表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷の呪いと  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/104

75. 狩り

 朝九時、始まりのラッパの音が鳴り響いた。五十人の奴隷が一斉に森の中に放たれた。


 狩りをする貴族達には出場する奴隷の顔と金額が書いてある念写画が渡された。生け捕りにすればその奴隷は自分のものとなるが、殺した場合、首を持ち帰ればその金額が貰える。

 狩りに出される奴隷の多くは犯罪者だ。強盗や窃盗、または貴族に対する不敬罪で捕らえられた者が大半だが、中には狩りに出される奴隷が少ない時には、献上された奴隷を人数埋めの為に補充する。

 狩られる奴隷達は手錠と首輪をはめられ、もちろん武器も持てない。一方貴族達は高い参加費を払い、武器や魔法は使いたい放題である。

 狩場は四方を高い壁で覆った森の中で、狩場専用に作られた場所だ。

 朝の九時から翌日の正午まで、捕まらなかった奴隷は釈放が約束されているが、定かではない。


「へぇ…金のライオンか。こりゃかなり高値だな…。生け捕りした場合はサンドラ様に献上と言う条件が付いている。金額は…三千万マダー!? 殺した場合は一千万…、そりゃ生け捕りだろ!」

「三千万、屋敷が買えるぞ?」

「バカ、俺達騎士はその十分の一だ。貴族様みたいにバカ高い参加費払ってねぇんだから」

「にしても、このライオンを生け捕りにすれば三百万マダーもらえるんだろ?他の奴隷なんてせいぜい五十万マダーがいいとこだぜ?」

  騎士達は念写画を見ながら鼻息を荒くして話している。

 貴族だけではなく、選ばれたマンダリの騎士も参加できる。貴族程の賞金はないが、それでも荒稼ぎができる。


「あまりその顔に傷を付けないでね。サンドラ様の後に僕が美味しく食べてあげるから」

 放たれる前にあのアレンと言う男娼がスタークの頬を撫で、そう言った。

 背筋がゾッとし、スタークはアレンを睨んで言った。

「気持ち悪いから触るな」

「…隨分生意気な奴隷だな。殺してもお前の首は高値だ、生きて戻ることができるかな?せいぜい逃げ回るがいい」

 アレンはそう言ってスタークの腹を蹴った。



「レオ、行くぞ」

 スタークは奴隷の中で唯一の子供に声をかけた。銀色の髪にキレイな緑色の瞳だった。まるでアリアの髪とカインの瞳のようで一瞬、モヤッとしたが、スタークはそんな自分にフッと笑い、その銀色の髪をくしゃくしゃと撫でてみた。

 レオは豆鉄砲をくらった鳩のように驚き、スタークを見る。

「もしかして…スタークさん?」

 牢屋から出て初めて見るスタークの顔にレオは驚いて顔を赤くした。

「ご、ごめん、オジサンなんかじゃなかった!俺はてっきり…」

「ん、ああ、よかった。顔見てもオジサンって呼ばれたらショックが大きいからな」

 スタークはそう言って笑った。

「スタークさんが…金のライオン?」

「らしいな…」

「たくさん狙われるね」

「だろうな。どうする?俺と一緒に逃げるのは怖いか?」

「…怖くなんかない。寂しいだろうから、俺が一緒にいてやるよ」

 レオの言葉にスタークはフッと笑う。

「それはありがたいな。さ、行くぞ。走れるか?」

「うん」

 二人は走り出し、森の中に入った。

 

