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奴隷の呪いと  作者:


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74. ミズリア・シュナイデン

 カインは重力魔法で体重を軽くしたアリアを左腕でしっかりと抱き、ジオルグのサンティアナの町医者、ミズの魔力と繋心を辿った。


「…カイン、空間移動って気持ち悪いのね。内臓がよじれる感じがする」

 アリアはそう言って口を押さえた。ラスタを出る前にたくさん食べた食事が出てきそうなのを必死でこらえる。

「大丈夫? 空間移動は距離が長い程、身体に負担がかかる。僕もこの距離は初めてだし、アリアを運んだからちょっと貧血気味だ」

 カインはそう言って水筒の水を飲んだ。

「…で、これは成功なの?」

「うん、この家だ」

 カインは確信したように診療所のドアをノックした。 

「すみません、ミズさん」

 カインはドアを開け、診療所を覗き込んだ。

「診察は昼からだよ…あ!お前さんは…!?」

 白衣を着た女医のミズはカインの顔を見て驚いた。

「あぁ、良かった。お久しぶりです、ミズさん、覚えてますか?」

「忘れるわけないだろ?カイン。こんな所になんで…あのもう一人のイケメン騎士は…」

 ミズがカインの後ろにいるアリアに目をやった。

「まぁ…こりゃ随分とベッピンな…!?」

 そう言いかけてミズはアリアの顔を見て持っていた薬草の束を落とした。

「あ、妹のアリ…」

 カインがそう紹介しかけたが、ミズはその場で跪き、アリアに頭を下げた。

「ミズさん、どうしたの!?」

 カインが驚く中、アリアはミズが落とした薬草を拾い、自分の唇に人差し指を当てた。

「カインの妹のアリアです、…ハジメマシテ」

 アリアの「ハジメマシテ」の言葉に反応し、ミズは少し震えながら頷き、口を開いた。

「あぁ、驚いた。知り合いに似てたんだよ。さぁ…お入りください」

 いつになく丁寧な言い方にカインは少し驚きながら診療所の中に入った。診療所の中は前回よりも物資が充実している。

「あれから同盟軍が来て必要な物資を定期的に送ってくれるようになったんだ」

「パウロとナイルはどうなった?」

「二人は元気に農場で働いてるよ。週に一回、わざわざ野菜を届けてくれるよ」

「よかった。…ミズさん、今日ここに来た理由なんだけど」

 二人はここに来た経緯を話す。


「ネリ将軍が魔物に…。隣国のマンダリはサンドラと言う、とても恐ろしい女帝が支配してるよ。マンダリはこのジオルグも自分の領土にしようとしている。この国はもう国家として機能してないからね」

