78.治癒
黒髮にサンドラと同じグレーの瞳をしたオニキス王子はスターク達と同じくらいの歳に見える青年だった。
顔は青白く、華奢で今にも倒れそうな顔をしていた。
「初めまして、オニキス殿下。ラスタ王国の騎士、アリア・セレネ・ハルクと申します」
「…オニキス・リベル・マンダリです」
「すみません、不躾ですが…テレシア、お願い」
「王子、お久しぶりです。街で炊き出しの時以来です。四年も前ですが…」
「あぁ…確か…テレシアさん。なぜあなたが奴隷の格好を…」
「話せば長くなりますゆえ、先に解毒をさせて下さい」
テレシアはオニキスの額に手をかざし、何やら聞いたことない呪文を唱えた。光の魔法陣がオニキスの頭上に描かれた。
「?!」
オニキスの身体から黒い霧のようなものが立ち上がり、テレシアの開いた魔法陣に吸い込まれて行く。
「身体が…軽い!」
「顔色が良くなりましたよ」
カインがそう言うとオニキスはテレシアに深々と頭を下げた。
「…ありがとうございます」
スタークはゾーンに閉じ込められたサンドラを一瞥し、オニキスの前に跪いた。
「ラスタ王国の騎士、スターク・ヘリオス・ステイサムと申します。無礼な格好をお許し下さい。…サンドラの処刑をお望みなら、私が遂行しましょうか?」
オニキスは一瞬迷ったが、首を横に振り、深々とスターク達に頭を下げた。
「…この腐りきった王族と貴族達を一掃して頂いたこと、誠に感謝いたします。私が不甲斐ないため、マンダリをこんな国にしてしまった。サンドラは毒で貴族を皆殺しにしてしまいました。国民の前で死刑に処します」
「…な、オニキス!お前が私を処刑するだと? できると思ってるの?お前みたいな小物に…この国が治められるとでも!?」
ゾーンの中でサンドラがわめきたてている。スタークはパチッと指を鳴らし、転移魔法で奴隷の首輪をサンドラの首に付けた。
「!?」
サンドラは青ざめ、自分の首にはめられた首輪を触る。
「無理に外したり、逆らうとどうなるか知ってるだろう?」
スタークはそう言って床に転がるナジルの頭をサンドラの足元に蹴った。
「ヒィ…!」
サンドラは青冷め、呆然とした。もう抵抗する意欲もなくなったサンドラを見て、アリアはゾーンを解いた。
「 …良識ある貴族達はデクロニールの中毒と聞きました。大陸同盟に加入すれば、その中毒を浄化できる魔法士達を派遣してもらえるはずです」
「あリがとうございます。私にはあなた方に返すものが何もありません。こんなに助けて頂いたのに…」
「…あら、私達は特に何もしていませんわ。腐敗した貴族も、暴力的な騎士達も…殺したのはすべてサンドラですもの」
アリアはそう言ってサンドラを見てフッと笑った。
「返すなら、マンダリの国を再興してその名を轟かせてください。国民が幸せである国にして下さい」
「約束します」
オニキスはそう言って頭を下げた。
「うっわ…痛そう。スターク、すぐ治してあげるよ」
スタークの背中の傷を見てカインは手をかざそうとした。
「いや、カイン。先にレオとテレシアさんの焼印を。まだ定着してなければ消せるだろ?」
「ん、ああ、そうだね。…ん?この子、アリアと同じ髪の色」
カインとアリアはレオをマジマジと見る。
「瞳はカインの色だわ。なんか私とカインの子供みたいね」
「!」
アリアの何気ない冗談にカインはヤバいと思い、焦ってスタークの顔を見る。
「そ、そんなことないよ、ね、スターク」
顔には出さないがスタークの機嫌が悪くなったのをカインだけは気付く。
「レオ、背中を見せて」
カインは冷や冷やしながら話をそらそうとレオの背中を治癒した。
「あれ…痛みが無くなったよ?」
「すごいでしょ?焼印はなくなったわ」
アリアはそう言ってレオに笑いかけた。レオは顔を赤くする。