 川の音が聞こえ、二人はまず水を飲む。

「まだ熱を持ってるな」

 スタークは自分のズボンの裾を破り、水を浸してレオの背中に当ててやる。

「…熱かっただろ…」

 ヒンヤリと冷たい感覚にレオは唇を噛み、首を横に振った。

「こんなの、大したことじゃない。兄さんはもっと…痛かったはずだ」

__強い子だな。

 スタークはレオの髪をくしゃくしゃと撫でた。

「さて、水場には俺達がいることを見越してハンターが来る。まずは武器の調達からだ」

「どうやって?」

「悪いな、まずはレオを囮にする。ハンターが来るまでここで背中を冷やしといてくれ」

「え?」

「怖いか?」

「こ、怖くなんか…」

「心配するな。貴族が来たら、両手を上げて助けて下さいって言うんだ」

「わ、わかった」

「とりあえず、そこに座って背中を冷やして」

「う、うん」

 スタークはそう指示して繁みに隠れた。


「子どもの奴隷がいるぞ?」

「ああ、これだよ、兄上。ラッキーだな、これ、欲しいと思ってたんだ」

 貴族の若い兄弟が二人、馬に乗って来た。手配書を見ながら痩せた弟の方がそう言った。兄らしき方は肥え、馬が可哀想になる程だ。

「た、助けて下さい!」

 レオは言われた通り、手錠をはめられた両手を上げて叫んだ。

「奴隷にしては綺麗だな」

 二人は嫌らしい笑みを浮かべながら馬から降り、レオに近付いた。

「震えてるじゃないか…可哀想に。僕達の屋敷に連れて行ってやるよ」

「ああ…いいな、この奴隷。たっぷり二人で可愛がって…」

『ガンッ』

 兄の方が後ろから頭を大きな石で殴られ、崩れ落ちた。

「!? 兄上!」

 弟はすぐさま剣に手をかけ、振り向こうとしたが、スタークは手錠の鎖で弟の首を絞め、意識を失わせた。その手際の良さにレオは驚いてスタークを見上げる。

「言っただろ?俺、強いって」

 スタークは二人の貴族を転がしながら笑顔でそう言うと、レオはキラキラとした目でスタークを見つめた。

「さ、武器の調達だ。本当なら服も奪いたいが、手錠をしてるから着れないもんな。まぁ、夜は冷えるから、一応持っとくか」

 スタークは剣を腰のベルトに差し、兄弟からマントを取り上げた。

「ズボンだけでも履き直すか」

 そう言って血まみれになった自分のズボンを脱ぎ、痩せた弟のズボンを剥ぎ取って履いた。

「まるで追い剥ぎだな…」

 兄の持っていた水筒と食料まで奪い、スタークは毛並みの良い馬に跨った。


「スタークさん、王子様みたい…」

「君もか…。ま、とりあえずここを離れようか」

 スタークはそう言ってレオに手を差し伸べ、軽々と持ち上げて自分の前に座らせた。

「魔法が使えれば楽なんだけどな」

「スタークさんの魔法は何?」

「属性は、風、土、雷、烈火だ」

「雷?烈火? 聞いたことない。しかも四つも!?」

「ん、まぁ、古代魔法だからな。レオは? 首輪をはめれたってことは魔力があるんだろ?」

「うん、でも何の属性かは分からない。焼印を押された時に兵隊が二人、意識がなくなったみたいで、俺のせいだって首輪をはめられたんだ」

「それまでは魔法を使ったことは?」

「生活魔法なら得意だよ。でも今まで攻撃魔法はなかった」

「…焼印を押された時に発現したんだろうな」

 スタークはそう呟いた。

『ビービービー!』

「!?」

 いきなり二人の首輪から大きな音が鳴り出した。

「なんだ!? この音は!」

 耳をつんざく不愉快な音にスタークは驚いた。

「…ハンターに場所を知らせるための音か!」

 スタークはそう言って辺りを見回した。音に気付き、駆けつけた騎士が馬に乗る二人を見て驚いている。

「貴様ら…奴隷の分際で馬に乗るとは…」

「待て、こいつ…金のライオンだ!」

 二人の騎士は顔を見合わせてニヤリと笑った。 

「ス、スタークさん、逃げよう!」

「いや、逃げても無理だよ」

 そう言ってスタークはそう言ってレオを馬に乗せたまま、自分は降りた。

「まさか、やる気か?」

 騎士達はニヤリと笑う。

「ああ、お前らなんか…こんくらいのハンデがあっても楽勝だ」

 スタークはそう言って手錠をはめたまま、剣を構えた。

「舐められたもんだぜ!ライオンちゃん!」

 騎士達は二人で一斉にきりかかった。スタークは素早い動きで剣を交わし、あっという間に一人を切り倒した。

「スタークさん!」

 もう一人の騎士が火弾を放った。

「おぉ…危な…」

 スタークはそう呟いて火弾を避け、持っていた剣を騎士に投げつけた。

「ぐぉ!」

 剣は騎士の胸に刺さる。

