だわ」
アリアはそう言って火のそばに腰を降ろした。
「魚は魔法で捕ったの?」
「ううん、素手で。久々に昨日、テレシアさんと野営した時にやってみたら、意外と昔みたいに捕れたの。テレシアさん、びっくりしてたわ」
「だろうね。俺も初めて見た時びっくりした。アリアが急に服も脱ぎだすし」
「あの頃はお転婆だったのよ」
アリアの横に腰を降ろしてスタークはクスッと笑った。
「なによ、今も変わらないって思ったんでしょ」
「うん」
スタークはそう言って微笑んだ。その優しい笑顔にアリアはドキッとして目を逸らす。
「はい、シチュー。パンも焼いてみた」
スタークは街を出る時に買っておいた野営用の道具と材料で作った料理をアリアに注いでやる。
「スターク…こんなの作れるの?すごく美味しそう」
「カラパイトでは野営が多かったからね」
「うそ、美味しい!」
アリアの笑顔にスタークも満足そうに笑った。
「本当、居心地良くて、帰りたくなくなっちゃいそう」
「それ、俺の作戦。アリアが俺なしに生きられないよう甘やかしてやるんだ」
「もう」
アリアは少し照れながらスタークの淹れてくれた紅茶を飲む。
「…心配したんだから。私のせいで奴隷扱いされて…。マンダリの兵士が、スタークが男娼になるって言ってたのを聞いて…」
「俺があんなスケスケのフリフリのシャツ着るのがそんなに嫌だった?」
スタークは笑いながら尋ねる。
「うん、イヤだった」
「まぁ…正直、内心困ってたよ。魔法が全く使えないからね。俺がどこに転送されたのかわかんないだろうから、助けに来るのは難しいと思ってたし」
「どうするつもりだったの?」
「まぁ、狩りの時に身を潜めて城に侵入して首輪の鍵を奪うか、サンドラに取り入って首輪を外して貰うとか…まぁ時間はかかるだろうけど」
「それって…」
「ラスタに帰るためならなんだってするつもりだったけど。俺は最高で最強の恋人と親友を持って幸せだよ」
スタークはそう言って笑った。
「たまには…頼ってよ。いつもスタークは私やカインを助けてくれるもの」
アリアはそう言ってスタークの身体を自分の方に引っ張って倒し、膝枕をした。
「!」
スタークは驚いた目でアリアを見つめる。
「奴隷の首輪は一時間おきに音が鳴ったから、あまり寝てないでしょ?」
アリアはそう言って左手でスタークの目を閉じ、瞼の上にそのまま温かい掌を乗せた。
「ゆっくり眠って」
アリアはそう言ってスタークの頬を左手でそっと撫でながら唇にキスをした。
「…そんなことされたら眠れなくなる」
「大丈夫、安眠のおまじないだから」
アリアはそう言って掌から、癒しの魔法を流し込む。
心地良いアリアの匂いと柔らかな温かい温もりにスタークは全身の力が抜けていく。
「おやすみ、スターク」
「おやすみ…アリア…」
抗うことをやめ、スタークはストンと眠りに堕ちた。
アリアはいつもより少しだけ幼く見えるスタークの寝顔を見つめ、柔らかな金の髪を撫でながら座ったまま目を閉じた。