カインはテレシアの背中の奴隷紋も消し、スタークの背中にある傷を治癒する。
アリアはスタークの頬に顔を近付けた。
「な、何!?」
近い距離にスタークは顔が赤くなる。
「この傷くらいなら私だって治せるわ」
アリアはそう言ってスタークの頬に手をそっと置いた。
「わ…スタークさん、顔が赤いよ」
「じっとしててよ、スターク」
頬の傷を治療するアリアの真剣な顔をスタークは見つめながら自分は幸せものだなと感じた。
「アリアさん、本当にあリがとうございました。あなたのお陰で、子供たちの元に帰れます」
「良かったですね。王宮での仕事をオニキス王子…いえ、オニキス陛下に賜って」
「ええ、これもすべて、騎士様達のお陰です。お気を付けてラスタへお帰りください」
「ええ、テレシアさんもお元気で」
そう言ってスタークとアリアとカインはレオを連れ、出発した。
オニキスから馬を三頭貰い、カインはレオを自分の馬に乗せる。
「二人とも、ありがとう」
スタークの言葉に二人は満足そうに笑った。
「まぁ、スタークが男娼にならずにすんでよかったよ」
「本当だわ。スタークにあのスケスケのフリフリのシャツは似合わないわ」
「そこ?」
スタークは苦笑する。
「大丈夫だよ、スターク。アリアは今までで一番怒ってたから。あの男娼の顔を蹴った時にはびっくりしたよ。それに、サンドラにクソババアだなんて」
カインとスタークは思い出して笑う。
「だって、私が変化魔法を使ってた時に兵士に言われたんだもん、クソババアって。サンドラも言われたら怒るなかなと思って」
「そりゃ、怒ってたね。魔力制御ができなくて毒をまき散らしてたんだから」
「ま、ラスタの騎士が他国の貴族を殺したとなれば、後から誰かになんか言われかねないもの」
アリアはそう言って首を傾げた。
「スターク、でも、よく私の変化魔法、分かっわね。奴隷紋もちゃんと上書きしてたのに」
「そうだよ、なんで分かったの?年齢も、見た目も違うのに。」
「…匂い?」
スタークがぼそっと呟くとアリアは赤くなり、身体の匂いを嗅ぐ。
「え!?私、臭かった!? ちゃんと川で水浴びもしたのに!」
「いや…臭いんじゃなくて…アリアのいい匂いがしたから」
スタークは顔を赤くして言うとアリアも赤くなる。
「はぁ…、完璧ストーカーだな」
「スタークさんってアリアさんにメロメロだね。アリアさんのこと、月の女神って言ってたよ。強くて美人で、笑うとかわいいって」
レオはそう言ってニヤリと笑った。
「馬、二頭でよかったかもね」
カインはそう言うと空を見上げた。もう日が沈もうとしている。
「…そろそろラスタが心配だから、僕はレオと空間移動で先に帰るよ」
「は!?」
「だって、さすがに長距離を四人、空間移動はできないし、スタークだってまだ本調子じゃないだろ?」
カインはスタークにウィンクした。
「そうなの?」
「あ、うん、まぁ…」
「空間移動はかなり身体に負担だろ?だからアリアはスタークに付き添って馬で帰っておいで」
「でも…」
「じゃないと、スタークがまた男娼にスカウトされちゃうかもよ?」
「!それはダメ。分かったわ、私がスタークの警護をしてあげるわ」
「うん。そうしてあげて。これ、お金ね。さ、僕も早く帰らなきゃ、キャロラインも心配してるだろうし」
「お祖父様もきっと、マリウス団長にこき使われてるわ」
「かもね。じゃあ、スターク…」
カインはスタークに耳打ちした。
「アリアに奴隷の格好させたの、これでチャラにして」
「…持つべきものは友だな。カイン、助けに来てくれてありがとな」
スタークの笑顔にカインも微笑んだ。
「さぁ…レオ、しっかり馬の手綱掴んで。じゃあ、ラスタで待ってる!急がなくてもいいからね!」
そう言ってカインは手を振って馬ごと消えてしまった。