「あぁ、騎士が剣を投げるなんてマリウス団長に怒られそうだ」

 スタークは持っていた剣の代わりに騎士の剣を手に入れた。

「スタークさん、本当に強いんだね」

「言っただろ?」

 二人は再び馬に乗る。十分程であの不快な音は鳴り止んだが、結局、一時間毎に十分間鳴ることが分かった。

 森の中で首のない奴隷の死体を何体か見かけた。その後も何度か襲われたが、スタークは全員を倒してしまった。


 夕方になり、貴族達は森の広場にあるテントに戻る者もいた。スタークとレオは川の上流の岩の陰に身を潜めた。

 スタークは何度もレオの背中の火傷を濡れた布で冷ましてやり、レオもスタークのムチの痕を拭いてやった。

 夜の闇が森を覆って来る。一時間毎の不快な音は容赦なく鳴り響く。

 二人は焚き火をしながら、貴族達から奪った携帯食を食べる。

「うまい!この干し肉…貴族達はこんなうまいもの食べてんのか…」

 感動しながら干し肉やパンにかじりつくレオを見てスタークはクスッと笑う。

「腹が減ってるからだろ」

「スタークさんは違う国から来たから知らないだろうけど、この国じゃ貴族以外は皆貧しいんだ。俺を売ったオバサンも本当はそんなに悪い大人じゃない」

「…けど、君を奴隷にしたんだ」

「貧しいのに…十歳までは育ててくれた。毎日じゃないけど、パンもくれたし」

「…この国には孤児院はないのか?」

「なにそれ」

「親のいない子供達を育てる施設だ」

「親がいなければ奴隷になるしかない」

「…」

「スタークさんは、騎士なんでしょ? 結婚はしてるの?」

「まだだ」

「恋人は?」

「ああ、いるよ」

「どんな人?お姫様みたいな感じ?」

 レオの質問にスタークは月を見上げる。

「お姫様だけど、そんな感じじゃない。月の女神みたいな人だよ。強くて…綺麗で、笑うと可愛い」

「へぇ…月の女神か。スタークさんがこんな所にいるのは知ってるの?」

「ここにいるのは知らないだろうな…」

「じゃあ、早く帰ってやらなきゃ、心配して待ってるよ、きっと」

「ああ」

「明日の昼まで捕まらなければ…」

「サンドラが約束を守ると思うか?」

「…分からない。サンドラじゃなくてオニキス様が王になればいいのに」

「オニキス?」

「うん、城の塔に捕まってるって噂なんだ。サンドラとは母親が違う、前王の息子。前王は病気で死んだことになってるけど、多分サンドラの毒で死んだんだ。オニキス様も小さい頃から身体が弱く、前王が亡くなった時に塔に閉じこめられたみたい」

「なんでサンドラはオニキスを殺さないんだ?」

「オニキス様はこの国のシールドを張ってる。だから、サンドラはオニキス様を殺せないんだ。サンドラの魔法は毒だけだから」

「サンドラは毒魔法か…」

「マンダリの奴隷がなぜ国の外に逃げ出さないかわかる?」

「…それもそうだな。なんでだ?」

「マンダリの国境にはオニキス様のシールドが張られ、そのシールドにはサンドラの毒が混ざってるんだ。シールドを破り国境を越えたらその毒にやられて死んでしまう」

「…なるほどな」

「オニキス様は優しい王になるって昔、おばさんが言ってた。奴隷制度をやめてくれるかもしれないって…」

「…なるほど」

「…約束を守るかどうかは分からないけど…明日の昼まで捕まらなければ、首輪を外してもらえるって他の奴隷が言ってた」

「…首輪を外すねぇ」

__そんな馬鹿なことはしないだろう。逆に殺されかねない。

「だから…自由になったら、俺はこの国を出る」

「ならラスタはどうだ?孤児院もあるし」

「…もし、ラスタに行ったら…俺も騎士になれるのかな?」

「ああ。ラスタでは平民も貴族も関係なく試験に合格すれば騎士になれる」

「元奴隷でも…?」

「関係ない。それに、ラスタに帰ればその背中の焼き印は消してもらおう」

「…なんか、ちょっとワクワクしてきた」

 レオの笑顔にスタークは少し癒され、微笑んだ。

「俺が見張っとく。どうせ一時間おきにこのうるさい音が鳴るが、眠れるだけ眠っとけ」

「うん…ありがとう、スタークさん」

 そう言ってレオは眠りについた。


__さて、どうするか…。首輪を外すには鍵が必要だが…結局…またあのムカつく顔を見に戻るしかないか。サンドラを殺せば国が混乱すると思ったが…オニキスと言う王位継承者がいるならどうにかなりそうだな。

 スタークはそう考えながら、途切れた薄い雲の間から出てきた三日月を見つめ、アリアの顔を思い浮かべ、ため息を吐いた。



 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