 二人に茶を出しながらミズはそう言った。

「今、大陸同盟がこの国の人々を救うために動いてます。魔薬や奴隷を推奨する国に支配されるなんて許されない」

「マンダリじゃ、狩りと称して度々、貴族や王族達が奴隷を獲物に見立てて、奴隷狩りをするんだ。虐め、いたぶり、残酷な殺し方をして競ってる。ほんとに狂った奴らさ。」

「狩り!?」

「ああ、そうだよ。奴隷が足りない時は売られた子供にまで奴隷の焼印を押して参加させるって話だ」

「ひどいことを…」

「ミズさん、スタークを助けるにはどこから入ればいい?」

「あの国の国境は危険だ。国境には特別なシールドが張ってあり、奴隷が逃げるのを阻止してるのさ」

「特別なシールド?」

「ああ、女帝サンドラの魔力だ。検問以外の境界線には触れると死ぬカーテンみたいなシールドが張ってあるんだ」

「触れたら死ぬ?サンドラの属性は?」

「属性は闇。特に毒を自由に操れる。シールドに触った者は毒にやられたのと同じ症状が出る」

 ミズの話にアリアは不安そうに唇を噛みしめた。

「…検問から入るしかない」

「危険だよ? 本当に行くのかい?」

「もちろん」

「 スタークはアリアの婚約者なんです。絶対に助け出す」

 カインとアリアの決意を目にし、ミズは大きくため息を吐いた。

「それならば、いい案がある」

 ミズは立ち上がり、棚の中から金属でできた首輪をテーブルに置いた。

「これは…」

「そう、奴隷の首輪だ。壊れちまってるがね。この首輪を付けて入るんだ。アリア様、いや、アリアが奴隷、カイン、あんたが奴隷商の役だ」

「え!? 僕がアリアを売るの?」

「それが一番自然ね。カイン出来るわよね?」

「うっわ!スタークや父上達に殺されちゃうよ!」

「怪しまれずにマンダリに行くにはこれしかない」

「ミズさん、奴隷の服はどんなのですか?」

「ああ、こないだ保護した子の服がある。これだよ」

「これ…服じゃなくて布だよ?」

「奴隷は背中の焼印が見えるように、男は上半身裸、女はこれで胸を隠すだけだ」

「ムリだ! そんなことしたらスタークが…僕が奴隷に…」

「女に奴隷商は無理がある」

「カイン、大丈夫よ。ちょっと着替えるから、外に出といてくれる?」

「あ、ああ」


 アリアはミズと二人きりになると声が漏れないように防音魔法を使う。

「…やはり、ダリア姫ですね? 元宮廷医師のミズリア・シュナイデンです。王妃の出産であなたを取り上げた医師です」

 ミズはそう言って頭を下げた。目には涙が溜まっていた。

 幼い頃に白衣を着た、凛とした女医に世話になった記憶がうっすらとある。

「…お久しぶりです。と言っても、幼い頃の記憶はあまりないのですが…」

 ミズはアリアの顔をじっと見つめた。十二年前のクーデターで死んだはずの姫が大きくなって会えたことに胸が熱くなる。

「ご無事で良かった…。こんなに美しくなって。…若い頃の王妃様に似ています」

「…ダリアの名は捨てました。今はラスタ王国で騎士として生活しています」

 アリアは申し訳なさそうな顔でうつむいた。ジオルグに対して、王族として罪悪感がある。

「…心配いりません。十二年前にジオルグの国は王族と共になくなりました。あなたはあなたの人生を生きてください。あなたを生かしたあなたを愛する者達は、あなたの幸せを願っています」

「あリがとう、ミズさん」

「スタークは私達の恩人です。必ず助けてください」

 アリアは騎士の制服を脱ぎ、ミズに背中の奴隷紋を見せた。

「!? これは…」

「ネリ将軍に取り憑いたジゼルと言う魔物にかけられた呪いです。スタークも私の呪いを半分、引き受けてくれたんです。スタークの背中にも同じものが刻まれている」

「愛されてるんですね」

「はい。だから、必ず助けます」

 アリアはそう言って奴隷用の布を胸に巻いた。


「どう?カイン。セクシー?」

 アリアは胸だけを隠し、下はヒラヒラとした白い質素な布を腰に巻いてカインに見せた。カインは顔を赤くする。鍛えられた腰のくびれと胸の谷間に目のやり場がない。

「な…これ…絶対、スタークに怒られる!」

「おへそが出てるから? この国は暖かいからいいけど、ティクルでこんな格好したら風邪ひいちゃうわね」

「アリア…やっぱり奴隷なんて…」

「大丈夫よ」

「大丈夫じゃないよ、こんな格好じゃ、男達が皆アリアに注目しちゃうじゃないか」

「確かにねぇ、美しすぎる。髪や瞳の色は変えれるかい?」

 ミズの言葉にアリアは変化魔法で髪と瞳を茶色にする。

「ダメだ、まだ綺麗だ」

「肌を浅黒くできるかい? あと、鼻を低く、目を細く…シワとたるみを出すんだ」

 ミズの指示にアリアは素直に従う。

「これでどう?」

 アリアの容姿は四十過ぎの中年の女だ。

「すごい…なんか、普通のオバサンだ。母上よりも歳上に見える」

「別人だね。まぁ…これくらいしなきゃ、男共が発情しちまうからね」

「発情!? ァ、アリア、もっと年取ったようにした方が…」

「もう、カインったら本当に心配性なんだから」

「あまり年寄りだと買われないからねぇ。あと、声が違和感があるね。声も変えれるかい?」

「楽勝よ。どう?」

「完璧だ。これに手錠と首輪をすれば、奴隷に見える。カインももっと歳を取らないと、奴隷商には見えないよ?」

「そ、そうだね」

 カインは自分の顔に髭を生やした。

「…なんかお祖父様に似てるわ。その顔で奴隷商は似合わない。もっと悪い感じにできない? ドーベル伯爵みたいな感じ」

「あ、確かに。ドーベル伯爵は悪人顔だもんな。本当は良い人だけどね」

 カインは変化魔法で割腹の良い、腹黒そうな中年の男に変化した。

「…これ、スタークも私に気付かないわ、きっと。歳も、声まで違うんだから」

「その方がいいんだ。敵を騙すにはまず味方からって言うでしょ?スタークがアリアだと気付いたら大変だ。そんな格好させた僕が怒られちゃう」

 カインはそう言って自分のマントをアリアにかけた。

「そうね。…じゃあ、急ぎましょう。ミズさん、色々ありがとう。また帰りに寄るわ」 

「あリがとう」

「くれぐれも気を付けて」

「はい」

 二人は馬を手配し、ジオルグとマンダリの国境まで走った。








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